きみとぼくは、でこぼこ。


 *凸凹ラビング*


 「ねぇねぇ」

 そんな声が聞こえた気がした。

 放課後ということもあるのか、図書室には2、3人しかいない。

 とりあえず僕は、見ていた本に視線を戻す。

 …さっきから、探している本が見つからないのだ。

 「ねぇ」

 言葉と同時に、制服の袖を引っ張られる。

 引っ張られた方に視線を向けると、

 頬をプクっとリスのように膨らませた女の子が立っていた。

 「気のせいじゃなかったんだ…」

 思わず呟く。

 「へ?なんて?」

 女の子は聞き返すが、僕は言い直さず、彼女の頭に手を乗せる。

 「なんでもないよ、どうした?」

 「どうした?じゃ、ないよっ!探してたんだよ~!」
 
 彼女はさっきよりも大きく頬を膨らませていた。

 ちなみに、会話はあくまでも小声で。

 僕はとりあえず、膨らんだ頬を人差し指でつついてみる。

 すると彼女の目尻が下がる。

 「探してたのか、ごめんね」

 素直に謝ってみると、彼女が笑いながら首を横に振る。

 「いいよっ!優斗はすぐに見つけられるからね~」

 「ゆずはなかなか見つけられないけどね」

 僕が言うと、軽く腕を叩かれる。

 宮崎優斗、身長182㎝。

 斉藤ゆず、身長147㎝。

 身長差、35㎝のカップルである。

 彼女は、放っておけば中学生にも間違えられるが、立派な高校2年生である。

 「優斗、何か探し物?」

 「ん…実はね。この本を探してる」

 本のタイトルと作者を書きこんだメモ用紙を彼女に見せる。

 「わたしも協力してあげようっ!」

 「ありがとうね、ゆず」

 それから10分くらい探していたが、

 閉館の時間になったので追い出されてしまった。

 「見つからなかったね」

 彼女は、がっくり肩を落としながら歩いている。

 髪を二つに結えているその姿は、まさに中学生だ。

 「そんなに落ち込まなくても…ありがとうね、ゆず」

 「ごめんよ、優斗。わたし、役立たずだよね~」

 ゆずは悪くないのにな。このまま帰してしまうと、

 ゆずママに心配をかけてしまう。

 「ゆ~ず!」

 僕は足を止め、でも歩き続ける彼女を呼び止める。

 くるん!とこちらを向く姿がかわいらしい。

 「クレープ!何食べたい?」

 「え…?チョコバナナ?え?でもなぜクレープ?」

 「…食べたくなったから。ゆずちゃん、付き合ってくれますか?」

 キョトンとした顔から、一瞬で笑顔に変わる。

 「じゃあ、あそこの公園のベンチで待っててね」

 公園には、少しの遊具と、ベンチと、子どもが何人か遊んでいる。

 僕は移動式のクレープ屋さんへ向かって走り出した。

 クレープ屋さんは列になっていて、3人くらいが待っていた。

 5分くらい待って、チョコバナナクレープを購入し、ベンチへと戻る。

 「あれ…?」

 ベンチに戻ったが、ゆずがいない…まさか…人さらい!!?

 と、思い、辺りを見回したら、ゆず発見。

 わんわんわん!!

 公園の端っこの方で野良犬に吠えられ、完全におびえている。

 ただし、野良犬は小型犬。

 僕の視線に気がついたのか、ゆずがこちらを見る。

 「ゆ~う~と~!!」

 僕は頭をかきながら、野良犬(小型犬)とゆずの方へ向かう。

 「わんこ~、ゆずちゃんが怯えているので、おうち帰ってね」

 言いながら近づいたら、犬の方が怯えて走り去っていった。

 たまにはこの、182㎝の無駄にでかい身体も役に立つんだな。

 自分に関心していると、小さな女の子が僕に飛びついてきた。

 「優斗おそい~!犬こわい~!」

 「はいはい、怖かったね。ごめんね」

 泣いている彼女の頭をポンポンと撫でる。

 「ほれ、ゆず。チョコバナナクレープだよ」

 差し出すと、泣きながらとびっきりの笑顔を見せてくれた。

 「優斗ありがとう!クレープ、クレープ!!」

 彼女はクレープを受け取ると、ニコニコしながら

 ベンチに向かってひょこひょこ走り出す。

 「…嫌な予感」

 僕が思わず呟くと、予感は見事的中し、ゆずの身体とクレープが宙に浮く。

 「やっぱりね、そうなると思ったんだよ」

 更に僕は呟き、ゆずに近づこうとしたが、

 ゆずの方が早く起き上がり、僕に駆け寄ってくる。

 膝には擦り傷。

 「優斗ごめんなさい!!優斗が買ってくれたのに…落としちゃった…」

 語尾が震えている。

 「わたし…役立たずだし…マヌケだし…こんなんじゃ…優斗に嫌われちゃう…」

 彼女の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。

 もう…ばかだなぁ…。

 彼女の涙を手で拭ってあげ、頭をポンポンと撫でる。

 腰を落とし、ゆずと同じ目線になる。

 「こんなことで嫌いになりませんよ、ゆずさん」

 「……」

 彼女はまだ涙を流しながら僕を見つめる。

 「ゆずの、そういうところが、好きなんだよ」

 「…役立たずで、マヌケなところが?」

 僕はゆずの頭をわしゃわしゃ撫でる。

 「役立たずで、マヌケで、可愛いところが、好きなんだよ」

 彼女は、とびきりの笑顔を見せてくれた。

 
 きみとぼくは、でこぼこカップル。

 きみはぼくを頼りにしてくれるけど、ぼくの生活にもきみは必要不可欠で。

 ぼくに足りないところを、きみは補ってくれる。

 だからぼくは、きみをずっと、守ってあげたいんだ。

 
 公園の水道で彼女の膝を洗いながらそんなことを考える。

 「優斗ゆうと!!」

 「ん~?」

 僕はしゃがんで彼女の膝を洗っているから、

 必然的に彼女を見上げる形になっている。

 「わたしのほうが、大きい!!」

 「ふふ…そうだね、大きいね」

 こんなことで喜ぶ彼女が可愛くて。

 「よし、これで大丈夫かな?」

 「ありがとう!優斗!」

 彼女の膝を拭き、僕は立ちあがる。

 「それじゃあ、帰ろうか」

 「うん!」

 僕の左手を、彼女はギュッと握る。

 この小さな右手を、ずっと離さない。

 僕はギュッと彼女の右手を握り返し、誓った。