紫式部が「源氏物語」を書けたのは、父・藤原為時がいたからだと言われている。

為時は出世こそ遅かったが、東西一流の文化人で、天皇や法皇にもその教養は認められていた。

紫式部が為時から何にを学んだのかを、詳しく見ていこう。

紫式部は平安中期の貴族・藤原為時の娘として生まれた。

祖父の藤原兼輔は従三位中納言であったが、父の雅正は従五位下どまりであった。

そのためその三男の為時は位階は正五位下であったが、花山朝の時に式部丞に、一条朝では越前守と越後守に任じられている。

為時は中級貴族で受領層であったが、長く官職がなかったために、紫式部は幼少の頃から経済的には苦労したと言われている。

彼女の友達の多くは受領層の娘たちであったが、家族の地方赴任で同行するため、彼女は幼少期から多くの別れを経験している。

ドラマではさわとの別れが描かれているが、これは「紫式部集」に登場する筑紫へ下向する友と交わした歌を題材にしている。

また母親を早くに亡くした彼女は、弟の惟規がいたが、ドラマには登場しない姉もいたようである。

しかし彼女は姉に続いて夫の宣孝、そして弟の惟規を立て続けに亡くすことになる。

多くの近しい人々との別れを経験した喪失感が、紫式部に「源氏物語」を書かせたとも言えるのである。

では「源氏物語」は世界最古の長編物語だが、なぜ彼女はこのような大作を書くことが出来たのだろうか。

それには紫式部が幼少期から父・為時に受けた教育が大きく関係している。

藤原為時は、大学寮で漢文学と中国史を学んだ紀伝道の学生であった。

歴史である紀伝道を専攻した学生は、「文章生」出身の「文人」と呼ばれ漢詩文に通じていた。

大学寮を卒業後は官人登用試験を受けて、叙位、任官される。

しかし、高位の貴族の子息は、祖父や父の位階に応じて付与される「蔭位」等によって通常よりはるかに有利に叙位、任官された。

そのため父の位階が低い為時は、成績は優秀であったが出世が遅れた。

それでも当時の朝廷の公文書はすべてが漢文で筆記されていたため、文人の為時は重宝がられた。

為時は、円融朝の977年貞元2年に東宮・師貞親王の御読書始において副侍読を務めた。

そのため・師貞親王が花山天皇として即位すると為時は六位蔵人・式部丞に任じられている。

また一条天皇の時には、時代を代表する文人に挙げられた為時は、「非凡な漢詩文の才能の持ち主」と高く評価されている。

そのため宋人が漂着したために、為時は越前守の任命を受けて紫式部とともに任地国へ赴いている。

また為時は、弟の惟規が７、8歳になると儒教経典や中国史などの漢籍を音読させている。

為時は覚えの悪い惟規を見て、紫式部に「そなたが男なら良かったのに」と嘆いた話は有名である。

当時は男子は官人として出仕するために７、8歳になると、貴族の祖父や父親が家で漢籍などを教育をした。

これに対して女子の教育は、官人として出仕しないため、男子とは基本的に異なっていた。

貴族の女子は、まず習字を習い、次に琴を練習して「古今和歌集」をすべて暗唱した。

習字、弦楽器、和歌は当時の貴族女子が身につけるべき基本的教養であった。

仮名文字が「女手」と呼ばれたように、日常的に女子は仮名文字を用いた。

習字の練習方法としてはまず一文字ずつ書く「放ち書き」を行い、徐々に続けて書く「連綿体」へと移っていく。

能書家として知られる三蹟の一人・藤原行成の娘は、15歳で能書家として知られ、少女たちが彼女の書を手本に練習している。

紫式部はこれらの女子の教養以外にも、為時が弟の惟規に漢籍などを教えるのを横で聞きながら学んでいる。

優れた女子は、仮名や仮名文学だけではなく、漢字や漢文学にも触れる機会があったのである。

当代一流の為時から儒教経典や中国史を直接学んだ紫式部は、当時としては最高峰の教養を女性ながら身につけた。

またそれを許した為時も、時代を先取りした、先見性のある優れた人物だったのである。

紫式部は「源氏物語」を、藤原為時がいたから書けたと言っても過言ではない。

同じく女性で漢籍教育を受けた人物としては、大学頭の高階成忠の娘・貴子があげられる。

高階貴子は円融天皇の女房として出仕したが、本格的な漢詩を御前で披露するほどの教養を身につけていた。

そのため天皇に仕える女官の最高位である内侍に選ばれ、高階の高を取って「高内侍」と呼ばれた。

貴子はのちに藤原道隆と結婚して定子を生むが、娘の定子にも高度な漢籍教育を施していた。

文学好きの一条天皇が定子を愛し続けたのも、彼女が高度な教養を身につけていたからにほかならない。

藤原道長は娘の彰子を入内させるのには成功するが、天皇が彰子に見向きもしないことに悩む。

そのため道長は妻の倫子と相談して、倫子のまたいとこである紫式部に白羽の矢をたてるのである。

紫式部は、為時から学んだあらゆる知識を、彰子に伝授していく。

そのため彰子も高度な漢籍などの教養を身につけた才能豊かな女性に成長したにちがいない。

一条天皇は当初は紫式部が書いた「源氏物語」を読みたい一心で彰子の部屋へと通うが、やがて彰子にも引かれていく。

紫式部の宣孝との忘れ形見の娘・賢子(大弐三位)は、やがて後冷泉天皇の乳母となっている。

その事から紫式部が「源氏物語」を執筆するかたわら、賢子に高度な教育を施したことは間違いないだろう。

家庭教育の重要性を、改めて痛感させられる事例である。

【紫式部と藤原為時】ユーチューブ動画

「光る君へ」に学ぶ日本史紫式部と藤原為時源氏物語を書けたのは父のおかげ!紫式部が受けた男勝りの家庭教育漢籍を習ったことが彼女を偉大にGenji Japan紫式部は世界最古の長編物語の「源氏物語」という大作を執筆したが、彼女が長編を書けたのは、父親の藤原為時がいたからだと言われている。彼女は為時から当時は男性しか学ばない漢籍を教わり・・#光る君へ #日本史 #nhk大河ドラマ

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