在宅医療の現場から〜若手在宅医の奮闘記〜

在宅医療の現場から〜若手在宅医の奮闘記〜

東京都足立区の強化型在宅療養支援診療所の久光クリニックのブログです

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「〇〇さんが呼吸停止です」

 
往診中に訪問看護師からコール。
 
「しまった…朝一で顔だしとけば良かった」
 
もう間もなくであることはわかっていたが
 
夕方に顔出せば大丈夫だろうとふんでいた。
 
もう一度お話したかったな。
 
沢山の仕事や訪問診療のスケジュールがあるので
 
致し方ないところもあるのですが…。
 
 
 
コールを受け、スケジュール変更。
 
急遽お看取りの為の往診へ向かう。
 
待っててね、〇〇さん。
 
 
 
症状緩和の為に使っていたストロイドの影響で
 
少しふっくらとしたお顔
 
とても穏やかで優しい表情。
 
不思議と
 
外来に通っていた時よりも元気そうにすら見える。
 
素人みたいな表現になってしまうけれど
 
今にもいつも通り話し出しそうな
 
そんな感じ。
 
 
 
○○さんは僕が当院で仕事をはじめて間もない頃から
 
僕の外来を選んで受診してくれていた。
 
いつも控えめで我慢強い○○さん
 
あまり自分からは症状を訴えない。
 
ちょっと我慢しちゃうし
 
聞いてもあまり答えてくれない。
 
心がつらいとき、体がつらいとき
 
ぼそっと気持ちを吐露することはあるけれど
 
それだけである程度満足するのか、薬が欲しいとはいわない、もらわない。
 
 
 
今回の闘病生活でも
 
末期がん状態にありながら
 
なかなか痛み止めを飲んでくれない。
 
少しの痛みなら我慢しちゃうし、よほどじゃないと薬をのんでくれない。
 
たとえ飲んでくれるようになっても
 
「良く効いたわ」なんて言っているけれど
 
こちらからしたら、「え?その量で??」
 
 
 
痛みをとるだけが緩和ではなくて
 
多少の痛みを感じることで
 
生を感じている場合もある。
 
少し我慢することがその人らしい場合もある。
 
痛みは悪いことだけでもないとは言うけれど
 
痛みがあるのに薬をのんでくれないと

やはりこちらはヤキモキと。。。
 
本人の生き方や望みを最大限尊重するのが大前提だから
 
よほどじゃないとこちらも無理強いはしませんが。
 
 
 
ステロイドを処方したときは喜んでくれた。
 
食欲低下と倦怠感が徐々に進行していた。
 
もちろんその時も隠していたけれど
 
こちらもプロなので見逃しません。
 
「本当はしんどいんでしょ?」と繰り返し問い詰めて
 
内服してもらうことを約束し処方した。
 
「大丈夫よ」なんていつも通り言ってはいたが

相当しんどかったに違いない。
 
じゃないと薬もらってくれないもんね。
 
 
 
ステロイドを処方してからというもの
 
めきめき活気がでて
 
足どりも軽くなり

たくさん食べて、毎日お酒を飲んで、たばこも吸って
 
そして車で旅行にも行った。
 
楽しそうに家族や旅行の話をしてくれて
 
「今までで一番ごはんがおいしいの」

とニコニコしていた顔は
 
とても病人のそれとは思えない。
 
 
 
そんな時間もやはり永遠には続かなくて
 
誰しもに最期の時はおとずれる。
 
僕の外来に通い
 
通えなくなれば無料送迎でお迎えにいき
 
それも難しくなれば訪問診療を行い
 
訪問看護も今回は当法人併設のアイケア訪問看護ステーション。
 
久光クリニックのフルコース。
 
かかりつけ医としては理想的な関わり方。
 
自分を主治医に選んでくれたこと
 
最期の貴重な時間に当院のスタッフが関われたこと
 
本当にありがたいです。

 
 
御臨終の確認のあと

娘さんから教えていただいた。

「のどごしが飲みたい」と言うので

のどごしを3滴だけだけど

口に垂らして飲ませることができたと。

ご本人も「おいしい」とおっしゃっていたが

ほどなくしてから呼吸停止となり

それが最後の会話となった。

たかが3滴

されど3滴

御家族にとっては

とても思いの詰まった3滴だろう。



これからスーパーやコンビニで

のどごし<生>を目にするたび

毎日晩酌するのが楽しみと語っていた

〇〇さんの顔を思い出すのだろう。



ありがとう〇〇さん。