目指すはイギリス•ロンドン。
土日に1泊ロンドンひとり旅である。
ロンドンには駐在している友人が住んでいる。
ウラジオストク時代に知り合った友人と、
モスクワ時代に知り合った友人の2人である。
当時様々な悩みや苦悩を分かち合い、共に生き抜いてきた心の友がロンドンにいる———
ポーランド駐在が決まった時から会いに行こうと決めていた。
そしてついに出発の日を迎えたのである。
朝の5時だというのに、ワルシャワ空港は人でごった返していた。
なぜか前日にオンラインチェックインが通らず、
カウンターでチェックインをせねばならないので早めに空港へ到着したのだが、それでも不安になるほどの長蛇の列。
並び始めて45分が過ぎたあたりでようやくチェックインカウンターが見えてきた。
横並びに広がるカウンター数は10ほどであったが、開けているカウンターは2ヶ所という強気の姿勢である。
『これじゃなかなか進まんわ』
と思っていたその時、ショートボブヘアのおばさまが急にひよこよさんの前に並び始めた。
『ん?』
と思って一瞬かたまった。
横入り?
このおばさまは横入りおばさんなん…?
一気に思考を回転させ、どうしようか迷った。
迷った末にひよこよさんは、意を決しておばさまの肩を軽くたたいた。
『もし。
私並んでますねんけど…』
するとおばさまは早口ポーランド語で、
何やらひよこよさんの前にいた男女を指差し、
彼らはおばさまの連れであり、列に戻ってきたのだと言っているようだった。
そんなわけはない。
45分もの間、ずっとひよこよさんは前に並ぶ若い男女の熱々いちゃこらカップルを見てきている。
誰も寄せ付けないほどのいちゃこらを目の前で45分間繰り広げられているのだ。
しかもおばさまが入ってきた時にカップルはおばさまを一瞥したが、無反応であったがゆえに知り合いとは思えない。
ひよこよさんは迷った。
言うべきか、放っておくべきか。
いつもなら放っておくかもしれない。
もしくは
『急いでおって…申し訳ないな』
みたいな姿勢であったら前に入ることを許したかもしれない。
が、今のひよこよさんとて時間に余裕があるわけではない。
チェックインカウンター後の手荷物検査が更なる長蛇の列であることは明白である。
そして何より前のいちゃこらカップルの連れだと嘘をついて、さも当たり前のように前に入ってきたことがどうしても納得いかなかったのだ。
ひよこよさんはもう一度おばさまの肩をたたいた。
『私はここに並んでるんや。
申し訳ないんやけど、おばさまもちゃんと並ぶべきやで。』
と英語で伝えた。
するとおばさまは高速ポーランド語で話しながら手のひらを自らの頭に乗せてぱたぱたと動かした。
『ポーランド語は分からんよ。
おばさまは後ろから並んでや。』
とひよこよさんは負けじと列の最後を指差す。
おばさまは大きくため息をつきながら、
再度頭の上で手のひらをぱたぱたと動かした。
さっきから何やねんそれ
ヘーベルハウスか
そしてひよこよさんはおばさまの前にぐいっと入り、定位置のいちゃこらカップルの後ろについた。
あんなにご馳走さま過ぎると思っていたカップルのいちゃこらが、また目の前で見られることに感謝と幸運であるという気持ちさえ生まれる。
しばらくしておばさまを探すと、後ろの方でまた他の人と揉めているのが確認出来た。
やはり強気ヘーベルハウスではどうにもならないのであろうから、ちゃんと並ぶべきである。
一悶着あったが、チェックインと手荷物検査を終えたひよこよさんは無事にロンドンへと旅立ったのであった。
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