オセロ
~想いは心の中に~
第2場「闇医者の日常」
白い天井が見える。
ひと月は眺めていたが、未だに見慣れる事はない。
毎日聞こえる重低音。
少し体を起こせばステージが見えるし、そこにいた踊り子は目の前を通っていく。
病院にしては、患者の安眠を妨げるその場所に、俺は寝ていた。
まともな病院ではない。
それもそのはず、まともな仕事をしていないからだ。
俺は暗殺者。
だからと言って、仕事でへまをした訳ではなく、不摂生が祟ったのか体調をくずしてしまった。
そんな理由であっても普通の病院には行けない。
だからここにいるのだ。
「アンナさん、指名です」
いつも思っていたが何故ここに病室を作ったんだろうか。
女性が男に体を売っていく様を見るのは体調に悪影響だ。
「一之瀬さん、今晩は。体調はどうですか?」
白衣を着て指名を告げていた男が。
定型文を張り付けるように質問を繰り返し、俺の診察を進める。
彼の腕は確かだが、治療費が払えなければ奴隷のように働かされる。
体調をくずしたついでに治療を受けてみたが、どうやら噂は本当のようだった。
予想外に入院することとなった俺は、懐を見る勇気が持てなかった。
「彼女、気になりますか?」
「え?わかります?」
不意にぶつけられた質問に、なんとも言えない答えを出してしまった。
「お金が無いなら手を出さないでくださいね。」
「金さえあればいいのか?」
「ここにいる間はね。しかしプライベートの話であれば、彼女の気持ちがないと…」
「じゃあ無理だよ。」
何故俺は突然ふられたのだろうか。
「白鳥!何だいあの客!色んな意味でよぼよぼじゃないか!」
「アンナさん!仮にもお客様ですよ!そういった方は心を癒して上げてください!」
なんとゆうか…酷いな、この二人。
彼女に同情していた自分を暗殺してやりたい。
「暗殺者だけに?」
独白に入ってこないで貰えますか先生。
「退院しても構いませんよ?」
このタイミングで言うかい?
「支払いの事なんですが」
このタイミングで言うかい?
「テンポでは逃げられませんよ」
だから独白に入ってこないで先生。
「……………すいません!!!お金がございません!」
「はぁ……やっと喋ったかと思えばお金が無いなんて。」
独白なのに話しかけてくるから、ひっちゃかめっちゃかだ。
「一之瀬さん、お金が無いならうちで働いて貰いますよ。」
まさか…
女には夜の仕事があるけど、俺たち男は地下にある労働施設に1800年行き!!
とかそんな事なのだろうか。
「漫画の見すぎですよ。」
すでに漫画みたいなのだが…
「基本男性は雑用やホール業務をしていただきます。」
何か普通のバイトみたいだな。
「住む場所はこの建物内にあるのでそちらに住んで頂きますが、外出は出来ません。」
外出が出来ないって、ちょっと怖いな。
「食事は用意しているのでそれを食べてください。」
何か普通のバイトみたいだな。
「ちゃんと聞いてます?」
「すいません。」
「給料の半分は治療費の返済として差し引かせて頂きます、残りを返済にあてるかは自分で選んでください。」
アメとムチ…
…なのか?
暫くこの世界にいるが…こんなに緩い話は聞いたことがない。
「あなたは全額返済にあてるとおよそ半年くらいで完済になります」
「半年!」
冗談じゃない
この程度の金なら
一回分の仕事でお釣りが来る
「例え腕があっても、金がないなら従って頂きます。」
医者独特の柔らかい語り口とは裏腹に、強い殺気を感じたが、黙っているわけにもいかない。
「一つ仕事の話が来ててよ、話だけでも聞いてもらえるか?」
「わかってないでしょ。」
俺の話を聞いているように見えなかったが話を続けた。
「実はな、暗殺ゲームの招待状が来ててな。詳しい内容はまだわからんが報酬がえげつないって事はわかってるんだ、なぁ参加させてくれよ」
「……駄目です」
やはり、こんな胡散臭い話には乗らないか。
俺だってこんな話を真に受けているわけではない。
「参加するのは駄目ですが、このゲームを探ってください。………貴方なら、そちらの方が得意でしょ。」
……………俺の事はすでに調べていたか。
俺は暗殺の技術がないぶん、情報収集の腕を磨いている。
情報収集を生業とする人間がされては行けないこと。
それは自分の情報を知られること。
どうやら、彼の言う事を聞いた方が良さそうだ。
「暗殺ゲームなんてもの、実行に移せる組織であれば。大変危険な仕事になるでしょう。しかしその分金になる。私の部下をつけるので頑張って下さい。それでは、幸運を祈ります。」
患者の命を救っておいて。
三途の川に患者を立たす。
そんな闇医者の日常