内田樹の「街場のメディア論」を読んだ。

マスメディアの役割や、出版業界の衰退を論じている。内容の割には読みやすかった。


その中でも私が印象に残ったパラグラフを。
『公的な措置によって、私人がその利益を守られたことについては「当然の権利」であるとして無視し、多くの人の利益を守った公的措置によって生じた「コラテラル・ダメージ」については、被害者の立場から補償を要求する。これが「クレーマー」たちに共通する発想法 。』
上手くクレーマーの思考をまとめてあると思った。

行動経済学にプロスペクト理論というものがある。
ようするに人間は「得する」より「損をしたくない」気持ちに大きく影響を受けやすいというものだ。
そして現状維持バイアスも持ち合わせている。浮気性の恋人とは早く別れればいいのに、ずるずると付き合い続けてしまうのもそれだ。

損するのを嫌がり、変化を嫌うのは皆共通だから仕方無い。
しかし、その感情をそのまま行動に移してしまうと人はクレーマーになりうる。

人が主張するかしまいかグレーになっている事例に、マスメディアが入り込んで世論を動かす。主張が通るとそれが前例になり、取り敢えず私も声をあげてみようと次々と人が続く。

“マスメディアがそう言っていたから”を無意識に判断基準に定め、自己判断が出来なくなっている危うさを感じる。かく言う私自身も。

しかしこの情報化社会において、すべてを自己判断で進めるのは頭がどれだけ良くても無理だ。
必要なのはマスメディア断ちではない。何を自分で判断し何を自分で判断しなくてもいいものなのか仕分ける力だと感じた。

二兎を追う者は一兎も得ず。
自分で出した結論ながら、何でも知りたがり屋の私には耳が痛い。

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