白い猫。
小さな人間の坊やと暮らしてる。
その坊やはお城と呼ばれる場所で暮らしていて
坊やは私を必要としてくれていた。
時には坊やの積み木遊びを見守ったり
時には坊やの食事を見守ったり…
あぁ…ほらほら、ほっぺたについてるよ(ぺろり)
そうして何年かが経ち、いつも通り坊やとお昼寝をしていた時のことよ、
知らない大人の人間がやってきて、
『もうアナタはいらないのよ』
こう言って私を城からつまみ出した。
私は突然住む場所を失った。
お金は、この首輪についている分しかない。
『そうだ、坊やに言えば帰れるかも、どうにかしてくれるかも知れない』
私は走り回り、なんとかして城の中に入ったわ。
そこの大広間の大門がキラキラと眩しく、金色一色に輝いていたけれど、
そこには色んな人たちがひしめき合っていた。
法皇様までいらっしゃった。
そこには大きな金色の棺に、金色の献花…そして届きそうで届かない場所から必死に手を伸ばす坊やの姿。
人間の年齢にして15~16歳ほどにまで成長した坊やは、人の群れに押し流されるようにして外にはじき出された。
『まぁ坊や、一体なにがあったの?』
「わからない、わからないけど、お祖父様が亡くなったんだ」
『…………』(だから私、追い出されたのね…)
「だから…ボク、もしかしたら殺されちゃうかも知れない…!」
『…?!』
あのお祖父様が亡くなったという事は、次の王様はお父様になるわね、
そうなると次はこの坊やか、お兄さんが王位継承するんだわ…
━━この国に王位継承権を持つ者は二人もいらない━━
確かに…王位継承を望んでなくても、坊やがこの家系の人間である以上、命を狙われてしまうかも知れないわ…。
「ねぇ、僕、どうしよう…ねぇ、どうしたらいい?僕は独りぼっちになっちゃうの?殺されちゃうの?」
『…………大丈夫よ、あなたは殺されやしないし、独りぼっちにもならないわ』
…あら嫌だ、私ったら何を言ってるの?!
私だってたった今住む場所をなくしてしまって、坊やになんとかしてもらおうと思ってたくらいなのに…!
「あははっ、ありがとう、でも…今だけはいっぱい泣かせてくれないかな」
坊やのいつもの優しい目には大粒のなみだが溢れんばかりに積もっていた。
私がコクンと頷いて坊やから顔をそらしながら寄り添うと、まるで水風船が弾けたかのように泣き出したわ。
「うわぁぁぁぁぁん!!うわぁぁぁぁぁん!!」
『いっぱい泣きなさい』
「うわぁぁぁぁぁん!!うわぁぁぁぁぁん!!」
『いっぱい泣いたら、お腹いっぱい何か食べましょうね』
「うんっ!うんっ!うわぁぁぁぁぁん!!うわぁぁぁぁぁん!!」
ちょっと何を言ってるの、私だって残りのお金はこの首輪についている分しかないのに…!
「うわぁぁぁぁぁん!!うわぁぁぁぁぁん!!うわぁぁぁぁぁん!!」
ま…いっか…
それで坊やがまた笑ってくれるなら…
私と坊やはお城から出て
買い込んだ食べ物を公園のゴミ箱に隠れてお腹いっぱい食べた
坊やは「美味しいね、美味しいよ、ありがとう、ありがとう」って笑った。
私は、それで満足だった。
私も坊やも住む場所がなく、そのまま公園のゴミ箱の中で暮らした。
たまにゴミが捨てられるとそれが頭に当たって痛かったけど、私は坊やと一緒に眠れる事が幸せだったから我慢できたわ。
坊やは働きに出た。
来る日も来る日も懸命に働いた。
暑い日も寒い日も一所懸命に働いた。
毎日汗と泥にまみれた姿でお金を握り締め、パンを持って公園のゴミ箱へ帰ってくる。
パンを分け合いながら食べ
坊やは公園の噴水で体を洗い
またゴミ箱の中で膝を抱えて眠った。
そんなある日、坊やは嬉しそうに私を公園の外へ連れ出した。
なにかと思えば小さな家だった。
「僕たちの家だよ、今日から僕たちはここで暮らすんだ」
小さくても、坊やが脚を伸ばして眠れるだけのスペースはあった。
体を洗う場所や、食事を作る場所もあった。
『頑張ったものね、よく頑張ったものね』
「もうこれでゴミは降ってこないから痛くないよ」
無邪気に笑って言う坊やの優しい気持ちに私はポロポロ零れるなみだを何とか毛繕いしながら誤魔化したんだわ。
坊やは、次の日からも手を抜く事なく、毎日毎日働いた。
嵐の日も、猛暑の日も。
坊やが働けば働くほど、いつの間にかこの小さな家にソファーが置ける部屋ができていた。
そしてテレビがある部屋もできた。
さらにテーブルが置ける部屋もできた。
それはまるでケーキのように、連なって連なって円を描くようにお部屋は次々に増えていきました。
どんなにお部屋が増えても、坊やとはいつも一緒だから、全部の部屋に坊やとの思い出がいっぱいだわ…
ねぇ坊や…
よく頑張ったものね、よく頑張ったものね。
私は幸せ。
坊やと過ごせて幸せよ。
よく頑張ったものね、よく頑張ったものね。
「あぁ僕、頑張ったよ、僕、頑張ったよ。
でも最後の部屋は君の部屋になっちゃった。」
坊やと過ごせて私は幸せよ。
「いつか僕も、そこに行くから、待っててね」
最後の部屋には…
白い猫の写真が一枚飾られていました。
小さな首輪と、かじりかけのパンと共に…。





