サイエンスの話 56 マラリア制御のためのイベルメクチン
Ivermectin to Control Malaria ― A Cluster-Randomized Trialマラリア制御のためのイベルメクチン ― クラスター無作為化試験Published July 23, 2025N Engl J Med 2025;393:362-375DOI: 10.1056/NEJMoa2411262VOL. 393 NO. 4https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2411262糞線虫の薬であるイベルメクチンが蚊を殺すことができるのでマラリア制御に寄与し得るのではないか、という2010年に出た論文が元になっていて、それを大規模にテストしてみたという内容。背景マラリアの制御と撲滅は、殺虫剤耐性の拡大と媒介蚊の行動適応に依存している。2022年には、マラリア症例は合計2億4,900万件、マラリア関連の死亡は60万8,000件発生した。長期残効型殺虫剤処理済み蚊帳や屋内残留噴霧など、媒介動物を標的とした介入は、依然としてマラリア対策の要であり、2000年から2015年の間にアフリカで見られた疾病負担の推定81%削減に貢献している。しかし、近年、殺虫剤耐性の出現や、ハマダラカの屋外や薄暮時に刺咬するなどの行動適応により、世界保健機関(WHO)が2030年までに設定した公衆衛生目標が脅かされているため、進展は停滞している。 イベルメクチンは、内部寄生虫と外部寄生虫に有効な薬剤である内寄生虫駆除剤で、オンコセルカ症とリンパ系フィラリア症の治療と伝播の抑制のために集団投与で使用されている。メルク社が設立したメクチザン寄付プログラムを通じて、1988年以来、マラリアが風土病となっている地域の住民に46億回以上のイベルメクチン治療薬が安全に配布されてきた。イベルメクチンは、治療を受けた人を餌とするマラリア媒介動物も殺すことができる(下記参照)。Effect of ivermectin on Anopheles gambiae mosquitoes fed on humans: the potential of oral insecticides in malaria controlJ Infect Dis 2010 Jul 1;202(1):113-6. doi: 10.1086/653208.(ベルメクチンを投与されたボランティアから採血した蚊の平均生存期間は2.3日であったのに対し、対照群では5.5日であった) そのため、イベルメクチンの大量投与は、殺虫剤に耐性があるか行動の変化によって殺虫剤を回避する蚊によって引き起こされるマラリアの伝染を減らすための潜在的な戦略として示唆されている。 投与された人に吸血する蚊も殺す広域スペクトラム抗寄生虫薬であるイベルメクチンの集団投与が、マラリアの伝播を抑制できるかどうか、集団投与を実施してマラリア感染の累積発生率を検討した。本稿では、ケニアでの試験の安全性と有効性の結果を報告する。方法・参加者と解析方法ケニア沿岸部のクワレ郡において、クラスターランダム化試験を実施した。クワレ郡はマラリアが高度に風土病化しており、殺虫剤処理された蚊帳の普及率と使用率が高い。家庭区域をクラスター化し、1:1の割合でランダムに割り付け、3ヶ月連続で月1回、イベルメクチン(体重1kgあたり400μg)またはアルベンダゾール ※ ※(400mg、実薬対照)の集団投与を行った。投与は、「小雨期」の初めに実施された。5歳から15歳までの小児を対象に、初回投与後6ヶ月間、毎月マラリア感染検査を実施した。 2つの主要評価項目は、マラリア感染の累積発生率(5歳から15歳までの小児で評価)と有害事象の累積発生率(すべての適格参加者で評価)であった。解析は、治療意図原則に基づき、一般化推定式 intention-to-treat principle ※ を用いて行われた。