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日本人に根深く残る不文律

(C)2019「楽園」製作委員会

楽 園


過疎の村で少女の失踪事件が発生。懸命な捜索も虚しく、行方不明のまま未解決事件となる。その12年後、同じ場所で再度失踪事件が発生。かつての事件が蒸し返され、両方の事件で難民女性の息子豪士(綾野剛)が怪しいと声が上がる。12年前の被害者家族である藤木(柄本明)は村人を引き連れ豪士の家に向かう。


(C)2019「楽園」製作委員会


あぁ吉田修一だったか。差別が犯罪を生み、犯罪が怒りを生む。負の連鎖である。犯罪悪は明確。だが本作、犯罪者を擁護しないまでも被害者家族にもある意味辛辣だ。そこが吉田修一作品の「らしさ」なのだが、これは観られない方もいるかと。


失踪事件を追うミステリーではない。失踪事件の起きた限界集落の風景である。中心人物である豪士も善次郎(佐藤浩市)も集落に根付く人々にとっては「余所者」である。日本は差別がないというのは本当か。田舎の人間は暖かいというのは本当なのか。


(C)2019「楽園」製作委員会


一筋縄でいかない。被害者の祖父なら同情されるのが定番だ。本作の怒りを抱える藤木の暴走は怖い。傷を抱えていると思われた少女紡(杉咲花)も実は違うものを抱えていた。この感情が複雑すぎて、僕にもちゃんとのみこめていない。


ストーリーの組み立ても展開も予測できない。誰が悪いのかも明確にしていないし、むしろ「みんな悪い」と主張しているようにさえ思える。人が集まると不文律というのが出来上がる。会社の人間関係も田舎暮らしも、根底は同じなんだ。


(C)2019「楽園」製作委員会


瀬々監督によって配され演じさせられた一人一人の演技が渾身。映画だとクセの強い役が多い綾野はまたもやキャリアアップ。大物になりキレイな役が多かった浩市さんも久しぶりにドロドロな役。観るたびに驚かされる杉咲も天井知らずの勢い。


柄本さんの鬼気迫る演技は本作のキー。後半の品川徹渡辺哲らと共に「集落」という集団を象徴する存在だ。集落に翻弄される黒沢あすか片岡礼子も全力でクセツヨのベテランに応酬。村上虹郎は唯一希望のある役どころ。


(C)2019「楽園」製作委員会


タイトルは「楽園」。その概念は人それぞれで異なる。集落は、豪士にも、紡にも、善次郎にも、楽園ではなかった。終盤のセリフ「自分の楽園を作れ」が本作のテーマなのかな。犯罪悪をどうこういう作品ではないので後味は良くない。


差別や偏見が生むのは「孤独」。その構図はイジメと何ら変わらない。限界集落だから、都会だから、なんて関係ない。自分と違う考え方や存在と共存する。たったそれだけで孤独は作られない。違うことを良しとしない世の中に楽園などあるのだろうか。



 DATA

監督・脚本:瀬々敬久/原作:吉田修一

出演:綾野剛/杉咲花/佐藤浩市/村上虹郎/片岡礼子/黒沢あすか/石橋静河/渡辺哲/田中要次/モロ師岡/嶋田久作/品川徹/根岸季衣/柄本明



hiroでした。



ロクヨン←瀬々監督X佐藤浩市X綾野剛


少年メリケンサック←佐藤浩市がパンクバンド


湯を沸かすほどの熱い愛←杉咲花好演!