15本目(7月7日鑑賞)

感受性は前進するための武器
カセットテープ・
ダイヤリーズ

工業の街ルートンに住むパキスタン移民の子ジャベード(ヴィヴェイク・カルラ)は、いつか街を出て自由に生きることを夢見る高校生。ところが現実は英国史に残る大不況。故国の伝統を頑なに守る父(クルヴィンダー・ギール)も職を失い、ジャベード夢も諦めかけていた。そんな折、学校で知り合ったルーブス(アーロン・ファグラ)から借りたカセットテープから聴こえてきたロックの歌詞に衝撃を受ける。


…その耳にした曲がブルース・スプリングスティーン。初めに白状します。僕は中学生の頃に彼の「ハングリー・ハート」と出会い、大ヒットアルバム「ボーン・イン・ザ・USA」でガッツリファンになった人です。

「実話に基づく」ストーリー。時代は1987年でリアルタイム。遠く離れた東京の空の下、僕もほぼ同世代のジャベードと同じ曲に熱くなっていた。本作の評価のハードルは鑑賞前から自然に低くなることはご承知おきを。


歌詞に衝撃を受けて人生が変わる…映画好きの方々はわかりやすいはず。一本の映画やひとつのセリフで人生が変わるなんてよくある話。僕の場合、そういう作品を求めて映画を見ていると言っていい。それと同じよね。

その感受性は誰もが持っている。年齢は関係ないが、子どもから大人になる時期はとくに強い。いつの時代も厳しい現実は形を変えて我々を襲う。それでも受け入れ、前に進んで行くのにその感受性は最強の武器となる。


主演カルラくん、助演ファグラくんは初見。近年、映画界の多様化の流れであらゆる人種の俳優にチャンス到来。彼らをセンターに配置したことがメッセージ。デヴ・パテル、ラミ・マレックらに続けるか。

デュランデュラン風幼馴染み役ディーン=チャールズ・チャップマンは「1917/命をかけた伝令」の相方。先生役ヘイリー・アトウェルは「キャプテン・アメリカ」シリーズのペギー。周りが豪華だったりする。


本作、単なるブルース賛歌ではない。飾らない歌詞、蓄積した怒り、抑圧者へのメッセージ…主人公を取り巻く移民差別、経済不況、世代間ギャップ、常識論…これらがすべてブルースにつながる脚本が上手い。

政治的に描けば重くなる社会問題。1人の青年の瑞々しい感性をフィルターにしたとき、本作は一遍の青春物語となった。MTV風の映像表現も懐かしい〜


ブルース・スプリングスティーンについては以前こんな記事を書いたのでご参考までに。


監督・脚本:グリンダ・チャーダ/原作・脚本:サルフラズ・マンズール/脚本:ポール・マエダ・バージャス/音楽:A・R・ラフマーン
出演:ヴィヴェイク・カルラ/クルヴィンダー・ギール/ミーラ・ガナトラ/ネル・ウィリアムズ/アーロン・ファグラ/ディーン=チャールズ・チャップマン/ロン・ブライドン/ヘイリー・アトウェル/デヴィッド・ヘイマン


hiroでした。