高齢化社会に伴い、医療現場では肺炎、特に誤嚥性肺炎の入院患者が激増している。

今後としてどういった未来図が考えられるか。


誤嚥性肺炎とは、「食べ物、飲料水、唾液等をうまく飲み込めなくなった結果、食道に入るべきものが気管に入り、その中の細菌が増殖したことにより引き起こされた肺炎」といったら良いかと思います。

言い換えると歳を取るにつれ、生命機能として食べる機能が落ちるという生物学的に避けられないことが起こった結果、生じる肺炎とも言えます。


図6主な死因別順位


実は肺炎は死因の順位としては本邦第4位です。しかしこれは飽くまで肺炎以外に致命的になる病気がないことが前提です。悪性新生物(癌など)、心疾患(心不全など)、脳血管疾患(脳出血、脳梗塞など)が上位3位に上がっていますが、こういった病気の方達の末期状況の時は往々にして免疫機能が弱っています。そうすると細菌にとっては格好の増殖場所になります。ならば肺炎を引き起こしても自然の成り行きと考えることもできます。おそらくは癌、心不全、脳梗塞の死因の最終的な引き金としての肺炎の割合は比較的頻度が多いと思われます。

抗生物質が進歩しても、根本的な免疫機能、抵抗力が落ちている状況ならば肺炎とはいえ治すことは困難です。肺炎は死ぬ病気であります。



肺炎の年齢別順位023


肺炎の年齢階級別死亡率順位ですが、平成17年の分布をみると65歳を契機に指数関数的に増えています。

高齢になればなるほど免疫機能、抵抗力が落ちるのは生物学的には自然なことであり、適切な抗生剤を使用したとしても抵抗力がなく亡くなることは避けられない現実です。

昭和10年は若年の死亡率が高いですが、悪い衛生管理、適切な治療が為されていない、平均寿命が短く高齢者が少ない、高齢者と同様若年者は抵抗力、免疫機能が弱いなどが理由と思われます。



肺炎受療率026


肺炎による外来受診と入院を示したものですが、外来入院ともに65歳以上になると増加する傾向があるということであり、これからも高齢になれば肺炎になりやすいと証明するデータとなります。



加齢と嚥下反射025


高齢で肺炎を患うことにより嘔吐反射が鈍くなることを示しています。肺炎の既往がなければ問題ないのですが、高齢で肺炎を患うことにより間違って飲み込んだものを吐くことができなくなり、気道にあってはならないものが入ってしまい、細菌の増殖を促し肺炎を助長させてしまう。言い換えると高齢で肺炎になると自分自身の生きるための機能低下で治せる肺炎も難治性になるということを示しています。


以上ここまででまとめますと

1、わが国死因別順位で肺炎は第4位である。

2、肺炎が死因であった内の92%は65歳以上である。

3、データは揃っていないが、高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎であったとの報告が多いとのこと。



2005年度人口ピラミッド


2005年のわが国の人口ピラミッドですが、80歳代前後の人口数に対して60歳前後の人口数は2倍前後あるということを示しています。これは中長期的にみると20年後までに高齢者肺炎が激増すること、その多くが誤嚥性肺炎であることから、誤嚥性肺炎も激増することが予想されます。


しかし激増段階である現在でさえ、現場としては実動病床が不足している状況。それに対して日本は病床を減らそうとしている状況である。そうなれば中長期的にはどうなるか?

世の中の流れを見るためには歴史を学べと言われます。


以下に示すことは医療崩壊の歴史です。


イギリス

サッチャー首相は「イギリスには社会主義者が設計した古い制度や国有化企業が多くあり、それがイギリスの活力を削いだ。それらの民営化を軸とする改革をすれば効率が高まり、活力が甦る」と自由主義的な改革を主張した。そして実際に国有鉄道、電気、ガス、電話、英国航空などを次々と民営化する一連の改革を1980年代に実施し効を奏した。そしてNHS(国民保健サービス)医療についても社会保険制度の導入や民間医療機関の拡大、一部民営化など多くの選択肢について検討された。しかしこれらの改革を強行すれば選挙に負けると危惧して断念した。「医療を受けるのにお金の心配が要らず、貧富の差もない素晴らしい医療制度」として世界で初めてつくられたNHSをイギリス国民が強く支持していたからである。

ではあるが1990年に「NHSコミュニティケア法」(1991年4月施行)によりNHS改革に至った。これは強引な言い方をすれば「民間企業のマネジメント手法と競争原理の積極的導入」である。医療の世界に市場原理を導入し低医療政策が始まったといったらいいかもしれない。

