男の生き様、それぞれの正義と野望



BRI(探索出動班)所属の正義感あふれるレオ・ヴリンクス(ダニエル・オートゥイユ)と、BRB(強盗鎮圧班)所属の権力志向の強いドニ・クラン(ジェラール・ドパルデュー)。パリ警視庁の2人の警視はかつて親友だったが、同じ女性カミーユ(ヴァレリア・ゴリノ)を愛した過去を持つ。カミーユがレオと結婚して以来友情は壊れ、現在では次期長官候補として激しく対立するライバル関係にあった。ある日、現金輸送車強奪犯のアジトを突き止めた警察はレオの指揮の下、包囲作戦を展開する。ところが、出世を焦るドニの不用意な行動が原因で作戦は大失敗に帰す。窮地に陥ったドニは、ある裏情報を基にレオを密告、思惑通り彼を刑務所送りにすることに成功するが…。
友人を、組織を、良心を裏切り犯罪を追う二人の刑事の生き様を、男臭くハードに描く。


我流の正義と美学を貫く刑事と、愛する女を取られた欠乏感を埋めるがごとく権力を志向する刑事。
かつての親友が敵味方のボスになり警察内で派閥を争う、硬派で男臭い、かつての“フィルム・ノワール”を彷彿とさせる見ごたえのある警察サスペンス。

我流の正義を貫く刑事レオ役をダニエル・オートゥイユ。
権力志向の刑事ドニ役をジェラール・ドパルデュー。
二人の犯罪に対する執着が男臭さに溢れ、全編にわたって緊張感を途切れさせない。


人には逃れられない運命というものがある。
男には変えることができない美学がある。
刑事にはそれぞれの正義がある。
それが復讐という、裏切りと紙一重の線上で葛藤が生まれる時にこういう硬派で上質な警察サスペンスが出来上がった。

運命の女神と美学の神が共に微笑むことはない。
そしてそれぞれの正義を貫こうとする時に、宿命という名の悲劇が待ち受けるのだ。
何か得る時には何かを失う。その代償が命の時もある。
その悲劇が繰り返され、最後には美学が残る。


邦題も作品内容の雰囲気を上手く現している。

男の美学とその残滓が、余韻としていつまでも心に響く名作。

『暗いところで待ち合わせ』(2006)(★★★★)

世界に背を向けた人間の孤独の応酬


“孤独”という、映画ではよくあるテーマを、ワンシチュエーションで巧みに表現している秀作でした。
年末に観に行けなくて、今年に入ってから公開最終日の最終回だけあって思ったより人が多く、もっと早く観ておけば良かったです。
あえて原作は読まずに観ました。



視力を失い父親をも亡くして、世界に背を向け自分の家という“砦”で生きようとするミチル。
中国人とのハーフという生い立ちゆえに、人間関係から疎外され人との繋がりを忌避して生きるアキヒロ。


孤独という二人に共通の境遇が、無言の行動でもって応酬される中で、二人に信頼感と連帯感を生じさせる。
その過程が、ほぼワンシチュエーションで描かれている。
“孤独”それ自体は映画で多用されるテーマではあるけれど、それをほぼ二人だけの世界で表現しているという点では出色の作品といえる。
さらにサスペンス的な要素が作品全体に緊張感を与え、見る側に飽きさせない。


ただし、本筋はあくまでも“孤独”を共にする二人が新たな外の世界に踏み出そうとする過程であって、そこに涙してしまうのだ。
最近は“孤独”をテーマにした作品において、結局“自分”にもどるようなストーリーが評価されがちなのにも拘らず、さわやかな涼風を感じるような、一歩づつ前に踏み出してゆくエンディングまで丹念にそして詳細に表現している。

また、盲目の少女を演じる田中麗奈の熱演も愁眉。本当の盲目のハンディを負っている人のようで見事。
もう一度観たいと思わせてくれる非常に良い作品。

今日は今年一番に観た映画の感想です。


『犬神家の一族』(2007)(★★★★★)


名作をリメイクしたらやはり名作になった


横溝正史の原作、76年市川崑監督作品共に超絶ファンなもので、リメイクが作られると聞いた時から絶対に観ようと決意していた作品です。
今年初めて劇場で観た映画でした。


まず、観た感想を結果から言えばかなり満足のいく作品だった。


脚本・構成・演出共に76年作品から殆ど変更無しに忠実に再現。美術・映像も76年オリジナルファンとしても納得のいく出来映えであるといえる。特に美術はオリジナル同様の、おどろおどろしい雰囲気を忠実に再現していて観ていて惚れ惚れするほどだった。
となると、必然的に配役に目が向くことになる。


前作は石坂浩二・高峰三枝子を中心として脇をがっちり固めていた。島田陽子・あおい輝彦・三条美紀・草笛光子・金田龍之介・小林昭二・坂口良子・小沢栄太郎・加藤武・大滝秀治・寺田稔・三木のり平、そして三国連太郎。
確かにこの前作のゴールデンラインからすれば、今作の配役の軽量感は否めない。(今現在から比較するのだから当然といえば当然だが)
高峰・三条・草笛の三姉妹に富司純子・松坂慶子・萬田久子。
あおい輝彦の佐清に尾上菊之助。
島田陽子の珠世に松嶋菜々子。
あと坂口良子に深田恭子、小沢栄太郎に中村敦夫、三木のり平に林家木久蔵、金田龍之介に岸部一徳、小林昭二に蛍雪次朗などなど・・・。


しかし、演技力という点では、あおい輝彦より尾上菊之助、島田陽子より松嶋菜々子の方がはるかに優れている。違和感どころか佐清や珠世の持つ憂いや葛藤の表現がしっくりきているのだ。
さらに、石坂浩二扮する金田一耕介の言葉が前作以上に探偵としての重みや説得力を増しているように見える。それは石坂浩二65歳の年輪のなせる業であろう。
富司・松坂・萬田三姉妹も多少過剰演技ではあるけれど、それが遺産欲しさの“どろどろ”感を上手く醸し出してもいる。


このように中心軸の配役が全くぶれていないので、深田恭子や奥菜恵の稚拙な演技を補って余りあるのだ。
前作と比較せざるを得ないけれど、勝らずとも劣らず。
原作ファンとしても76年オリジナルファンとしても、今作は好きになる名作である。