満州の日本人と『歳時記』 | 人差し指のブログ

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「半日の客 一夜の友 丸谷才一・山崎正和対談11選

丸谷才一(まるや さいいち) / 山崎正和(やまざき まさかず)

株式会社 文藝春秋 平成7年12月発行・より

 

 

 

 

丸谷   ところで、五木寛之さんが何かに書いていたことですが、

      満州にいる日本人の家には、どんな家にも必ずあるものが二つ

      あった。

 

             ひとつは、『百人一首』 であり、ひとつは 『歳時記』 であ

      ったというんですね。

 

 

     その 『歳時記』 というのは、多分 高浜虚子の 『新歳時記』 で

     しょう。

 

 

     私は、五木さんのこの指摘は、非常におもしろいなと思いながら、

     しかしそうすると、高浜虚子という男はものすごく儲かったわけだ

     (笑)、と思いましてね。

 

 

     『新歳時記論』 というのもまだ書かれてないんですね。

 

 

     僕は、明治維新後の日本人にとっての重大な本を百冊選ぶとす

     れば、その中の一冊はぜったい高浜虚子の 『新歳時記』 だと思

     います。

 

 

山崎  それはそうでしょう。

 

     まあね、五木さんがいうほどどの家庭にもあったといえるかどう

     かわかりませんが、少なくともわが家には 『歳時記』 がありま

     した。

 

 

丸谷  それは、あなたのところはあるでしょう。

     高級な知識人の家庭だもの。

 

 

山崎  いやいや、私の父親は一介の動物学者ですから、

     決して文学に同情があったとは思いませんけれども、『歳時記』 

     はありましたね。

 

 

     それにつけておもしろいことに、子どもを含めて満州にいた日本人

     は、日本の季節で暮らしていたんです。

 

 

     まったく不合理にも、外が零下十五度でカチカチに凍っていても、

     日本の『歳時記』 に春だぞと書いてあれば、春の句を詠んだんで

     す。

 

 

丸谷  ちょうど、サマセット・モームが書いているマレー半島とか南洋の

     イギリス人の生活と、同じですね。

 

 

 

 

 

4月9日 多摩森林科学園(東京・八王子)にて撮影