心臓手術が必要と言われたとき、日頃から腎臓が悪いと言われている患者さんにとってはより心配が強くなるものです。
とくに腎臓がかなり悪くて近いうちに血液透析が必要と言われている方には、心臓手術がそのきっかけになるのを怖がっても無理ないことです。
あるいはすでに慢性血液透析になっておられる患者さんには、全身の動脈硬化が進行しやすい中を心臓手術など大丈夫かしらとなって当然です。
さらに腎不全の原因として糖尿病をもっておられる患者さんには、それら両方が心臓手術のリスクを高くするのではないかと心配されることも少なくありません。
たしかに腎不全・慢性血液透析は手術をするうえで要注意な病気です。
しかしその一方、そうした患者さんこそ、心臓手術の意義が大きいというのも事実です。
たとえば冠動脈バイパス手術は欧米の大規模臨床研究であるSyntaxトライアルでもカテーテル治療PCIにくらべてより長生きできる、優位性を証明しましたが、
このバイパス手術の優位性は糖尿病ではより顕著で、慢性腎不全・血液透析はさらに光ります。
腎不全だからこそオペを受ける意義がある、と言っても過言ではありません。
そもそも心臓が悪くなれば腎臓に悪影響が及びますし、心不全のために利尿剤などを使うだけでも腎臓には負担がかかります。
心臓病の患者さんは心を治すことが腎臓を守ることにつながりやすいという一面があるのです。
同様に、弁膜症でも、そのための心不全で血液透析ができなくなれば、
心臓手術しか生きる道はなく、大きな意味があるわけです。
実際、手術のあと第一回目の維持透析のとき、
患者さんが「こんなに楽な透析は久しぶりです」としみじみおっしゃったのが忘れられません。
そうしたオペのメリットの反面、慢性腎不全があるときの危険性はどうでしょうか?
かつて慢性腎不全・透析は心臓手術のリスクをかなり上げたものです。
しかし現代は違います。
的確な術前、術中、術後の透析や全身管理で出血を増やすことなく良い全身コンディションが確保できます。
とくに動脈硬化が進行した患者さんでは脳梗塞対策や腹部・下肢動脈の保護も入念に行います。
なかでも上行大動脈が石灰化し、通常の大動脈遮断ができないときも、
中等度低体温とごく短時間の循環遮断で、遮断予定部位の内膜石灰摘除を行うことで安全な大動脈遮断ができるように工夫しています。
その他にもさまざまな工夫を凝らします。
単に腎臓が悪い、というだけで元気になれる可能性が高い心臓手術を差し控えるのは後悔を残すことになりかねません。
十分に主治医と相談され、なっとく行かなければセカンドオピニオンやはば広
い情報収集でベストを尽くすことが生きることにつながります。