結果はイギリス医療は改善するどころか「第三世界並みの医療」と表現されるくらい荒廃した。


イギリスの医療は税金によってまかなわれる公的医療がほとんどで、一部に自費診療の金持ち相手の医療機関がある。イギリス国民とイギリスに長期滞在する外国人は、NHS に加入登録し、医療、保健、疾病予防などのサービスを受ける。
医療は、地域ごとに家庭医が配置され、家庭医一人当たり、地域住民何人という枠があり、住民は、その地域の複数の家庭医のなかから、空き枠があるところを選んで登録する。好きな家庭医に登録できない事が多い、制限のあるシステムである。医療へのアクセスは、まず家庭医への登録という入口から、制限がかかっている。
何か病気怪我をした場合、まず家庭医に連絡し、受診の要否を相談し、受診するなら予約が必要だ。すぐに受診というわけではない。ここでも制限がかかっている。めでたく家庭医の前に座れたとして、そこから、上記のリンクに紹介した医師の体験談のような悲劇が始まる。
家庭医は、年間、登録住民数あたりの予算が決まっている。高額な医療も、頻回の受診もできない仕組みである。まず軽症者は家で寝ていろとか、解熱鎮痛剤などの安い薬で様子を見るように指示されるだけで、検査も何もない。そこで治らない、重症化する患者を、手間と金はかけず、時間をかけて、選別するのだ。
重症化する患者は、病院に紹介されるが、すぐに専門医に診てもらえる事がない。予約して待たされ、病院へ行ってさらに待たされ、そこでもより重症化する患者とそうでない患者を、検査もせず、金も手間もかけず、時間で選別する。救急病院に駆け込んでも、数時間ないし一晩待たされる事が通常だ。

ブレア政権になって 2000年に「われわれは政権について以来、公約通りNHS改革を重視して取り組んできた。医療費を拡大することなく、医療の質を高めると同時に効率化を図る仕組み、無駄や成果を評価する仕掛けも作った。しかし、保守政権からこれまであまりにもNHSに掛ける費用を抑制しすぎてきた。その結果、お金の使い方や制度を改革するだけでは、もはやNHSはよくならない。世界に誇るNHSをよくするために医療費を拡大する時が来た」とNHS改革の方向の発表をした。医療費の拡大規模は5年間で1.5倍である。そして2005 年、イギリスは低医療費政策の転換に踏み切ったが、その目標の一つに、救急病院の外来待ち時間を最大 16 時間以内にする、というものがある
(救急なのに、16時間以上待つ事が当たり前だって事ですな。)
そこで重症化してしまって初めて専門医が検査と治療をはじめる。しかし、その治療が進むのにも時間がかかる。がんの患者の手術が半年待ちなのだ。

イギリスの低医療費政策で、医師の士気は低下し、役所の窓口職員のように働かない医師が多勢となった。医療費増額政策で、医師数や医療施設を整備しても、医師数が増え、しかも医師が士気を取り戻すのに、何十年もかかる。五年、十年では戻らないと考えられる。



イギリスの家庭医制度で、注目すべき事項がある。家庭医への登録は、住民側が家庭医を選ぶのと同時に、家庭医も登録する住民を拒否できるようになっている。登録人数枠、予算とともに、患者と信頼関係が結べないという理由も可、なのである。
(ちなみに日本の医師に、患者を断る自由はほとんど無い)


参考資料

ジョン・バトラー(中西範幸訳):イギリスの医療改革. 患者・政策・政治. 勁草書房, 1994

松渓憲雄:イギリスの医療保障-その展開過程. 光生館, 1998

カナダ

1990年代に連邦政府による医療費削減が行われた。これらの結果、医療予算に連邦政府からの補助金の占める割合がオタワ州の場合、1980年の30.6%から1996年には21.5%に低下した。より豊かな州においては、さらに大幅に低下したといわれている。

公的病院の急性期病床は27%減少し、オンタリオ州だけで40を超える病院が閉鎖あるいは合併再編を命じられた。過剰とされていた医師も10年足らずの間に医師不足と見なされるようになった。理由は受診までの待機期間が延長したからである。世論調査でもかつてはカナダの医療制度に満足している者が多かったが、その割合は急速に減少した。例えば「制度の一部改革でよい」としていた者が56%(1988年)から1998年には20%と3分の1に激減した。

これらの事態に対し、1996年以降、医学部の定員を22%拡大したり、海外からの医師や看護師の移民受け入れを増やしたりなどの対策をとったが人手不足は解消しなかった。2003年に発表された調査でも回答者の半数以上が、医療従事者とベッド不足が医療問題の主要な課題と指摘している。人口の15%(約450万人)が家庭医を見つけるのに苦労しているという報告もある。またある全国調査では18%が抜本改革が必要と答え、ある程度抜本改革が必要と回答した者は59%にも上っている。

そうした現実に対してカナダ政府は2002年11月に2003年に81億カナダドルであった公的医療費を2006年には150億カナダドルに拡大する政策を打ち出している。


参考資料

Detsky AS, et al: Canada's health care system-reform delayed. N Engl J Med 349 : 804-810, 2003

Toronto Star紙: 2002年11月29日


日本は?

