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のんびり短編小説ブログ

まったり自作の短編小説を投稿してます。
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「夏休みとモリ」

 

 

 

 ぼくがまだ小学生だった頃の夏休みのことだ。

 田舎のモリのはずれにある神社で不思議な体験をした。

 そこで、ぼくは「神さま」と出会った。

 

 

 

 祖母が暮らす実家へついたとき、ぼくとしては「となりのトトロ」で騒ぐメイの心地だった。あたりは田んぼしかなく、コンビニなんて一軒もなかった。夜になれば、数えきれないほど星がのぼった。

 裏庭からけもの道がのびていて、あまり進むと戻ってこれない「モリ」があると言われていた。祖母の目を盗んで、こころと一緒にそのモリを探検した。暗くなるまで過ごしたこともあった。怖いなんて思わなかった。それにこころと遊んでいたと言えば、誰も深くは尋ねてこなかった。

 モリにはとても古い神社があった。本堂には仏像もあった。

   ある日、ひどい雨が降ってきて仕方なしに忍びこんでから、毎日のようにそこへ入り浸った。駄菓子屋でお菓子を買って、ふたりで食べた。手入れはされてなかったから、いまは誰も住んでいないのだろう。ちょっと前までは違ったかもしれないが。

 というのも新しいごみが落ちていたり、境内は意外なほどきれいだったからだ。

 

 

 

 こころは学校へは行っていない。いわゆる不登校ってやつだ。

 近所に住むいとこの子で、毎日のように家へ遊びに来ていた。

 ぼくも学校が好きってわけじゃない。友達と楽しそうにしたり、SNSやゲームの話をしたり。

 みんなと同じような演技をしなくちゃいけない、学校というところが窮屈だった。

  こころもきっと嘘をつくことが苦手なだけだ。ぼくと違って自分に正直なのだ。

 それがまぶしく映ったのかもしれない。こころが笑うと、ぼくの胸はすっとした。

 

 

 

 数えきれない不幸な人たちのうえに、幸せな人たちがいる。

 その人たちは踏みつけたことなんか気にもかけていない。

 そう、ぼくみたいな人間のことなど知るよしもないのだ。

 自分勝手に振るまって文句を言われないなら、それはいい生き方だろう。

 羨ましいと思うけれど、そういう生き方はできないとぼくは思う。

 不幸というのは運命みたいに決められているのだ。

 変えられないわけじゃないけど、決して一人じゃ変えることができない。

 こちらが意図するしないに関わりなく。

 

 

 

 このあたりで、行方不明になった子どもの事件が起きた。

 母からは口うるさく言われてた。だから忘れてなんかいたはずがなかった。

 ただ、これから交通事故に遭うと思って出かける人などいないだろう。

 ぼくの場合もまったく同じだ。

 モリの神社がこぎれいだったのには理由があった。

 そのことを深く考える余裕なんてぼくにはなかった。

「危ないから行っちゃダメよ」という母の言葉がよぎった。

 そうだ、どうしてあの言葉をきっちり受け止めなかったのだろう。

 危険というのは、動物や自然というだけではないのだ。

 目が覚めたとき、身体が荒い縄できつく縛られていた。

 全身がしびれたように痙攣して動けなかった。

   

 

 

   ささくれが食いこんでひどく痛んだ。

   誰かに襲われたのだと、そのときにようやく理解した。

 吐き気がひどく、目が真っ赤に充血していた。

 ざっという靴ずれの音で、すぐ前に男が立っていたことに気づいた。

 痩せがたで背が高かった。

 目が死んだように冷たかった。

 男がぼりぼりと頭を掻くと、焦点のさだまらない瞳でぼくを眺めた。

 一分か、それとも十分はそうしていたのだろうか。

 その間、男はひと言も話さなかった。

 後ろから、何か硬いもので殴られたことをぼんやりと思いだした。

 ずきずきと頭が割れるように痛んだ。

 これから何をされるのか。

 それを必死に考えまいとした。

 

 

 

