取り返そうとこちらも必死になって止めたが、
『とにかく上で話そうや』
と男たちは急ぎ足で階段を上がっていく。
1階…
2階…
3階…
階を追うごとに不安が募り、子どもたちの肩を抱いた。
『大丈夫やから。
マイフレンド、俺たちについてきてや』
出た、
“マイフレンド注意報”だ
『ヘイ、マイフレンド』
と外国人が声をかけてくることを、ひよこよさんは“マイフレンド注意報”と呼んでいる。
マイフレンドと声を掛けられたら警戒心を決して緩めんという自分なりの注意報だ。
ひよこよさんはユーのフレンドではないし、
ユーはマイのフレンドでもないのだ。
受付であろう場所に着いた時、先ほどの男がケータイの画面を見せてきた。
Booking.comで予約した際のひよこよさんの情報が載っており、このホテルが予約されているという。
そんなはずはない。
昨晩、本来泊まる予定であったホテルから来た連絡では違うホテルを予約することで了承したはずである。
すぐさま昨晩の受付女性に電話をかけ、
『昨日の話と違うやないか』
と伝えると
『昨日のホテルは予約が取れんかったんや。
そこも同じやろ、何があかんねん。』
と言ってきた。
同じちゃうわ
『予約が取れるホテルを提示してきたんちゃうんか。
何があかんてとにかく汚いねん。
我々が本来予約してたホテルと同等のホテルを用意すべきやろ。』
と夫が話してくれたのだが、
『どこも同じやろ、知らんけど。』
と電話が切られた。
終わった
分かったことは、ひよこよさんたちのスーツケースを運び入れた男たちは何も悪くないということである。
おそらくはただ、受付女性から
『この家族が泊まるから』
と客の横流し連絡を受けただけであろう。
諸悪の根源は予約したホテルの受付女性なのだ。
『マイフレンド、部屋を見て』
とこの世の終わりのような顔をしているひよこよさんに男たちは言う。
4人家族なのにベッドは2つで、
(セミダブルとシングル)
洗面所の電気を点けると同時にけたたましいラップ音のような爆音が鳴り響き、
シャワーはお湯売り切れごめんのボイラー式。
トイレットペーパーホルダーもなく、
残りっ屁のようなトイレットペーパーが2つ。
『マイフレンド、ここに荷物を入れて』
と言われた物入れは砂まみれ。
しかし時刻は20時間近。
0時起きで飛行機も乗り継いだこともあり、今から新しいホテルを探す気力がもうない。
マイフレンド注意報が飛び交う夜の街を、大きなスーツケースを2つ転がしながら子どもたちと移動するのも危険である。
ひよこよさんはマイフレンド男に言った。
『マイフレンド、ここに泊まるわ…』
マイフレンド男のフレンドになったひよこよさんは、電話対応した受付の女を末代まで呪うと心に決めたのであった。
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