1時間くらい眠っていたと思う。

 

会長さんの方を見たら、同じ姿勢で白い壁にもたれかかっていた。

 

失礼な事をしてしまったと思い、体を起こして、「すいません、いつの間にか寝てしまっていました」と謝罪したら、「自分との戦いだから疲れたんだろう」と笑顔で言った後、こちらを気遣う様に、「遠慮はせずに何でも聞いてくれて構わないからな」と言われた。

 

俺みたいな小僧に優しい言葉を掛けてくれる会長さんの懐の深さに感動した。

 

こんな大物と話しを出来る機会なんてこれっきりだと思ったので、お言葉に甘えて遠慮無しに率直に色々な事を質問させてもらった。

 

「K・RのRが破門されてますが、ヤクザの世界では通用しないという事でしょうか?」という質問に対しては、「ヤクザの世界では、自分がどうのこうのいうより、どれだけ組の為にやるかという事が一番大切な事だ」と言っていた。

 

「去年の12月にK区AでC・DとY系組員がドンパチしてC・Dが勝ってしまいましたが、C・Dみたいな半ぐれは掛け合いなんてしても無駄な輩なんでしょうか?」という質問に対しては、「そんな事ないよ、以前、C・DがI知事を拉致するという噂を聞きつけて、C・Dの頭を呼び出して、Iは俺達の仲間だから、少しでもおかしな動きをした場合は報復すると伝えたら、直ぐに詫びを入れてきた」と言っていた。

 

他にも九州のD会に関しては、「絶対に引かない組でNさんとは懇意にしている、D会の顔を立てる為にN会とは一切付き合いはしない」と言っていた。

 

N会に関しては、「金は持っている」と言っていた。

 

途中、二度ほど6室の前を通り過ぎるヤクザが6室の前で立ち止まり、「まさか、こんなところでお会いするとは思ってもみなかったです」と深々と頭を下げるや、直ぐに立ち上がり、「いつもご贔屓頂きまして、誠にありがとうございます」と丁寧に頭を下げ返していた。

 

正に、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉がピッタリだと思った。

 

会長さんとの話しは衝撃的で本当に楽しかった。

 

男として格好良いと本気で思えた。

 

翌日、お昼前に会長さんは釈放される事になった。

 

6室を出る直前に急に、「下の名前は何と言うのか」と聞かれた。

 

答えて良いものかと返答にためらっていると、「手紙を送りたい」と言われたので、名前の呼び名と漢字をお伝えした。

 

6室から出て、出口に向かう途中にこっちを見ながら笑っている。

 

自分には頑張れよっていう笑みに見えた。

 

正座をし深々と頭を下げ見送った。

 

翌日、速達で和紙3枚分の手紙と、現金が届いた。

 

律儀さに感動した。

 

手紙に書かれていた内容は、その時には理解出来なかったが、後の拘置所、刑務所で何度となく励まされる様になり、何度も何度も繰り返し読み返すうちに暗記できるまでになっていた。