57本目(12月16日観賞)

笑いの先にある声職人の矜持
カツベン!

監督:周防正行/脚本:片島章三/音楽:周防義和
出演:成田凌/黒島結菜/永瀬正敏/高良健吾/竹中直人/渡辺えり/音尾琢真/成河/酒井美紀/シャーロット・ケイト・フォックス/上白石萌音/城田優/草刈民代/山本耕史/池松壮亮/井上真央/小日向文世/竹野内豊

無声映画の時代、活動弁士に憧れて興業一座に入ったものの泥棒の片棒を担がされていた俊太郎(成田凌)。本物の弁士になろうと一座を抜け出し、採用された町の活動写真館で憧れの弁士山岡(永瀬正敏)と出会う。ところが、酒浸りの山岡にかつての輝きはなく、スター弁士茂木(高良健吾)もライバル館に引き抜かれる。出番が回ってきた俊太郎は徐々に人気弁士となっていくが、泥棒一座の永尾(音尾琢真)が再び俊太郎の前に現れる。


舞妓はレディ」からもう5年が経過。社会派からコメディまで幅広い作品を発信し続ける周防監督が選んだ題材は「映画」。しかも日本人にとっての映画黎明期…サイレント映画の時代。僕も話でしか聞いたことがない。

映画というエンタメ。その素晴らしさを言葉で伝え、日本における映画文化の礎を築いた「活動弁士」が飛び回る。牧野省三(山本耕史)、二川文太郎(池松壮亮)ら実在監督も登場。映画人へのリスペクトに溢れた作品。


映画トリビアも満載。歌舞伎や講談が大衆娯楽の花形だった日本人ではなるほど活動弁士のスタイルが馴染みやすかったのだと納得。フィルムが「声」や「音」を持つに至り、彼らは次第に姿を消していくことになる。

弁士の口ひとつで人情物も喜劇になる。権利が重要な今ではまずNG。彼らがもてはやされたのも姿を消したのも時代の要請。必要な時だけ現れる時代の寵児。彼らがいなければ今の映画は違うものになっていたのだろう。


凌くんのピンの主演はお初でしょうか。チャラ男になり、ダメンズになり、爽やか青年になり…この器用さは武器になる。黒島結菜が初々しく華を添える。井上真央は絶対コメディが似合う。弁士永瀬、高良の個性も絶品。

竹中直人渡辺えりの「シャル・ウィ・ダンス」ペア再結成。竹野内豊と音尾の配置が絶妙。草刈民代城田優シャーロット・ケイト・フォックス上白石萌音の登場に笑いが抑えられない(どこに出るかはお楽しみ)。


周防作品は幅が広い分揺れも多くて、観るまでドキドキ。本作は面白い。観てよかった。スタンダードなコメディ(古くささはあるけど)で「遊び」も随所。劇場からも笑いが漏れる。高良くんもコントに挑戦(笑)。

活動弁士の終焉はリアルでビター。世の中そんなに甘くはない。それでも社会におもねることを選ばない姿に職人の矜持をみる。好きで始めた仕事だから。それが自分だから。映画に詳しくない方にもオススメですよ!



hiroでした。



脚本8 映像7 音響7 配役9 音楽8
39/50