紫式部は父親の藤原為時を越前に残して帰京すると、以前から求婚されていたまたいとこの藤原宣孝と結婚した。

紫式部の、その後の新婚生活を詳しく見ていこう。

25歳前後の紫式部は998年長徳4年に越前から帰京して、45歳の宣孝と結婚した。

宣孝には紫式部と結婚した時、すでに少なくとも3人の妻と6人の子供がいた。

妻は下総守藤原顕猷の娘と、讃岐守平季明の娘、そして中納言藤原朝成の娘である。

そしてその妻たちにはそれぞれ子供がいて、長男の隆光はすでに紫式部と同じ25歳ぐらいになっていた。

宣孝が派手な性格であることは有名で、清少納言は「枕草子」の「あわれなるもの」の中で、金峯山詣での宣孝の派手な装束を取り上げている。

しかし宣孝は紫式部の父・為時とは対照的で、要領がよく、些事にこだわらない性格で、出世も早かった。

長男の隆光は位階は正四位下だが、越前・筑前・備中・備前と四カ国の受領を歴任している。

また五男の隆佐は、非参議で従三位の大蔵卿にまで上り、兄弟では一番出世をしている。

そして宣孝の子供たちもそれぞれ独立するなどして、皆経済的にも豊かであった。

また、「宣孝の本当の顔」の動画で詳しく述べたが、彼の身内には大宰府に関係する者が多かった。

大宰府は、遣唐使を中止していた日本にとっては唯一貿易を認めていた博多湾を取り仕切る役所であった。

そのため大宰府の役人は、中国や高麗との貿易で、賄賂などで巨万の富を得る者も多かったのである。

宣孝も、紫式部と結婚する直前の992年正暦3年に筑前守と大宰少弐も兼ねているところから羽振りが良かった。

特に書物などから中国文化への憧憬が深い紫式部が、交易を通して海外の知識が豊富な宣孝に憧れるのは当然である。

また社会的に地位が高く信望も厚い宣孝を、20歳以上の年齢差がありながら紫式部が結婚相手に選んだとしても不思議ではない。

彼は公卿にこそ上れなかったが、道長の父・兼家にも重用されていた有能な能吏であった。

また彼は能舞にも長じていて、賀茂臨時祭に行われる神楽舞の長なども務めている。

宣孝は人柄も明るく、女性たちから見てもこのましい男性で、紫式部は以前からそんな彼に好感を抱いていたことは間違いない。

当時は通い婚が主流なため、二人の新婚生活は宣孝が紫式部のもとに通って来るというかたちでスタートした。

紫式部が住んでいたのは、曽祖父の中納言藤原兼輔が残した広い邸宅で、道長と倫子が住む土御門第とは隣同士であった。

その邸宅跡は、現在廬山寺となっているが、鴨川の西側の堤に接していたため、曽祖父の兼輔は堤中納言と呼ばれていた。

そして兼輔は、紀貫之やその子息の紀時文を邸宅に招いて交流しており、一説には紫式部は時文と結婚していたとする説もある。

とすれば紫式部は、宣孝との結婚が二度目ということになる。

それはともかく、この紫式部邸には曽祖父の代から蓄えられた漢籍などの書物が山のようにあったと言われている。

「紫式部日記」には多くの書物が入った逗子の上に、宣孝が持ってきた書物が置かれた様子が綴られている。

宣孝は日常の多くは、北方の中納言藤原朝成の娘のもとで過ごし、紫式部のもとへ通うという新婚生活であった。

やはり家格が高い妻のところで、夫が同居する場合が多かった。

日本は古代、中国の律令制を取り入れた際に一夫一婦制を導入したため、嫡妻と妾の地位の間に大きな格差が生じた。

ところ平安時代になると、父系家族制の中国の制度は馴染まず、母系家族制の残るわが国独自の通い婚という風習が主流となった。

通い婚の特徴は、結婚生活や子供の養育という経済的な負担は、妻の実家が受け持つのが原則である。

そのため女性にとっては、正妻と妾という地位の差はあっても、結婚することにあまりに抵抗はなかった。

実家に結婚できる経済力があれば、女性はこれと思う既婚の男性とも結婚出来たのである。

紫式部も父為時が越前守になったために、結婚する気持ちになったようだ。

つまり育ちがよくもてる男は、何人でも妻と子供を持つことが出来る制度だった。

まさに紫式部が描いた「源氏物語」の主人公である光源氏のような生き方が、実際に出来た時代だったのである。

紫式部と宣孝の新婚生活は、結婚した翌999年長保元年、長女の賢子が生まれることで、順調に行くように見えた。

この年に中宮定子は、一条天皇の第一皇子である敦康親王を出産している。

紫式部は新婚生活で、宣孝と痴話喧嘩をしたり焼きもちを焼いたことを「紫式部日記」に記録している。

ところがその翌年の4月に宣孝が突然に亡くなることで、二年ばかりで結婚生活が終わりを迎える。

宣孝は当時日本全国で猛威をふるっていた、天然痘やはしかなどの疫病が死因だと推察される。

紫式部は短期間で、結婚、出産、そして夫の死に接し、この世のはかなさや人間の悲しみを経験する。

「源氏物語」の主要な登場人物たちが、いずれも片親育ちであることから、宣孝の死をきっかけに執筆を開始した可能性が高い。

また藤原宣孝が光源氏のモデルの一人として、「源氏物語」の中に描かれていることも間違いない。

紫式部の新婚生活はたった二年と短かったが、その間に彼女が経験したことはすべて「源氏物語」執筆の糧となっている。

逆にいえば、紫式部は「源氏物語」を書くために、宣孝と結婚し賢子を産んだと言えなくもない。

宣孝の死までの二年間という貴重な時間があったからこそ、「源氏物語」が誕生したのである。

紫式部は藤原道長に請われて彰子の女房に上がるまでの六年間を、為時のもとで娘賢子と暮らしている。

為時と暮らした自宅は、鴨川の河原がすぐそばの、自然豊かな場所であった。

四季折々の自然と、数々の歴史に育まれた平安京の一角で、紫式部は「源氏物語」の構想を練っている。

彼女はこの期間に「源氏物語」を書き始め、それがまず友人の間で話題となり、やがて道長の目にとまることになる。

宣孝の死が、紫式部にとってはつらく悲しい出来事ではあったが、「源氏物語」誕生の重要なきっかけであったことは確かである。

宮中にあがってからの紫式部は、あまりにも有名になりすぎて、自宅でゆっくり執筆する事が出来ず、隠れ家を借りたことがわかっている。

彼女が隠れ家にいる間は、父の為時が自宅で、賢子の面倒を見ていたと考えればなんともほほえましい気分になる。

ただその隠れ家がどこであったかは、残念だがまだわかってはいない。

【紫式部の新婚生活】ユーチューブ動画

「光る君へ」に学ぶ日本史紫式部の新婚生活なぜ宣孝の妾になったのか吉高由里子と佐々木蔵之介の歳の差結婚が話題 Genji Japan紫式部は越前に父為時を残して帰京して、またいとこの藤原宣孝と結婚する。宣孝は20歳以上年上で、彼にはすでに3人の妻と6人の子供がいたが、なぜか紫式部は彼の妾となる・・作曲秋山裕和http://www.hmix.net/#光る君へ #光る君へ #吉高由里子

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「光る君へ」に学ぶ日本史 紫式部の新婚生活 なぜ宣孝の妾になったのか

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