今回は「古池や蛙とびこむ水のおと」「夏草や兵どもが夢のあと」「閑さや岩にしみ入る蝉の声」など、今日まで語り継がれる（誰もが知ってるからスゴイよね）作品を数多く世に遺したスーパー俳人・松尾芭蕉の同性愛エピソードをご紹介いたしマス☆

芭蕉の同性愛エピソードって、なんで語られないの？

今回もイロイロ文献などを調べてますと、ムカつくぐらい芭蕉研究家の皆さん、芭蕉の同性愛エピソードを否定したがってます。なんで、そこまで否定すんのさ。

芭蕉が29歳の時に執筆した処女集「貝おほひ」の中に、

ってぇ一節がありまして、これによって芭蕉の同性愛エピソードに触れたくない人も触れざるを得ないところなんでありましょうが、なんとか理屈をつけて芭蕉を同性愛エピソードから剥離させようとする文献多し。
かの芥川龍之介センセも、"この談は必しも架空ではない。元禄は井原西鶴の大鑑を生んだ時代である。芭蕉も亦或は時代と共に分桃の契りを愛したかも知れない。"と、いったんは肯定しておきながら"案外昔の衆道好きは今の衆道好きではなかつたかも知れない。いや、今も衆道好きだつたとすれば、何も特に「昔は」と断る必要もない筈である。"な～んて、おっしゃっているんでございます。そ、そんな、あげ足とりみたいな言い方までして否定しなくたっていいぢゃんか。。。

40代以降にしたためられた芭蕉の作品や日記を読めば、芭蕉がいかに青年を愛したか、その気持ちのありようがどんなに可愛いらしくピュアなものであったか、心にビンビコビンに響いてきます。芥川センセのような大作家だったら、そこんとこ、わかってくれてもよさそうなものなのに。。

同性愛じゃ、悪いんかい

歴史上の人物のことをリスペクトするけれど同性愛については否定したいノンケがたびたび振りかざす理屈。。。それは、

という、めちゃくちゃアホくさい理屈。こうした文献を図書館やネットで調べていると、かならずこういう理屈（アホ）に出くわすんですが、笑っちゃいます。ぬゎぁ～～～にが「精神愛の世界」だよッ、だったら、こんな春画が数多く遺ってるもんかいッ！！

元禄時代は異性愛者も同性愛者もなく（そういう概念がなかった）、異性を好きになったり同性を好きになったりすることが当たり前だった時代。どっかのアホなノンケが勝手に同性愛を忌み嫌おうと恥ずかしがろうと、元禄を生きた御本人達は、これっぽっちも忌みても恥じてもおりませんでしたのデス！

とにかく、江戸時代の「衆道」が精神愛の世界だったなんて、大嘘。ワタクシ、キッパリと否定いたします（精神的な愛情がなかったと言っているワケじゃありませんよ、だけじゃなかったって言ってるんですよ）。「衆道」は、性的な意味合いもビンビンにカバーした恋愛のありようでございます。アホなことを言う人に、騙されてはなりません。この人達は、「性のありようなんて時代や世間によって変わる、社会的なモノなんだ」ということがわからないのです。

そもそも「精神愛の世界」って、なんなんでしょうかね～。
「精神の愛」だとか「観念の愛」だとか、そんなことを軽々しく書くノンケから納得できるように説明してもらえるんでしょうか。
ゲイでありながら超ゲイフォビアであった思春期の頃の歌川は、何度となく「これは精神愛なんだ」みたいなところに（ワケわかんなかったけど）逃げ込もうと(わざと一人エッチのオカズにもしなかった）しましたが、ムリでした。「○○君のスベテが欲しい、スベテが知りたい」と思う本来の欲望と、「彼がこの世にいてくれるだけでイイんだ」という抑圧的な気持ちとが激しく衝突して変なスパイラルを生み出し、気が狂いそうなほど苦しかったです。

