「生まれ変わり」を研究する米国  | 人差し指のブログ

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「 続々・物語をものがたる 」

河合隼雄 (かわい はやお 1928~2007)

(株) 小学館 2002年3月発行・より

 

 

 

 

~  更級日記 文学少女の見た夢と現実 ~

             ドナルド・キーン (Donald Keene 1922~2019)

 

 

 

 

 

キーン 当時、彼女(更級日記の作者)のような女性は、暇が余ってどうし

     ようもないような感じがしますね。

 

 

     読める本は限られていたでしょうし、彼女は何回も何回も 『源氏

     物語』 を読んだことでしょう。

 

 

     ほかに何をしただろうか。

     ある女性は毎晩、恋人が来ることを待ちかねたでしょうが、彼女の

     場合は、そういうことはなかったようです。

 

 

     毎日、何をしていたか。

     料理をしたとは思えないし、洗濯もしなかったし、掃除もしなかった

     でしょう。

     ただ夢想して、いろいろ考えていたのでしょう。

 

 

     そういうときにいちばんの頼りになったのは 『源氏物語』 だった

     でしょう。

 

 

     いろいろ考えて、もしも光源氏のような人が入ってきたら、その場

     合どうするかとか、猫は大納言の娘の生まれ変わりではないかと

     か、そういうことを考える想像力がたっぷり彼女にはありました。

 

 

 河合 物語を読みながら、いろいろと夢想していたんでしょうね。

 

 

     生まれ変わりなんて、あるのかないのかわかりませんが、そう思っ

     てみたら、人生がだいぶ豊かになることはまちがいありません。

 

 

キーン そういうことですね。

     アメリカの大学には、生まれ変わりについて研究する研究所があ

     るんです。

 

 

 河合 いまアメリカで、この問題はすごく関心をもたれていますね。

 

 

     これはアメリカ社会の一つの特徴かもしれませんが、みんなが急

     に関心をもちだした。

 

 

     いまから20年前だったら、前世のことや生まれ変わりの話はみん

     なばかにしたものですが、このごろはパーティーなんかの席でも必

     ず生まれ変わりの話が出ます。

 

 

     そして多くのアメリカ人が、日本人は生まれ変わりを信じていると、

     信じているんです。

 

 

     だからパーティーなんかでも、私に 「日本人はよろしいですね、

     輪廻転生(りんねてんしょう)を信じているから」 といわれます。

 

 

キーン 三十年前、アメリカでは禅ブームでしたが。

 

 

 河合 アメリカ人たちが生まれ変わりに関心をもちだしたということは、

     結局、死後のことを考えた場合に、キリスト教の説明ではみんな

     満足できなくなったということでしょうね。

 

 

     とても最後の審判まで待てませんから(笑)。

 

 

キーン 私のアメリカの友人の奥さんで、信心深いキリスト教の信者がい

     るんですが、京都に住んでいたときに、子どもたちが通っていた

     小学校で生まれ変わりの話が出たんですが、その奥さんは、これ

     はいけないと思って子どもたちを転校させました。

 

 

 河合 ああ、わかりますね、生まれ変わりの話はクリスチャンには絶対

     認められない話です。

 

 

     ところが最近では一般の趨勢(すうせい)として、生まれ変わりの話

     はアメリカでは非常に喜ばれます。

 

 

     それにキーン先生がいわれたように、生まれ変わりを研究してい

     る大学があります。

 

 

キーン 三歳か四歳までの子どもが前世のことを覚えているかどうか調べ

     るんですね。

 

 

 河合 前世療法というのもあるんです。

 

 

     『更級日記』 には 「前世の夢」 が出てきますね、それによると、

     彼女の前世は仏師だったというのですね。

 

 

キーン おもしろいですね。前世が、ただ偉いお坊さんだった、というだけ

     だったらおもしろくありませんが、仏師で立派な仏像を彫って、最

     後の箔を押しているときに亡くなったというところがみごとですね。

 

 

 河合 それで自分が箔を押そうとしたら、もうだれか他の人が箔を押して

     しまったという。

 

 

     だから二重三重に人生を見ていたというか、現実的に見ていると

     ころが彼女のすごいところです。

                               (1998年8月3日)

 

 

 

 

 

                         4月2日の奈良・猿沢池付近

  鹿が見ているのは 「鹿コロコロ」 というビニール製の鹿の玩具です。