藤原実資は若い時には道長にライバル心を燃やしたが、彰子が入内して中宮になると、かなわないと悟って歩調を合わせ政務にあたった。

それからの実資を、詳しく見ていこう。

藤原実資は、道長が彰子の婚礼道具の屏風に和歌を公卿たちに求めた時も、ただ一人詠まなかった。

実資は飛ぶ鳥を落とす勢いの道長に、堂々と対抗するだけの勇気と実力を持っていた。

そして実資が道長と張り合うほどの権力を持ち得た秘密が、日記だったのである。

過去の前例などの有職故実が重要視された平安時代は、日記が権力の源泉となったのである。

実資は養父の実頼から莫大な財産と広大な屋敷、そして宮中の儀礼や儀式に詳しい「清慎公記」という日記を引き継いだ。

そのため実資は、公卿たちに宮中の儀礼などを聞かれると「清慎公記」を引っ張り出してきて教えた。

しかし出世欲が強く好き嫌いのはっきりした実資は、自分に有用な人、仲のよい人には教え、それ以外の人には教えなかった。

頭の良い実資は、宮廷の儀礼や儀式の先例をどれだけ知っているかが、公卿の評価基準であることを熟知していた。

実資は「清慎公記」をもとに、自分で約60年間に渡って「小右記」を書き続けたが、当時は日記が権力の源泉になったからである。

実資が日記を書く上で非常に斬新なのは、全部自分で書くのではなく、他人のメモを切り貼りしていることである。

藤原公任や兄弟、息子たちが出席した会議や行事の内容を要約したメモを手に入れて、そのまま日記に切り貼りしている。

そのため日記は膨大なものとなり、現在残っているものだけでも16巻も存在する。

実資は二十歳のころから約60年以上に渡って、そのような地味な作業を毎日続けたのである。

そのため道長は、宮廷の儀礼や儀式などについては、何かあれば実資に聞かざるをえなかった。

そんな実資も道長が彰子を中宮にして前代未聞の「一帝二后」そ実現させると、かなわないとみたのか反対しなかった。

頑固だが、賢明な実資は方向転換するのも早かった。

道長には、自分にない多くの人々を統率するリーダーシップや天性のカリスマ性があると実資は考えたのである。

道長が「一家立三后」を達成して「望月の歌」を詠んだ時、実資は率先して皆と三度も唱和した話は有名だ。

実資は道長が死ぬと、後を継いだ藤原頼通にも仕えて重用されている。

頼通は「有職故実」には詳しくなかったために、道長以上に実資を頼った。

また実資も頼通には何でも心よく教えたため、二人の関係は非常に親しく大変良好だったようである。

鎌倉初期に記された「古事談」には、実資の女性好きを頼通がからかったという偽話が残っている。

藤原実資は、妻に先立たれれると、気に入った下女をよく自宅に連れ込んでいた。

それを知った藤原頼通は、実資に誘われたら桶を投げて逃げるように下女へ伝え、誘われた侍女はその通りに逃亡したという。

後日、実資が訪ねてきた際に、頼通が「侍女が置いて行った桶を返してくれ」と藤原実資をからかったというエピソードが残っている。

藤原実資には4人の妻がいたが、女性運が悪かったのか、すべての女性に先立たれてしまう。

特に、かつて花山天皇の女御だった婉子女王を実資は熱愛して大事にしたが、その女性も27歳で早逝している。

その影響なのか、実資には男の子が生まれず、兄の懐平の子・資平を養子にしている。

長く生きた実子に男児がひとりいたが、母の身分が低かったため、出家して良円という僧になっている。

そんななか、晩年に娘・千古が生まれる。

実資は「1,000年も長生きしてほしい」との願いを込めて「千古」と名付けた。

さらに実資は娘に「かぐや姫」と愛称を付けて溺愛し、娘を入内させようとするが、道長と頼通に阻まれてかなわなかった。

それがダメなら次はと、実資は千古を道長の末子・長家の妻にと望んだが、それも実現しなかった。

最終的に千古は、道長の孫で、父は明子の子・頼宗で、母は伊周の娘である藤原兼頼の妻となって娘を産んでいる。

実資は、溺愛する千古に財産の大半を相続させたため養子には財産をほとんど残さなかった。

さらに、藤原千古もまた、父に先立って亡くなったために実資の家系は早くに没落すことになった。

藤原実資は1046年永承元年に90歳で逝去している。

実資は熱心な仏教徒ではあったが、最後まで現実社会で活躍することを好み、その死に臨んでも出家することはなかった。

【それからの藤原実資】ユーチューブ動画

「光る君へ」に学ぶ日本史 それからの藤原実資 秋山竜次が熱演

「光る君へ」に学ぶ日本史それからの藤原実資秋山竜次が熱演