「自分の中にあるものは、受容してやんねば、苦しいばかり。自分が自分の味方してやんなくて、どうして他人が味方になってくれましょうか。」そう思うようになってようやくパラドックスから脱出できました。なんで、精神愛とか観念の愛なんて、そんなの恋愛なのか～～～（実際に性行動を起こす起こさないは別としても）ぐらい思っちゃってます。「精神愛？そんなところに勝手に押し込められちゃ、たまんね～」と思う歌川なのでアリマス。

俳聖・松尾芭蕉になるまでの苦労

松尾芭蕉は1644年、三重県（伊賀）生まれ。
幼名は「金作」、元服して「忠右衛門宗房」と名乗り、主君の藤堂良忠に仕えます。

ヤング芭蕉が仕えた藤堂家。ここでムフフな衆道が繰り広げられたのか・・？

在職中から俳句の才能を伸ばしはじめ、句集に入集。
23歳の時、主君・良忠が死去。屋敷を去った宗房は、俳句の道を目指して遊学します。29歳で、例の「昔は衆道ずきで」と書かれた「貝おほひ」を伊賀上野菅原神社に奉納していますから、「衆道」は主君に仕えている期間か遊学中に、けっこう没頭した時期があったものと思われるのでした。そして、この年に宗房は俳句の道を極めるため江戸に向かいます。

プロの俳人となるまで様々なバイトをしたりして苦労しますが、卓越した言葉のセンスが句会などで商人達に認められ、コピーライターとして大活躍。広告クライアント達が俳句のご贔屓さんとなり、ついに35歳の春、諧宗匠として立机（プロの俳諧師になること）。この時の俳号は「桃青」でした。

38歳、俳号を「芭蕉」と改めます。それからはキレのある作品を次々と発表、俳壇での地位をどんどん盤石なモノにしていき、知らぬモノはないぐらいの存在に（超人気者）。深川に「芭蕉庵」というお屋敷を寄贈され（一度は八百屋お七火事で焼けちゃいますが、また建て直されました）、風流人の暮らしを送ります。

そんな芭蕉ですが、創作者魂が人気風流人の座に安住することを許しませんでした。
41歳の夏、俳句創作者としての自分に刺激を与えるため、「野ざらし紀行」の旅に出ます。「野ざらし紀行」の名の由来は、「旅の途中に死んで野ざらしの屍になってもかまわない」という決意をあらわしたものです。しかし、旅先で芭蕉を待ち受けていたのは、人生最大の恋の相手だったのです。

旅先で、運命の出会い

芭蕉の人生最大の恋の相手は、坪井杜国という13歳ぐらい年下の青年。
「野ざらし紀行」の旅は江戸←→鳴海の旅でしたが、旅の途中に名古屋で催した句会に席を連ねていたのが、米問屋を営む（けっこうオボッチャマ）イケメン杜国青年だったのでアリマス。このときに、二人はボッと火がついちゃったんじゃないかと歌川は思います。

この後の行動を考えても、もう、この時すでに杜国クンに思い入れタップリだったんだな～って思えるし、なによりこの時に杜国クンに贈った句があからさまです。

杜国クンを白い芥子の花に、自分を蝶にたとえ、自分の羽をもいで形見に置いていくよ・・・という句です。

芭蕉の句といえば、美しいヴィジョンを冷徹に凝縮してエッセンスにしたような句が多い。「閑さや岩にしみ入る蝉の声」なんて、何百年後の人々にまで鮮やかなヴィジョンを送信してくるような、ものすごいシャープな句。でも、杜国クンにあてた句だけは、こんなふうに感情が先行していて甘い甘い句なんです。芭蕉ってば、ほんとに可愛い人だったんだなーと思う歌川なのでありました。

