"And how are you?" said Peter Walsh, positively trembling; taking both her hands; kissing both her hands. She's grown older, he thought, sitting down. I shan't tell her anything about it, he thought, for she's grown older.
Virginia Woolf    Mrs. Dalloway
「調子はどうだい?」ピーター・ウォルシュは震えながら言った。彼女の両手を取り、キスをした。座りながら、老けちゃったな、と彼は思った。このことについては何も言わないでおこう、彼女は老けてしまったんだから。

He's very well dressed, thought Clarissa; yet he always criticises me.
Here she is mending her dress; mending her dress as usual, he thought; here she's been sitting all the time I've been in India; mending her dress; playing about; going to parties; running to the House and back and all that, he thought, growing more and more irritated, more and more agitated, for there's nothing in the world so bad for some women as marriage, he thought; and politics; and having a Conservative husband, like the admirable Richard. So it is, so it is, he thought, shutting his knife with a snap.
"Richard's very well. Richard's at a Committee," said Clarissa.
And she opened her scissors, and said, did he mind her just finishing what she was doing to her dress, for they had a party that night?

Virginia Woolf       Mrs. Dalloway
彼はとてもきちんとした服装をしているわ、とクラリッサは思った。なのに、いつも私のことを批判するのよ。
彼女はドレスを繕っている。いつものようにね、と彼は思った。私がインドにいる間ずっと座って、ドレスを繕い、遊び、パーティーに行き、下院まで走り回って、そんなふうにしているじゃないか、と彼は思った。ますます苛立ち、ますます動揺した。結婚ほど、女性にとって悪いものはこの世にない、と彼は思った。政治、そして立派なリチャードのような保守派の夫を持つことほど。そうか、そうか、と彼は考えながら、ナイフをパチンと閉じた。
「リチャードは元気よ。リチャードは委員会にいるのよ」とクラリッサは言った。
そして彼女はハサミを開いて言った。「ドレスを繕っているのを終わらせてもらっても構いませんか?今夜はパーティーがあるのよ」

Virginia Woolf         Mrs. Dalloway

"A bit of a hypocrite?" Mr. Bankes suggested, looking too at Mr. Ramsay's back, for was he not thinking of his friendship, and of Cam refusing to give him a flower, and of all those boys and girls, and his own house, full of comfort, but, since his wife's death, quiet rather? Of course, he had his work. . . . All the same, he rather wished Lily to agree that Ramsay was, as he said, "a bit of a hypocrite."

Virginia Woolf         To the Lighthouse

「ちょっと偽善者?」バンクス氏はラムゼー氏の背中を見ながら言った。彼はラムジー氏との友情のこと、カムが花をくれなかったこと、あの少年少女たちのこと、そして妻の死後、快適ではあるものの、やや静かになった自分の家のことを考えていなかったのだろうか?もちろん、彼には仕事がある。…それでも、彼はリリーにも、ラムジー氏が「ちょっと偽善者」だと言ってくれることを願っていた。

Such a rapture—for by what other name could one call it?—made Lily Briscoe forget entirely what she had been about to say. It was nothing of importance; something about Mrs. Ramsay. It paled beside this "rapture," this silent stare, for which she felt intense gratitude; for nothing so solaced her, eased her of the perplexity of life, and miraculously raised its burdens, as this sublime power, this heavenly gift, and one would no more disturb it, while it lasted, than break up the shaft of sunlight, lying level across the floor.

Virginia Woolf         To the Lighthouse

これほどの歓喜――他に何と呼べばいいのだろう?――に、リリー・ブリスコーは自分が言おうとしていたことをすっかり忘れてしまった。それは取るに足らないことだった。ラムジー夫人のことだった。しかし、この「歓喜」、この静かな視線に比べれば、それは色褪せてしまった。彼女はその視線に深い感謝を覚えた。この崇高な力、この天からの賜物ほど、彼女を慰め、人生の迷いを解き放ち、その重荷を奇跡的に軽くしてくれるものはなかった。そして、それが続く限り、床一面に降り注ぐ陽光の筋を遮るのと同じくらい、誰もそれを邪魔することはできないだろう。

 

 

