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届くことのない手紙に記したもの

硫黄島からの手紙


第二次世界大戦下の1944年、太平洋の孤島硫黄島に陸軍中将栗林(渡辺謙)が小笠原方面最高指揮官として着任する。栗林は、日本軍の劣勢を知らされないまま海岸線の防御を固めようとする将校に対して、海岸線を放棄し島の拠点である摺鉢山に地下壕を築いて籠城戦の準備するよう命ずる。合理的な考えの栗林に対して精神論の将校らが反発する一方、西郷(二宮和也)ら召集された一般兵は栗林への信頼を厚くする。



栗林忠道ご本人が遺した手紙を吉田津由子氏が編集した「「玉砕総指揮官」の絵手紙」に着想を得た本作を再見。ドリームワークスとクリント・イーストウッドの硫黄島プロジェクトにおいて「父親たちの星条旗」の姉妹作として製作された。


「父親たち〜」が米国視点なのに対し本作は日本視点。日米双方を美化することも卑下することもなく展開。日本人というと、上官の命令に従い集団として行動する…というステレオタイプに描かれがち。日本人の個性を描いた作品は多くない。


ハリウッドが全編日本語、オール日本人キャストで描く「日本」。ヘンテコ日本が横行するなか(それはそれで楽しいのだが)特筆すべき作品。しかもイーストウッドという大物である。物事をフラットに見ることができる人間力の高さに憧憬を覚える。


本作について日本のメディアはニノの武勇伝として語ることが多く、作品そのものの評価が把握しづらい。感想ももっと発信してほしいところ。米国では評価が高く、アカデミー賞4部門でノミネートされ音響編集賞を受賞。


渡辺謙のハリウッドでの信頼は不動。ニノも祝海外進出なのだが、本作公開からすでに16年。活動の自由度も増したのだから、そろそろ次を見せてほしい。一方精力的に海外作品に参加している加瀬亮。成功していただきたい。


伊原剛志演じるバロン西、中村獅童演じる伊藤(架空)が対照的な日本人像。こうしたキャラが配置されたことは海外の日本人像を更新させる意味で重要。渡辺広ら海外で活躍される日本人俳優にとっても追い風になるであろう。


届かないことは承知のうえの手紙。未来への希望を持てない兵士たちにとって、書くことは自分の気持ちの整理である。たとえ読まれなくても書くことでどんなに救われたことか。「いいね」がないだけで不安に陥るSNSとの大きな違いである。


届かない手紙に縋るしか心の均衡を保つ術がない。実弾を装填した銃器と向き合い、明日生きている保証もない狂気、それが戦争だ。こんなレビューを書いている今も、そういう環境に置かれている方は悲しいかな世界中にいる。


ちなみに「父親たちの〜」は未見。

ちなみに硫黄島の正式な呼称は「イオウトウ」。



 DATA

監督・製作:クリント・イーストウッド/製作:スティーヴン・スピルバーグ/脚本・原案:アイリス・ヤマシタ/製作総指揮・原案:ポール・ハギス

出演:渡辺謙/二宮和也/伊原剛志/加瀬亮/渡辺広/裕木奈江/中村獅童



hiroでした。

(画像はポスタービジュアルより)



インビクタス←イーストウッド監督作品。好き!


許されざる者←イーストウッド作品を謙さん主演でリメイク


GANTZ←ニノ、もっと海外仕事すればいいのに