杜国クンとのラブラブ旅行

やはり旅は自分の創作にインスピレーションを与えてくれる。。。そう悟った芭蕉は、旅三昧の日々を送るようになります。

1685年に「野ざらし紀行」の旅を終え、その翌年に蛙の句ばかり集めた『蛙合』を刊行（有名な「古池や蛙飛こむ水のをと」はこの句集の巻頭に収められてマス）。そして、その翌年には芭蕉にとって忘れ得ぬ、杜国クンとのラブラブ旅行『笈の小文』の旅に出発します。この1687年は、徳川綱吉が「生類憐れみの令」を発布した年であります。

この時、杜国クンはインチキ商売を行ったという科で愛知県の渥美半島の先っちょに追放処分されていましたが、芭蕉は旅程を調整し、遠回りして杜国クンに会いに行くのでした。杜国クンと再会した芭蕉は、喜びイッパイ☆

な～～～んて句を詠んじゃったりしてマス。
これは、やっぱ、恋愛感情抜きじゃ出てこない句なんじゃないかと歌川は思うんですがね～。しかも、この時は「越人」という別のお弟子さんも一緒にいたハズなのに、わざわざ「ふたり」って言っちゃってて、やっぱ恋する気持ち抜きでは考えられないス。。。やはり、このときに芭蕉と杜国は愛を確かめあったのでございましょう。このあと旅に参加した杜国クン。芭蕉の旅は超ルンルン（死語）の旅になるのでした。

杜国クンが追放されて住んでいた家の様子です

杜国クンは「旅のあいだ、私を幼名の万菊丸とお呼び下さい」と申し出て、芭蕉をデレデレにします。芭蕉も「まことにわらべらしき名のさま、いと興あり」と大ノリノリ。ちょっと浮かれたカンジの句をたくさん詠みあう旅をして京で歌舞伎なんかも楽しみながら、ハネムーン気分を味わう二人でありました。

旅の翌年、杜国クンの急死

そんなシアワセな気分を味わわせておいて、運命は残酷。旅の翌年の正月、芭蕉は”万菊丸”あてに「どうして便りもよこさないの？病気でもしてるんじゃない？」と、いう手紙を杜国クンに送っています。その時すでに、彼の身には何らかの異変が起きていたのでありましょう。芭蕉の心配もむなしく、事態は最悪の結果に。その年の春、万菊丸こと杜国は30過ぎの若さで他界してしまうのでありました（原因はよくわからないのだけど）。

心から愛する人を亡くした傷は、癒えることがありません。
「不在の存在感」を背負いながら日々の生活を送っていくことを覚え、痛みを忘れる時間を持つことができるようになっても、痛み自体は常にあるのです。見たもの・聞いたもの・食べたもの・嗅いだもの・触ったもの、思い出したもの、さまざまなものがキッカケとなって、痛みはいつでもよみがえります。

芭蕉は、晩年に書いた「嵯峨日記」に、こう書いています。

晩年までずっと胸に抱いていた亡き人への思いが胸に迫る、そんな一節です。芭蕉が亡くなったのは、杜国が亡くなった5年後ですが、ずっと杜国を思い続ける芭蕉なのでした。

菊は手折らず・・・・

杜国の死の翌年（この年に実質上、鎖国が完成した）、芭蕉は代表作となる「奥のほそ道」を生みだす旅に出ますが、石川県の山中温泉で芭蕉は、温泉宿の主人・久米之助という14歳の少年に出会い、思いを寄せます。久米之助少年に「桃妖」なんていうちょっと色っぽい俳号をプレゼントして、

とか、「ラブレターかよ、おい」ってカンジの句を贈ったりしました。でも、

という句も贈ってますんで、「手はつけなかったのネ☆」というのが定説となっております。
やはり、思いは亡き杜国クンにあったのでしょう。。。。
でも、久米之助クンには別れ際に、「湯の名残り今宵は肌の寒からん」とか「湯の名残り幾度見るや霧のもと」なんつー、甘～い句も残しちゃったりしてますが。