羊くんとMIKAの文学談義:接続詞 for の誘惑

羊くん:「MIKAさん、今日は接続詞の for について話したくて。高校時代は『こんなの本当に使うの?』なんて先生に生意気な質問をした記憶があるんだけど、ヴァージニア・ウルフを読み始めたら、もう、そこら中に for が溢れていて驚いちゃったよ。特に『ダロウェイ夫人』や『灯台へ』を読んでいると、ウルフはこの単語を確信犯的に使っている気がするんだ。」

MIKA:「ふふ、それは面白い気づきですね、羊くん。高校の教科書だと becausesince に主役を奪われがちですけれど、英文学の森、特にウルフのような作家の庭を歩くと、for はまるで空気を繋ぐ細い糸のようにあちこちに張り巡らされています。あなたが挙げた『ダロウェイ夫人』の一節、ピーター・ウォルシュの独白なんて、まさにその真骨頂だわ。」


意識の澱みを繋ぐ「for」

羊くん:「そうなんだ。例えばピーターが『彼女は年を取ったな』と思い、その後に for she's grown older と続く場面。単なる理由の説明というより、彼の心の中にふっと湧いた諦めや、自分に言い聞かせるようなリズムを感じるんだよね。MIKAさんは、ウルフがなぜ because ではなく for を選んだんだと思う?」

MIKA:「鋭いわね。because はもっと直接的で、強い因果関係、いわば『論理の鉄槌』のような響きがあるけれど、for はもっと柔らかくて、**『付け足しの理由』**というニュアンスが強いの。

ウルフが確立した『意識の流れ』という手法において、思考は一直線には進まないわ。ふとした感覚が湧き、その後に『ああ、そういえば』と理由が後から追いかけてくる。その**『思考の揺らぎ』**を表現するのに、等位接続詞に近い性質を持つ for は完璧な道具だったのよ。

...more and more agitated, for there's nothing in the world so bad for some women as marriage...

この一節もそう。ピーターの苛立ちが募る中で、その理由が溜息のようにもれ出している。これは客観的な事実の説明ではなく、彼の主観的な確信が滑り込んでくる瞬間の描写なのね。」


言葉の根っこ:前へ、そして理由へ

羊くん:「なるほど、溜息のような理由か。語源を調べてみたら、古英語の for は『前に』や『〜のために』という意味だったんだね。ドイツ語の für とかと同じルーツ。それがどうして『なぜなら』という接続詞にまで発展したんだろう?」

MIKA:「語源を辿るのは素敵な旅ね。原始ゲルマン語の fur、さらに遡れば印欧祖語の per-(前へ)に辿り着くわ。

『目の前にあるもの』を指し示し、『〜に代わって(代償)』や『〜を求めて(目的)』という意味を広げていく中で、『ある事象の背後(前)にある根拠』を示す役割を担うようになったの。

羊くん、ウルフの『灯台へ』の引用を見て。

...this silent stare, for which she felt intense gratitude; for nothing so solaced her...

ここでは、まず感謝の対象を示し、その直後に for でその感謝がどこから来るのかを説明しているわ。この重なり合うような構造は、論理を組み立てるというより、感情の地層を一枚ずつめくっていくような贅沢さがあると思わない?」


文学の香りと for の呼吸

羊くん:「確かに。because を使うと、なんだか説明責任を果たしているみたいで少し味気ない気がしてくるね(笑)。ウルフが描く女性たちの複雑な内面や、リチャードのような保守的な夫への皮肉。そういう微妙なニュアンスが、for という少し古風で文語的な響きに乗ることで、より深みが増している気がするよ。」

MIKA:「その通りよ。現代の日常会話ではあまり聞かなくなったけれど、だからこそ文学作品の中で for が現れると、読者は少し背筋を伸ばし、登場人物の『思索の呼吸』に耳を澄ませることになるの。

コンラッドの『ロード・ジム』のような語り物でも、語り手が読者にそっと事情を明かすときにこの for が効果的に使われるわ。

羊くん、次に洋書を読むときは、その for が『論理の鎖』なのか、それとも『心の囁き』なのか、意識して読んでみるともっと楽しくなるかもしれないわね。」

羊くん:「ありがとう、MIKAさん。次に読むときは、その『ささやき』を逃さないように気をつけてみるよ。なんだか、高校時代の僕に『forは大事だよ』って教えてあげたくなったな。」

MIKA:「ふふ、過去の自分に教えるための理由(for)も、きっと素敵な物語になりそうね。