   仏像の下、その暗がりに薄く動く影があった。

 それがこころなのだと気づくまでにさほど時間はかからなかった。

 さいわい隠れていたから気づかれなかったようだ。

 彼女が逃げて警察に通報してくれればよかった。

 それまで、ぼくが生きていればの話だけど。

 いまは男も姿が見えないが、どこか遠くへ行ったというわけではない。

 たぶん匂いからして、外でタバコを吸っているのだろう。

 それが終わったら、必ず戻ってくる。

 ぼくは小声でこころを呼び、一緒に縄をほどいてくれと頼んだ。

 この縄は人を縛るには太すぎてあまり適しているとは思えなかったからだ。

 思ったとおり、縄はすんなりとほどけた。

 もう一度、縛ってあるように見せかけようとしたとき、男がのそっと戻ってきた。

 ぼくはこころに向かって逃げろと叫んだ。

 慌てた男をしりめに派手にタックルしたあげく、ついに足をつかまれ投げ飛ばされた。

 そのとき背中を思いきり打ちつけた。

 ただ、こころが走って逃げていくのは確認できた。それだけでも安心することができた。

 こんなところへ連れてきたのは、ぼくなんだから。

 親から危険だって言われてたのに、そんな簡単なことも守れなかった。

 きっと、これからぼくはとてもひどいめに遭うのだろう。

 もしかしたら、生きてることが嫌になるくらい痛いことかもしれない。

 だから罰を受けるのは、自分だけでいいと思った。

 何とか彼女だけは助かってほしい。

 そうして何度も仏像にお願いした。

 祖母が仏壇に向かって祈っていたように。

 

――だから神さま、どうかお願いします

どうか、こころを助けてください――

 

 

 

 柱にぶつかった衝撃で背骨が折れていたらしい。

 男が触れたはずみで痛みのあまり気を失ってしまった。

 その後、のことはほとんど覚えていない。

 携帯のGPS機能が決め手となり、居場所は特定できた。

 すぐに警察がやってきて、男が逮捕された。

 境内からは女の子の遺体が発見された。

  そういうことを、後になって知った。

 目が覚めたときは全身の力が抜けてしまって呆然としていた。

   大勢の大人が境内を取り囲んでいた。

   そこにこころの姿はなかった。

「こころは?」ぼくはそばにいた警官に尋ねた。

 警官は意味が分からないという風だった。

 おかしなことに両親や祖母でさえ、首をかしげるばかりだった。

「あぁ、きっと頭を打ったせいで」

 そんなひそひそ話が聞こえた。まるでそんな子は、最初からいないような。

   こころの話をしたとき、いつも両親はそんな反応をした。

「かわいそうに」と祖母はよく泣きはらしていた。

 ぼくがこれまで一緒にいたはずだったという女の子。

 こころという子はこの世界のどこにも存在しなかった。

 時間が経つにつれ、ぼくは徐々にそう思わざるを得なくなってきた。

 そもそも近所にいとこなんて、住んでなかった。

 ぼくは一人でモリに入り、境内で遊んでいたのだ。

 そこには小さな女の子もいなければ、駄菓子を一緒に食べたこともなかった。

 駄菓子屋のおばちゃんは、いつもぼくが「一人」で買い物に来たと言った。

 学校へ行けない不登校児は自分だった。

 それを見かねた両親が田舎へ連れてきた。

 いい医者がいるからと紹介された病院はどうしても行けなかった。

 そこは普通の病院じゃなかったから。

 ぼくがおかしい人間だと思われてるみたいだったから。

 こころという少女は「心」の中で作った子どもだったのだろう。

 けれども、ひとつだけ疑問があった。

「いったい誰が警察を呼んでくれたのか」

 警官はこうも言っていた。

――小さな女の子が助けてと電話してきた。

 本当に、こころなんて子はいなかったのかもしれない。

 でも、あのときだけはそうじゃないと信じたかった。

 ぼくが「神さま」にお願いしたことだから。

 それが姿を変えて助けてくれたのだと。

 

                                       おわり