信長の「天下布武」と庶民の「天下一」 | 人差し指のブログ

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本を読んで面白かったところを紹介します

 

 

 

「 織田信長   新装版 」

会田雄次 / 原田伴彦 / 杉山二郎

(株) 思索社 1991年9月発行・より

 

 

 

杉山  戦国期の英雄たちが京都を志向する一端には、そうした心情的効

     果を狙った面はあると思います。

 

 

     皇室領やそれに附属する公卿貴族の所領安堵を約束できるとい

     うことは、天下人としての実力を示すことになるし、したがってそれ

     が与える効果も、何らかの形で皇室につながった生活をしていた、

     畿内の寺社や京の市民たちにもおよんだはずです。

 

 

原田  それで政治的に天下一になろうという。

 

     信長の 『天下布武』 というのはそれだったようですね。

 

 

 

 

 

 

原田  天下一という考え方は、この時期には非常にはっきり出てきます

     ね。

 

     ジョアン・ロドリゲスは 『日本教会史』 の中で、当時天下一という

     ことばに非常に注目しているんです。

 

 

     工業の技術でも天下一といわれる頭(かしら)、団体、仲間の頭が

     たくさんあって、その家の戸口には 「筆天下一」 という看板や表

     札をかかげる。

 

 

     中には剣術の師匠もふくまれていて、

     「某、地方の何某、全日本すなわち天下の剣術の達人が某処に居

     住している。相手となってこれに挑戦し、木刀でも真剣でも試合を

     希望する者をさがし求めている」 

     という看板をかけるんで、もしこれに対して決闘の申込みがなけれ

     ば、かれは天下一を認められてしまうなどと書いています。

 

 

     ですから刀鍛冶・人形師・菓子屋・料理人、これみんな天下一を欲

     するので、朝廷に献金して山城掾というような堟号とか、摂津守

     などの受領名をもらうわけです。

     *掾号 掾は令政四等官の一つで国の公文書の審査を主宰するが、近世に太夫など芸

       能者の芸名としても国名と合わせ付けられるようになった。現存の代表例は浄瑠璃にみら

       れる。

 

 

     能面にも天下一某の銘が彫ってあり、天下一釜大工っていうやつ

     もあるし、もう一つ面白いのは吉田光由の有名な和算書の 『塵劫

     記』 の前に出てくる毛利重能という男がいるんですがね。

 

 

     これは 『割算書』 を書いてるんで、日本人が書いた数学書の現

     存最古のものといわれてるんですがね。元和八年に刊行されてる

     んです。

 

 

     この本には算盤の割算のやり方と応用問題が書いてあるんです

     が、その 「あとがき」 に、「今は京都に住む割算の天下一と称す

     るものなり。毛利重能二条京極に塾開いて・・・・・」 などと記して

     います。

 

 

     当時は全国的な交通や商品技術の発展によって、事実上のいわ

     ゆる天下統一が可能になってくる時期なんです。

 

 

     政治的に天下一を目ざしたのは信長だろうけど、まあそこまでゆ

     かなくてもそれぞれの分野でやはり京都へ行って天下一になろう

     というやつはたくさん出てくるんです。

 

 

会田  それは面白い。ただ私の言いたいのは、日本の政治の封建時代

     の特徴は武士だけでしょう、封建時代に社会層として新しく形成さ

     れているのは武で天下一を取ったら日本を征服できる、と思ったと

     ころが面白いんでね。

 

 

     ヨーロッパでは武だけでは駄目です。宗教と文化をつかまえてそ

     れで初めて天下統一できる考え方だけど。

 

 

     信長は天下を武だけでやってゆく。いまの自民党でもそうだけど、

     ぜんぜん文化観念がないでしょう。

 

 

     つまり文化でこしらえないと統一ができないという考えはね。

 

     日本は昔から武の見地っていうか、政治イコール暴力っていうか、

     力一途っていう式だね。

 

 

     平家は文化に屈服した。

     鎌倉幕府は人の心の半分しか支配できなかった。

 

 

     信長じゃないですか、力だけで日本支配を貫徹した最初の男、

     つまり始祖は。

 

                                      

 

 

 

2017年3月22日に ~「天下取り」 は織田信長の発明~と題して井沢元彦の文章を紹介しました。コチラです。↓

https://ameblo.jp/hitosasiyubidesu/entry-12258017644.html

 

 

 

2016年7月29日に~「天下」 の意味が違う日本と中国~と題して高島俊男の文章を紹介しました。コチラです。↓

https://ameblo.jp/hitosasiyubidesu/entry-12174561961.html

 

 

 

 

 

4月9日 多摩森林科学園(東京・八王子)にて撮影