WOWOW鑑賞


映画を「聴く」体験

羊と鋼の森


なんとなく高校時代を過ごした外村(山﨑賢人)は偶然耳にしたピアノの調律師・板鳥(三浦友和)の叩く鍵盤の音に生まれ育った森の景色を見る。その音に魅了された外村は東京で調律師の勉強をして、地元北海道の板鳥が経営する楽器店に就職。先輩調律師・柳(鈴木亮平)に付いて修行を始めた外村はピアニストを目指す姉妹・和音(上白石萌音)と由仁(上白石萌歌)に出会う。



ものすごく静かで清潔。北海道の大自然の春夏秋冬ごとに異なる風景。深呼吸すると草花の匂いまで感じられる。そんななかに外村はじめピアノに関わる人々の生活もある。ピアノの音の余韻に、調律の微かな作業音に、耳を澄ませたくなる。

初見。ロケ地・旭川周辺の映像に心洗われる。しかし、本作のキモは音。音楽映画だからではない。いや、音楽映画でありながら、音楽はむしろ少ない。楽曲を構成する1音1音の音へのこだわり。微かな違いを引き出す調律の仕事にスポット。



音楽も音も必要最低限まで排除。音楽家世武裕子が音と向き合い必要な音だけを選ぶ。楽曲だけではない。フェルトが弦を叩いて発する音、弦を張る音、人の歩く音、雪の降る音、あらゆる音に対してだ。セビーこと世武さんのベストパフォーマンス。

観る側も自然と姿勢を正して聴覚に意識を集中。全編通してこの緊張感なのに、なぜだろう、疲れるどころか心地良い。なんとなく耳にする音楽、自然と耳に入る生活音。すべての音には意図がある。言葉がある。本作の、拾い物の一本。大好きな一本。



静かな作品なのでセリフも少ない。決して滑舌がいいほうではない賢人くんの居心地や佇まいが良い。調律の一挙手一投足が滑らかで、さぞ勉強されたのであろうことを偲ばせる。指導係の亮平くんも脇で光る時のパターン。二人の相性は案外良い。

上白石姉妹の姉妹役共演は貴重。レジェンド女優吉行和子さんにセリフなしという贅沢。「今際の国のアリス」で賢人くんと共演の森永悠希もセリフなし。そういえばアリスには仲里依紗も出てたわ。友和さんがダンディでステキすぎ。



お話は「才能ってなんだろう」がテーマ。才能があったらあったで苦しみも多い。オチ的には大雑把にまとめちゃってる(笑)が、最終的にはそれがすべて。あながち間違いじゃない。なんとなく生きてるよりは悩んだほうが絶対プラス。


などと理屈を並べてても本作の価値は伝わらない。観て、委ねて、耳をすます作品。気持ち良いので、眠くなったら寝てよい。続きは今度観ればいいのだし。



監督:橋本光二郎/脚本:金子ありさ/原作:宮下奈都/音楽:世武裕子

出演:山﨑賢人/鈴木亮平/上白石萌音/上白石萌歌/堀内敬子/佐野勇人/仲里依紗/城田優/森永悠希/光石研/吉行和子/三浦友和



hiroでした。



蜜蜂と遠雷 ←これも音に特化した作品


今際の国のアリス ←賢人、悠希、里依紗出演