※ Intention-to-treat analysis(「治療の意図」による分析)対象者が実際に割り付けられた治療を完結したか、あるいは実際にはじめから受けたかどうかにかかわらず、当初割り付けた群にしたがって分析すること。https://www.jspt.or.jp/ebpt_glossary/intention-to-treat-analysis.htmlhttps://oncolo.jp/dic/intention-to-treat-analysis※※アルベンダゾール(Albendazole)は、様々な寄生虫感染症を治療可能な医薬品。商品名エスカゾール。日本で包虫症(エキノコックス)の治療に用いるの治療薬として承認されているほか、海外ではジアルジア症、鞭虫症、フィラリア、神経嚢虫症、蟯虫症、回虫症等の治療に用いられる。 ベンゾイミダゾール系の広スペクトル駆虫薬に分類される。アルベンダゾールはチューブリンのコルヒチン感受性部位に結合して微小管の重合や会合を阻害して、虫体の消化管細胞を変性させる。細胞質微小管を損失すると、感性寄生虫の幼虫や成虫でグルコースの取り込みができなくなり、グリコーゲンの貯蔵を枯渇させる。変性は、細胞内の小胞体や胚層のミトコンドリアで発生し、続いてリソソームが放出されて細胞が崩壊する。https://ja.wikipedia.org/wiki/アルベンダゾール・参加者と試験コホート世帯員数のデータを用いて96のクラスターを作成し、人口30,727人、5歳から15歳までの児童2,937人を包含した。これらのクラスターのうち、84のクラスター(人口28,932人、5歳から15歳までの児童2,871人)が国勢調査で対象者と判明しました(図1)。試験参加者は、マラリアが風土病となっている地域に居住する人々の代表であった(補足資料の表S1)。殺虫剤の使用量は、クラスターレベルでのカバー率に基づいて決定された。イベルメクチン投与群に割り当てられた42のクラスターにおける平均カバー率は66%(95%信頼区間[CI]、62~69)、アルベンダゾール投与群に割り当てられたクラスターにおける平均カバー率は73%(95%信頼区間[CI]、71~76)であった。どちらの試験群でも、治療を受けた参加者の93%以上が試験薬を少なくとも2回投与された。ベースラインにおける参加者の特徴は表1に示されている。コホートにおける治療を受けた参加者と小児の登録、ランダム化、および追跡調査(図1)。表1:参加者、小児、およびクラスターのベースラインの特徴、ならびに実施および環境に関する詳細。・主要有効性結果粗累積感染率は、イベルメクチン群ではリスク児1人当たり2.20人、アルベンダゾール群ではリスク児1人当たり2.66人であった(図2)。事前に規定した共変量を組み込んだ統計モデルは、有意水準5%でワルド検定に合格し、発生率比は0.74(95%信頼区間0.58~0.95、P=0.02)となった(表2)。交換可能な仮定を用いた場合、一般化推定方程式モデルは収束しなかったため、独立相関構造が用いられた(図2)。・イベルメクチンとアルベンダゾールの有効性の比較表2:マラリア感染率に関する結果これらの結果は、事前に規定された初回感染までの期間に関する二次生存率解析の結果と一致していた(イベルメクチン群120日 vs. アルベンダゾール群93日、粗差22.5%)。また、感度解析の結果とも一致していた。(6ヶ月間での各薬剤3回投与におけるマラリア発生数の推移ー体重1キログラムあたり400マイクログラムのイベルメクチンを3ヶ月間隔で3回にわたり集団投与開始後6ヶ月間のマラリア感染粗累積発生率を示し、400ミリグラムのアルベンダゾールと比較した。)迅速診断検査の各項目に基づいて異なる症例定義を用いた感度解析では、HRP2に基づく検査では調整後罹患率比は0.76(95%信頼区間0.61~0.96)、pLDHに基づく検査では0.48(95%信頼区間0.30~0.78)であった。共変量を連続的に処理した感度解析では、調整後罹患率比は0.76(95%信頼区間0.62~0.93)であった(補足資料参照)。