山中には句碑がありますよん☆

純粋なマインドのアーティスト

芭蕉の恋の足跡をたどっていくと、その純粋さに心を打たれずにはいられません。なんと純粋で愛情深い人だったのでしょう。。。。そんな芭蕉だったからこそ、何百年もの時を隔てた僕らの心をも打つ作品を遺せたんじゃないかなぁと、歌川は思うワケであります。

「同性愛否定したい派」の人々の中には、こうした芭蕉の恋心たっぷりの言葉の数々を「芭蕉の遊び心から創作したフィクション」だなんて言う人もいます。でも、それじゃ芭蕉がかわいそう。嵯峨日記に書かれた亡き杜国への思いを、歌川は汲みとってあげたいと思います。純粋に人を愛した人でなくちゃ書けない言葉って、あるんですから。

■■■■■■■■■■　おまけ　■■■■■■■■■■

江戸時代の「衆道」は、ナゼ衰退したか

さて、ミナサマ。
人口比率からしてメチャクチャ数多くの陰間茶屋（ウリ専）が軒を連ね、男色出版物も存在し、若衆歌舞伎は大人気。井原西鶴「男色大艦」など男色文学や男色アートも盛り上がっていた江戸・元禄。

陰間の姿って芸者姿と似てるんで「女性の代用だった」と言う人がいますが、間違い。芸者のほうが陰間の姿を真似たんです。

こんなに男色がおおっぴらだったのに、なんで男色（衆道）は衰退してしまったのでしょう。。。その理由を特定するのはムズカシイんですが、大きく影響した出来事は、こんなことでした。

■男色をめぐる数多くのトラブル

男同士の世界は、相手をとっかえひっかえ回遊しすぎるケースが多い（現代でも）。
それによる刃傷沙汰や暴力沙汰、金銭トラブルなどが多発。これにより幕府は、若衆歌舞伎の上演を禁止。また、衆道のセックスアピールの象徴である「前髪を残したヘアスタイル」も禁止しました。

■経済の悪化にともなって

暴れん坊将軍でおなじみの徳川吉宗の時代になると、綱吉の散財が響いて、幕府の経済は火の車。江戸全体が経済的に苦しい状態になります。
これによって、「男はいつまでもチャラチャラしてないで早く結婚して落ち着け！」的な風潮に江戸じゅうが染まっていきました。非生産的（働き手である子供を作るという点では）な男色は、次第に排除されるようになっていったのです。

同性愛が受容されている社会ではグラデーションの真ん中ぐらいにいる人も自由に同性愛の方に寄ってきてくれますが、同性愛を排除する世界ではグラデーション上では同性愛の色が濃い人でも異性愛の方に逃げてしまいます。世界の歴史では、こんなふうにして同性愛が隅っこにおいやられてきたケースがいっぱいあるのです。

時代って、けっこうカンタンに変わっちゃうんです

4年前、21世紀に突入したとき、歌川がシミジミ思ったのは「ニッポンは、20年前と比べて、ホントにゲイにやさしい時代になってきたなぁ」ということでした。
ゲイであるということがバレたら自殺を考えちゃうような時代から、ゲイとして人生をいかに楽しんでいくか個々に考えていく時代へと、時代はシフトしました。まだまだ問題はいっぱいあるけれど、悪い変化よりもいい変化の方が多かったことは疑う余地もありません。

でも、世情や経済の変化によって、時代なんてけっこうカンタンに変わっちゃいます。
ゲイにとってアゲインストな方向に時代が流れていってしまうことにつながる出来事なんて、いっくらでも起こり得てしまいます。昨年のアメリカや日本の政治の動きは、ちょっと心配な雲行きだと指摘する人もいるんです。

ひとりひとりのチカラは弱くても、つながりあっていけば、何とかなることも多い。
パートナーシップのモラルを整備して定着させていったり、セイファーセックスのモラルを確立していったり、経済的に力をつけ世間に見せしめていったり、そんなことのヒトツヒトツが悲しい時代を呼び寄せないために必要なのだなぁと改めて思う歌川なのでございました。