NETFLIX


辛辣な毒を懐に隠す舞台劇

マ・レイニーのブラックボトム


トランペット奏者レヴィ(チャドウィック・ボーズマン)がレコーディングスタジオのリハーサル室でバンド仲間を相手に「白人好みの明るい曲を評価された」と自慢話に花を咲かせる。そこにブルースの母と呼ばれる歌手マ・レイニー(ヴィオラ・デイヴィス)が遅れてスタジオ入りするが、色々と難癖をつけてレコーディングは一向に進まない。



我らがワガンダ王ボーズマンの遺作となった本作。アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされたボーズマンの最後の演技を観ようとNETFLIXで鑑賞。地味な展開でありながら、そんな感傷に浸ることを許さない強烈な毒をもったラストに舌を巻く。


主にリハーサル室とレコーディング室を行ったり来たりの2場劇。歌うような台詞回しや急激な心理描写のスイッチなどもあり、どこか舞台劇のよう。オーガスト・ウィルソンが80年代に発表した戯曲を原作としていることは後から知った。



イライラを増長させるレイニー。白人を信用していないことに端を発しているのだが、白人に媚を売るレヴィのことも気に入らない。そのレヴィも成功を夢見る一方で白人への苦い思いも胸に秘めている。てっきり2人の反目がメインなのかと。


ところが衝撃のラスト。本当のワルは誰を指すのかわかったとき、本作の「凄み」に震えた。「ブルースは人生を歌うんだ。白人なんかには歌えない」と豪語するレイニー。一方で、陽気にノリノリに歌う白人のラストカットに感じる違和が強烈に刺さる。



主演男優賞ノミネートのボーズマン。月並みでお恥ずかしいが、ただただ惜しまれる。こんな役もできるのか、こんな演技もできるのか、という新しい発見だらけ。引き出しはもっとあったろうに。ボーズマンの才能と情熱を讃えるエンドロールに涙。


一方、主演女優賞ノミネートのデイヴィス。こちらはもう「貫禄」。わがままオバチャンとブルースの母の切り替えが見事。ちなみにマ・レイニーは実在の歌手。レイニーの「お気に入り」のコーラスガール役テイラー・ペイジがキュートで良い。



「ほしいのはアタシの声だけよ」…1920年代ともなると今よりも切実だったろう。白人の専横に「小さな抵抗」でしか本意を示すことができないことを知っているレイニー。白人に迎合しようとするとレヴィの結末も予測がついていたのだろう。


北部風に手を差し伸べているように見せかけ、黒人からブルースまでも取り上げようとする白人。そんな時代だったと反省するのか、不快に思うのか…当の白人の方々は本作をどう観るのかな。


チャドウィック・ボーズマンは永遠に進化する。



 DATA

監督:ジョージ・C・ウルフ/脚本:ルーベン・サンチャゴ=ハドソン/音楽:ブランフォード・マルサリス

出演:ヴィオラ・デイヴィス/チャドウィック・ボーズマン/グリン・ターマン/コールマン・ドミンゴ/マイケル・ポッツ/テイラー・ペイジ/デューサン・ブラウン



hiroでした。



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