・主要な安全性結果試験期間中、合計103名の妊娠中の参加者が治験薬に曝露した可能性があった(イベルメクチン群37名、アルベンダゾール群66名)。これらの参加者において安全性に関するシグナルは認められなかった(このサブグループの結果はここでは報告していない)。妊娠に関連しない重篤な有害事象は、17名の参加者において合計17件発生した。内訳は死亡9件(うち2件はイベルメクチン群)、入院7件(うち3件はイベルメクチン群)、医学的に関連する事象1件(イベルメクチン群)であった。これらの事象はいずれも、医療モニターによって治験薬との関連性があると判断されなかった。(有害事象は医学的に薬剤と関連性がなさそうだと結論されている)重篤な有害事象の発現率は、投与された100回の治療あたり、イベルメクチン群で0.023(95%信頼区間:0.010~0.051)、アルベンダゾール群で0.037(95%信頼区間:0.016~0.082)であった。重篤な有害事象の発現率比は0.63(95%信頼区間:0.21~1.91、P=0.46)であった(図3)。登録された20,657名(イベルメクチン群9,662名、アルベンダゾール群10,995名)のうち、56,003件の個別治療が実施された(イベルメクチン群では26,028件)。1,975名の参加者において、合計2,796件の有害事象が発生した(イベルメクチン群では1,651件)。100回の治療実施あたりの有害事象発生率は、イベルメクチン群で6.19(95%信頼区間4.92~7.77)、アルベンダゾール群で3.75(95%信頼区間2.98~4.71)でした。有害事象発生率比は1.65(95%信頼区間1.17~2.34、P=0.005)であった。この結果は主に、全身性、感覚性、神経系、筋骨格系、または皮膚系の有害事象(図3)によってもたらされた。安全性解析の詳細は、付録に記載されている。結果28,932人の適格参加者からなる合計84のクラスターがランダム化を受けた。参加者のベースライン時の特徴は、試験群間で同様であった。初回治療から6か月後、マラリア感染の発生率は、イベルメクチン群でリスクのある小児1年あたり2.20人、アルベンダゾール群でリスクのある小児1年あたり2.66人であった。調整後発生率比(イベルメクチン vs. アルベンダゾール)は0.74(95%信頼区間[CI] 0.58~0.95、P=0.02)でした。100回投与あたりの重篤な有害事象の発生率は、試験群間で有意差が認められなかった(発生率比0.63、95%信頼区間[CI] 0.21~1.91)。結論蚊帳の普及率と使用率が高い地域に住む5~15歳の小児において、イベルメクチンを月1回、3ヶ月連続で投与したところ、アルベンダゾールと比較してマラリア感染の発生率が26%低下した。安全性に関する懸念は認められなかった。考察・イベルメクチンによるマラリア感染の発生率の低下 長期残効型殺虫剤処理済み蚊帳の所有率と使用率が既に高い地域において、短い雨期の初めに、対象者全員にイベルメクチン400μg/kgを月1回、3ヶ月連続で投与したところ、アルベンダゾールと比較してマラリア感染の発生率が26%低下した(リスクのある子ども1人当たりの感染者数:2.20対2.66、発生率比:0.74)。本試験により、イベルメクチンが地域社会全体に有益であることが示され、その結果は、WHOが提唱する最低基準である単回治療終了後少なくとも1か月間持続する感染発生率の20%以上の減少と一致している。・安全性の観点安全性の観点からは、56,000回以上の治療において薬剤関連の重篤な有害事象が認められなかったことは、WHO推奨製品特性の基準9と、昆虫媒介動物を標的とする薬剤(TCP-6)に関するマラリア医薬品ベンチャー(Medicines for Malaria Venturés)のターゲット候補プロファイル(TCP)の基準を満たしていた。本試験におけるイベルメクチンの有害事象プロファイルと有害事象発生率(6.19%)は、糞線虫症および非ミクロフィラリア血症性リンパ系フィラリア症の患者における知見とよく一致している。