ジョナサン・グレイザーの新作である。


スカーレット・ヨハンソン主演の前作「アンダー・ザ・スキン」は、私的公開年のベストワン映画で記憶の底から時折よみがえる作品。。。なので次作を心待ちにしていた。


取り返しのつかないことをしてしまった。と気づいても取り返しはつかない。そして、多くの人間は気づいていても改めることができない。見て見ぬふりをしていても、自分自身の内部に増えていく澱。


場所、状況、人間関係などは、最小に限られたセリフと映像から想像する。膨らむイマジネーション。時間、空間を超えて第二次世界大戦中のアウシュビッツ収容所の隣に暮らすヘス家族の日常が露わになる。

前作でも効果音が印象的だったが、今作はより洗練されて、語りすぎない鋭利な棘が耳から心に突き刺さり続ける。。。


未来は変えられるはずなのだが、一家は手にした現状を維持し続ける。一度得た権利は手放したくない、人間の業の深さだ。

むしろこの家を訪れたヘス夫人の母親が、収容所の気配に支配された家での滞在に耐えかねて姿を消すのは必然である。


終盤、つかの間、未来の時空間が映し出されるのは、映画鑑賞者に対する「あなたならどうする?」との問いかけと感じた。


10年前に鑑賞した前作で、スカーレット演じる地球外知的生命体とおぼしき主人公は、あるきっかけを境に生きる未来を変えた。

結果、見た目には幸福とはいえない結末に向かうのだが、心・魂は平安を得て終焉に至ったのだと思う。


本作の登場人物達は、今の時間を生きるわたくし達の鏡である。