逆手に構えた小太刀。
首を見据えて、右手を前に突き出す。
辺りから濃い血の香り。香り、なんて綺麗なものじゃないな。匂い、そういったほうがしっくりくる。
死体山と血の海に囲まれ、僕を失いかける。
「千歳、こいつが紅灯無形??すごい堂々と姿見せてるけど、見たやつは皆死ぬみたいなホラーな感じ??」
「ううん、違う。彼は、彼はなんでもない。私にもわからない。わからないわけではないんだけど、なんていうか。」
言葉に詰まる彼女を初めて見た。
「無関係に、無目的に、無頓着に、無表情に、無気力に、無期限に、無差別に、無計画に、無意識に、無意味に、無責任に、無節操に、無制限に、無造作に、無秩序に、無反応に、無防備に、無関心に無価値。それが俺の殺し屋としての立ち位置だよ。なんでもない俺に説明はいらない。もちろん名前もないよ。ななし、だとか無名、だとかって呼ばれることはあるけどな。殺し屋としての呼び名ってだけだ。」
ななしだか無名だかと名乗った男はそういう。
「なんでもない俺はなんにでもなられる。無色透明は物語に色は付けない。だからこそ、俺が空白の辞典を殺しにきた。」
「紅灯無形が狙ってるじゃないのかよ??」
「紅は赤でもって塗りつぶせば景色は変わらない。青は無色透明で塗りつぶせば景色は変わらない。残った白を黒く塗りつぶせば昼夜は逆転する。」
「わかりやすいな。つまり、あんたは<俺>を殺しに来た、それだけなんだろ。千歳はここじゃ殺さない、なら庇う必要もなく、<俺>は<俺>の殺しが、殺人が出来るわけだよ。狂犬に守って戦うなんて出来ないからな。」
伸ばした右手が震える。