さらに、本試験結果は、メクチザン寄付プログラムによる35年以上にわたる大規模配布によって裏付けられている。安全性に関する懸念は認められなかった。・本試験にはいくつかの限界がある試験介入前の期間におけるクラスター地域居住者のマラリア感染率に関するデータは不足している。しかしながら、ランダム化時点におけるこれらの住民のマラリア感染率は試験群間で比較的均衡しており、介入前の期間における感染伝播も同様であったことを裏付けるものである。また、コホート内の子どもたちは感染が確認されるたびにアルテメテル・ルメファントリン(マラリアの治療薬)の全コースを投与されていたことを考えると、プログラムによるイベルメクチンの使用による実際の効果は過小評価されている可能性が高い。この試験の特性により、アルベンダゾール群ではイベルメクチン群よりもアルテメテル・ルメファントリン投与頻度が高くなった。さらに、アルベンダゾールを投与したクラスターではイベルメクチンを投与したクラスターよりも治療カバー率が高いことが、アルベンダゾール群の薬剤負担が少ないことと関連している可能性がある(イベルメクチンは体重に応じて投与される(体重15kgごとに2錠)のに対し、アルベンダゾールは固定用量の1錠で投与される)。・これまでのマラリアに対するイベルメクチンの集団投与との比較マラリアに対するイベルメクチンの集団投与の可能性については、他に4つの臨床試験で評価されている。しかし、これらの試験のうち 1 つはサンプル数が少ないため結果の解釈が難しく、もう 1 つの試験デザインでは抗マラリア薬の集団投与にイベルメクチンを追加することで増分効果が得られるかどうかを判断できなかった。抗マラリア薬との併用でイベルメクチンを評価した他の 2 つの試験の結果では、抗マラリア薬単独の使用と比較して増分効果は示されなかった。 私たちの試験は、マラリア伝播を減らすために集団投与で使用されたイベルメクチン単独の効果を評価したものであり、これによりイベルメクチンの生態学的・疫学的影響をより深く理解し、他の介入との潜在的な組み合わせを計画することができる。・イベルメクチンの集団投与への期待イベルメクチンの集団投与は、マラリアおよび複数の顧みられない熱帯病に対する統合的な公衆衛生介入として提案されている。そのため、イベルメクチンは他の薬剤または介入の集団配布と組み合わせることができる。私評イベルメクチンは細胞内で物質の担体やイオンチャンネルを阻害するという機序で働いて寄生虫の生育を阻害するメカニズムが知られていて、中でも担体 importinはウイルスの感染やがんの発生にも関連しているというちょっと謎の薬。そして、今回蚊にも効くという。これまでの何億人という投与実績で人にはほぼ無害なのでマラリア撲滅の一助として期待されているというお話。もちろん将来的には耐性を持った蚊が出てくるのも想定されるものの、そこは現実にあるツールを組み合わせて現場のニーズに最大限に応えていくのが医療。面白いんじゃないでしょうか。カクテル 56マルガリータ Margarita この辺でごく普通なのが登場。多分飲んだことがない人はいないくらい有名なカクテル。グラスの縁にレモンやグレープフルーツの果汁を擦り付けて、塩を満遍なくまぶしておきます。この塩がポイントで、刑事コロンボ(54 華麗なる罠)をみていると小ネタに出てきていたので作ってみました。テキーラ 30mlレモンジュース 15ml、ホワイトキュラソー(コアントロー)15mlシェイクして注ぐ。ちなみに、個人的にはピザのマルゲリータもピザの中ではシンプルで好き。名前が似てるのだけれどマルゲリータとマルガリータは使い分けられているみたいです。ピザはマルゲリータ pizza Margherita、カクテルの方は Margarita。ネタを明かせば、同じ女性の名前のマルガリータはスペイン読み、マルゲリータはイタリア読み、英語のマーガレットということです(うんちく、、、、、)なので、マルゲリータピザにはマルガリータが合う、ということにしておきましょう。うんうん。Time In A Bottle🎵YungBlud