座・高円寺で開催されているドキュメンタリーフェスティバル。
今年で17回目だというこのイベントに、初めて参加した。
今回鑑賞したのは、韓国のドキュメンタリー映画『非常戒厳前夜』。
監督のキム・ヨンジン氏は、動画ニュースサイト「ニュースタパ(打破)」の代表を務め、現在は記者として活動する、還暦越えのベテランジャーナリストだ。
おととし12月に当時の尹錫悦大統領が非常戒厳を宣言したのは日本でも大きく扱われたが、この映画を見ればその背景がよくわかる。
ネタバレになるため詳しくは書かないが、ニュースタパは検察のトップだった尹氏の不正疑惑などを報じて大統領候補としての適格性に問題があると、以前から批判を展開してきた。
その後、大統領に就任した尹氏はニュースタパへの"報復"を開始。
検察を操り、事務所や記者宅への家宅捜索を行った。
ニュースタパはこれに屈せず、粘り強い法廷闘争などで、尹氏と妻の金建希氏の不正を報じ続けた。
野党からも追及され、追い詰められた尹氏がとった最後の手段が、国会の機能を一時的に停止させメディアを統制できる「非常戒厳」だったのだ。
初めて知ることばかりだったので、日本ではこのあたりのことはあまり触れられてこなかったのかもしれない。
上映後、来日したキム・ヨンジン監督が会場に登壇した。
日本の記者やジャーナリストも参考になる話ばかりだったので、以下、できるだけ詳しくその内容を記す。
【キム・ヨンジン監督】
今回の映画は、民主主義やジャーナリズムへの共感を引き出すために作りました。
この尹氏の一件でも明らかですが、民主主義は与えられるものではなく守り通さなければならないものです。国民が注視していかないと、一瞬にして崩れかねません。
私の記者としてのモットーは、"権力は腐敗する"ということです。その防腐剤が探査報道だと考えます。
ジャーナリズムがなくなれば民主主義がなくなりますが、逆もまた然りで、民主主義がなくなればジャーナリズムも消えてしまいます。
タパの事務所や貴社の自宅が家宅捜索を受けたことは、今でもトラウマです。当該の記者は家のチャイムが鳴ると、未だにびくびくしてしまうと言います。
私は携帯電話を押収されましたが、今も戻ってきていません。個人情報を権力者がどう悪用するのか、今回の件で新たな視点を持ちました。
ニュースタパは、李明博政権時代の言論弾圧により大手メディアを解雇されたジャーナリストたちが作った、映像探査メディアです。私も元々は公共放送KBSの記者でした。
ニュース広告をとらない"非営利"の、また政治勢力の代弁者にならない"非党派"のメディアです。6500人の後援者の寄付により支えられています。
コンテンツは全て、後援者以外の人にも無料で公開しています。後援者の皆さんも、自分たちだけがニュースに触れるのではなく、より多くの人に見てもらえることを願っているのです。
尹氏が大統領罷免となった日には、公邸前や憲法裁判所前など数百万人の市民が集まりました。
これだけ多くの市民が参加するのは、韓国人のDNAに過去に経験した民主主義の勝利が息づいているからだと思います。
2期目の米トランプ政権は、権威主義が強く混乱をきたしています。そんな中、「韓国人に学ぼう」という声が我々のもとに届いています。
民主主義を汚す指導者を民主主義が打ち負かす事例が増えていけば良いと思います。
「尹アゲイン」を唱える極右はいますが、国民全体を代弁しているわけではありません。
現在の韓国は、尹氏が壊したものの精算をしている状態です。検察改革の動きが進み、検察自体を廃止することが国会で可決されました。
我々ジャーナリストが大事にすべきことは、国民のために正確な情報を取得して、タイムリーに提供することです。
我々は尹氏は大統領にふさわしくないと報じてきましたが、大手メディアは尹氏を大統領にすべく持ち上げ、就任後は妻の金氏の服装がオシャレなどと面白おかしく取り上げてきました。
メジャーなメディアが本当に報じなくてはいけないことに触れず、偏った報道をすることがいかに危険なことか、我々は理解しなければなりません。
大手メディアに任せておけないので、我々は3年前から独立系メディアを育成するプロジェクトを手掛けています。
最近の話ですが、我々は旧統一教会の内部文書について報じ、この文書を日本の2つの独立系メディアと共有しています。
今回の衆院選に出馬している複数の候補者の名前も登場しており、文書を共有した日本のメディアが報じていますが、大手メディアはまったく触れず知らん顔です。
この文書には、日本の大手メディアを買収したという話も載っています。また、高市総理の名前も出てきます。
日本の皆さんが正しい選択をすることを願ってやみません。
記者が権力になびいてしまう背景に、様々な機関の取材をする際にその機関から交付される、許可証の問題があると思います。
許可証があるということは、その機関に従属するということになります。
取材させてもらっているという意識から、記者はその機関が言ったことをそのまま記事にする、ただのメッセンジャー役になってしまうのです。
それが国民の支持を失うことにもつながっていると思います。
検察が事務所などで家宅捜索を行うところをそのまま撮って流しています。韓国の刑事訴訟法では撮ってはいけないということは書いていません。担当検事などによっては撮らせてくれないこともありましたが、我々は記者なのでできるだけ記録しようという姿勢でやっています。
この映画について、検察は上映禁止の処分申し立てがされましたが、裁判所はスルーしています。
むしろこの申し立ては、我々の映画の宣伝に役立ちました。
アメリカは民主主義が発展していると思ってきましたが、その国でさえ、ワシントンポストの記者が家宅捜索を受けたり、ミネアポリスで記者2人が逮捕されたりしています。
油断すると民主主義は後退してしまうのです。
ジャーナリズムと民主主義を守るのは、我々国民の使命です。
