会社に勤めていたとき、女子社員の一部は昼休みを会議室ですごしていた。
社員の数に対し休憩室があまり広くないため、男性社員が昼食を食べる場所が無くなってしまい、、
総務のオジサンから 「この部屋を使って」 と頼まれたからだ。
昼休み中めいっぱい使って 話しに花を咲かせることができるので こちらにとっても都合がよく、
遠慮なく会議室を使わせてもらっていた。
話題は、しばらく前に退職した 「みーちゃん」 のことになった。
見かけは派手だけど 中身は純粋で、 社内では老若男女問わず評価の良い子だった。
「みーちゃんさあ、ずっと前に 掃除屋さん（ビルクリーニング）から花とかもらってたよね」
「あー、あったあった。 あの、二人来るうちの 背が小さいほうの人からでしょ」
「困ってたよねー、みーちゃん彼氏いるし」
「掃除に関係ない日でも、みーちゃんのこと見に来てたらしいよ。花を持ってきたとき言ってたみたい」
「まじでー！！」
「なんか、ストーカーちっくじゃない？」
「『会社の周りをウロついたりして、ご迷惑をかけているんで、お詫びとして受け取ってください！』
って言われたんだって…。誰も知らなかったから、お詫びも何もないんだけど。」
「みーちゃん、 『個人的にじゃなくて、このお花は会社としていただきます』 って断ったんでしょ？
そしたら、 『会社としてだったら受け取らなくて結構です、捨てますから』 とか言われたらしいよ」
「…一途と言おうか…･･･一方的だねえ」
「みーちゃん、受付だったからさー、掃除屋さんが来たとき窓口になるじゃん。ビミョウだよねえ」
「ねー。 辞めたのは それとは関係ない理由だけど、けっこう迷惑だよね」
「みーちゃん、何してるかなー、久しぶりに会いたいなー」
…………そして話題は他の事へ移り、昼休みは終わった。
翌朝、出社すると、会社の玄関脇にある来客用駐車場に 乗用車が停まっていた。
中に人がいるようだ。朝一の約束の人が、早く着きすぎたのかな。
そんなことを思いながら車の前を通り過ぎると、あわてたようにガチャッと車のドアが開いた。
掃除屋さんだった。
あきらかに掃除の作業服ではなく、休日の朝っぱらからわざわざ出向いてきた感じ。
しかも、 この会社の女子社員である私 を確認して慌てて車を降りたのだ。
え。 ちょっと、何この人っ！ こわっ！！
怪しげな雰囲気に驚いた私は、総務のオジサンを呼ぶために事務所に走った。
掃除屋さん 「あのっ、ちょっとっ……」
なにせ昼休みの会話から、昨日の今日だ。聞く耳持たずに玄関に飛び込んだ私の視界のすみに、
一週間ほど前に入社した 別の女子社員が見えた。
私にスルーされた掃除屋さんは、その子に的を変えて話しかけた。
掃除屋さん 「あのスイマゼン、
あの方、辞められたんですか！？
受付の、髪が長い、あの…… 」
別の女の子 「え、わ、わたし知りませんっ！！！」
とにかく総務のオジサンを玄関に向かわせ、掃除屋さんを追い返してもらった。
オジサン 「何しに来たんだ？アイツ」
私 「みーちゃんが辞めたかどうか、聞きに来たみたい……」
オジサン 「なんで？あの子、辞めたの もう何ヶ月も前だろ？」
私 「きのう 私たち、昼にそのこと喋ったばっかりだったんだよ。
あの会議室、盗聴器でもついてるんじゃない？」
オジサン 「確かに偶然にしちゃ できすぎてるなあ…」
掃除屋さんは二人で来るが、すべてを二人そろってやるわけではなく、
一人ずつに分かれてやる作業も少なくない。
会議室を掃除するフリをすれば、盗聴器をコッソリ付けることも可能だと思ったんだけど。
……結局 会議室と言ってもサブ的な役割の部屋だったため、盗聴器の有無は確認せず、
今年の夏に新たな事務所を構えるために 元の事務所は改築するらしい。
みーちゃんとは時々連絡を取り合っていたが、
１年ほど前からメールも年賀状も返事が来なくなってしまった。
返事を無視するような子ではないんだけど
他の子に聞いても 「連絡が取れない」 と言う。
みーちゃんが無事でいることを 心の中で願う 今日この頃です。