2004年に新研修制度がスタートした。その後地方医療の崩壊、大学医局の機能不全、人手不足が見受けられる。福島大野病院事件、奈良県妊婦たらい回し事件、今年の墨東病院妊婦たらい回し事件に象徴するような産科崩壊。勤務医の逃散、駆け込み開業等々。

医療従事者の士気は低下していると言わざるを得ない。


イギリスの医療崩壊は1990年のNHS改革にスタートし、2000年に医療費増と転換に至っている。

カナダは1990年代に医療費削減を開始し、2002年に医療費増に転換している。


日本の医療崩壊のスタートを2004年に新研修制度施行の時期とすると、他国の医療崩壊の歴史からすると次の方針転換の時期は2014年頃ではないかと予測している。

それまでは医療崩壊を進むのではというのが自分の最悪シナリオと考えている。



医療費比較

 日本の医療費30兆円は確かに大きい金額です。しかし、世界策2位の経済大国の国力からみるとどうなのでしょうか。国内総生産(GDP)に占める医療費の割合を比較しました。
 日本は先進国といわれる29カ国(当時)のなかで18位。国際的にみて国力に見合った医療費を出していないことがわかります。
 22位のイギリスでは、小泉首相が手本とするサッチャー元首相時代の医療改革でここまで低くなり、医療の質も落ちました。そこでフレア首相は、2005年までに医療費を今の1.5倍にまで高めると公約しています。


日本の医師看護師


 日本における医師・看護職員数を国際的に比較してみます。
 入院患者100人あたりの日本の医師数は12人。アメリカの5分の1、ドイツの3分の1という状況です。いっぽう、看護職員数は41.8人でアメリカの5分の1、ドイツの2分の1となっています。アメリカは1人の患者さんに対して職員2人が対応しています。日本の医師・看護職員は国際的にみて、圧倒的に少ないということがわかります。
 国民の関心事となっている医療事故を防止し、医療の安全を確保するためにも、低すぎる人員配置基準の抜本的な改善が必要です。


日本人の受診状況

 「日本人は医者にかかりすぎる」という話は、ある意味では当たっています。確かに国民1人当たりの年間平均受診回数は21回と国際的にみても4倍です。しかし、だから医療費が高い、というわけではありません。
 1回の受診当たり医療費をみると、7,000円と一番低い統計が出ています。これは早期発見・早期治療の表れで、重症化しないためには大切なことです。どうも調子が悪いなと思ったら、保険証1枚でどこでもかかれる、日本の国民皆保険制度の優れた点です。
 受診回数に1回当たり医療費をかけた年間医療費は、日本が14万7,000円に対して、アメリカは32万8,600円、フランスは18万7,200円となりますので、日本の医療費が高いということはありません


薬価差


 新聞の社説などに、「不当な薬価差益をなくせ」などと書かれるために、医者は薬で儲けているのではないかと思っている方が多いのではないでしょうか。
 確かに以前は、薬の仕入れ値と公定価格との差が20%以上あった時代もありました。しかし現在はその差が4%になっています。
 薬の保管、期限切れ薬の処分、消費税負担分などの費用を考えると「薬価差益」どころか「薬価差損」というのが現状です。実際、院外処方(医療機関では薬を出さない)を行なうところが増えています。
「薬価差益」で経営を成り立たせている医療機関は今や皆無です。


日本の国際評価

 日本は、OECD加盟29カ国(当時)中、18位という低い医療費で、健康達成度が第1位、平等性が第3位と評価されています。
 これは、日本の医療制度は全体として健全に機能していることを表しています。もちろん、現在指摘されているようなさまざまな課題を克服していく取り組みは重要です。
 いっぽう、アメリカは世界一高い医療費を使ってもなお、健康達成度は15位、平等性は32位となっています。これは、老人と低所得者向け以外の公的な医療保険制度がなく、無保険者が人口の16.3%(1998年)約4000万人いることや、医療が産業化、営利化していることなどと無関係ではありません。
 アメリカの現状は、日本が決して見習ってはいけない「見本」であることはあきらかです。



以上が統計的に世界のある程度の国と比較すると、日本の医療の状況と思われます。

飽くまで統計的アプローチですので、実際はどうか?

実感として沸かない方もいるとは思いますが、実情を知ることが必要とは思われます。反論のある方はこの状況を覆すようなデータを集めてみることも必要でしょう。