「パリ行くんか?こっちやで。」
電車でパリ方向へ向かう途中、プラットホームできょろきょろしていたらおじさんが話しかけてきた。
「ここから出る電車がパリ行きや。
待ってたら大丈夫や。」
と、フランス語で言っていたであろうおじさんはフラフラとホームを笑顔で歩いていた。
「めるしーやで、おじさん。」
とこちらも笑顔で応えると、ホームふらふらおじさんは笑いながら片手を上げた。
そしてまたホームできょろきょろしていた旅行者であろう人を見つけると、
「パリ行くんか?このホームやで。」
とホームふらふらおじさんは話しかけていた。
親切な人もいるもんだ。
『フランスに行ったらお店でも接客に期待はしてはいけない。冷たい人が多い。』
と聞いたことがあるが、今回の旅行ではそんな人は1人もいなかった。
ホテルの人も、タクシーでも、レストランでも、みんな優しく親切な人であった。
冷たく当たられたことなど一度もない。
普段ロシアで生活しているから無表情の接客が基準となっているせいなのかもしれない。
が、それを踏まえてもフランスでの接客は素晴らしいものである。
…パリ中心部行きへの電車がホームに流れ込んでくると、ホームふらふらおじさんと目が合ったのでもう一度会釈をした。
するとホームふらふらおじさんはまた笑って片手を上げた。
…なんと素晴らしい出発の出だしであろうか。
人の優しさに触れ、心は暖かくなった。
始発だったので、子どもたちと座っていると、先ほどのホームふらふらおじさんが慌ただしく乗ってきた。
すると1枚の紙を乗客全てに手裏剣のように渡してきた。
『私はホームレスです。ぜひお金を。』
有料の親切
そしてホームふらふらおじさんは電車出発ギリギリで風に乗っているが如くのスピードで全ての乗客からお金を回収した。
もちろんひよこよさんたちからも。
しかしホームふらふらおじさんは120%の笑顔で回収しに来るため、憎めなかった。
それどころか謎に少し晴れ晴れしい。
が、フランス旅行中は度々そういうことがあった。
フランス語で何を話しているか分からないが、電車の中で急に男性が乗客に大声で何かを話しかけたかと思えばその後は子どもが乗客にお金を頼みに来たり。
駅の切符売り場で使う方を仕切りに教えてこようとしてきた人もおそらく金銭目当てであろう。
ロシアではそんなことは一度も体験したことはなかった。
おまりーの散歩の途中に
「お財布落としてもうたからお金ちょうだい。」
とフェイクお財布落としたおじさんなどはいるものの、
『親切とお金を引き換え』たことはない。
とっつきにくく無表情なロシア人であるが、彼らは何か尋ねれば親切に教えてくれる人たちである。
なので初めての体験であった。
親切と引き換えであったということが分かった時、多少のショックはあったがフランスがそのようなことは普通の国なのか、
それとも黄色いベスト運動が起こるほどに人びとが生活難を強いられている今が特別なのかは旅行に来ただけでは分からない。
が、悲しい顔でお金を求めてくる人よりも、笑顔120%でつむじ風のように回収していったホームふらふらおじさんの方が何となくこちらも救われた。
今日も彼は寒い中ホームで案内しているのだろうか。
色々考えさせれたフランス旅行であった。
よろしくおねしゃす。