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ダメ男が女性を輝かせる

(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

グッドバイ〜嘘から始まる人生喜劇〜


戦後混乱期の東京。家族を疎開先に預けたままヤミ市で儲けた金で文芸誌を立ち上げた田島(大泉洋)は、惚れやすい性格から数人の愛人を持っていた。ろくに会っていない娘から手紙をもらった田島は家族が恋しくなり、愛人たちと別れる手はないかと作家の連行(松重豊)に持ちかける。美人の女性を嘘女房に仕立てて愛人たちに別れを告げにいくのはどうかと連行に提案された田島は普段はガサツで泥だらけだが、素顔は美しいキヌ子(小池栄子)に嘘女房を依頼する。


(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ


初見。太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」を下地にしたケラリーノ・サンドラヴィッチのオリジナル戯曲を映画化。この情報はまったく知らなかったので目から鱗。数人の愛人と別れるためにあの手この手、というのも太宰の実話ベースなのかしら。


文芸作品に「人生喜劇」のエッセンスをふりかけて舞台劇に書き上げたケラのセンス。戦後東京のカオスと昭和東京のノスタルジー。衣装からメイクからセットから、リアリティよりも嘘くささを意識した美術スタッフは最高のお仕事。


(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ


女性たちの個性が印象的。健気な妻(木村多江)、薄幸の未亡人(緒川たまき)、清純派の絵描き(橋本愛)、ウーマンリブの女医(水川あさみ)、そしてヤミで強く生きるキヌ子。綺麗なだけじゃ生きられない、したたかさを持つ戦後の女性たち。


主役は田島である。物語を動かすのは連行である。なのに本作は女性あってこそ。添え花どころか、むしろ彼女らが主役と言って良い。男たちが敗戦を引きずる一方で、女たちはいち早く前に進んでいた。それが男の弱さ、それが女性の強さだ。


(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ


徐々に切れ物役が増えた大泉。それでもやはり、だらしない男を演じさせると超がつく安心感。小池がヒロイン。声色がやり過ぎと思えるほどのコメディ仕様。コメディはやり過ぎなくらいのほうが絶対ウケる。この二人、鎌倉殿と政子だな。


緒川が爆ぜた。美しい方が振り切った時、怖い物などあるのだろうか。橋本の出演は知らなかった。こちらは爆ぜないのがむしろ怖い。水川は…演技上手になってないか。木村はもはや風格。NHKの阿佐ヶ谷姉妹、大好きだった。


(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ


複数の愛人。しかも田島の勝手な都合で縁を切る。今なら炎上ものだ。一方、登場する女性がみんな強い。戦後ニッポンの新時代の予兆を感じさせるノスタルジック・コメディ。文芸かぶれのダメ男が女性の強さを際立たせる。


ラストは元ネタどおりなのかな。強い女性の象徴であってほしいキヌ子が、どんどん印象が薄くなっていく。ラストが蛇足だった気さえするが、ふつうに幸せを追うという生き方もひとつの選択肢ではあるわけだ。



 DATA

監督:成島出/脚本:奥寺佐渡子/原作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

出演:大泉洋/小池栄子/松重豊/緒川たまき/橋本愛/皆川猿時/水川あさみ/田中要次/池谷のぶえ/犬山イヌコ/水澤紳吾/濱田岳/戸田恵子/木村多江



hiroでした。



ちょっと今から仕事やめてくる←刺さる成島作品


ソロモンの偽証←これも成島作品


新解釈三國志←大泉主演作