WOWOW鑑賞
無意識の魔性
郊外の一戸建てに引っ越して間もない小夜子(常盤貴子)は夫の光太郎(勝村政信)、娘のかんな(木村美言)の3人家族。専業主婦としての日々を過ごしていたが、たまたま入った美容院の美容師・海斗(池松壮亮)から営業メールを受け取ったことから、平凡な生活に波風が立つ。
公式情報も映画サイトのあらすじも、不倫物のような書き方をしているのですが、違和感を感じたのは僕だけでしょうか。
「メール」はキーアイテム。「専業主婦」として家族以外の繋がりが希薄だった小夜子。メールが外と繋がる窓だと気付く。娘は学校の友達と、夫は会社や取引先の人間と、自分が介在できない繋がりがある。やっとできた繋がりが海斗だった。
その先が情報と乖離してる気がするんです。ネタバレなので後で書きます。
結論だけ先に。
ラストカットで考えてもなかった核心に気付く。不倫とかストーカーとかの情報で「こういう映画」と決めつけてたので、頭の中でどんでん返し。
最後にひっくり返される作品は大好物。低評価なのはなんとなくわかるけど(笑)
想像を掻き立てる常盤さんの表情や仕草が凄味。「言わない本音」を語る名演技。池松くんも勝村さんも受身演技の達人。逆に佐津川愛美は攻め。
男がひたすら受身であたふたする作品(小市慢太郎はあたふたしない)。エロ巨匠東陽一が「見せないエロ」で魅せる。
ということで以下ネタバレです。知りたくない方はご遠慮ください。
小夜子は不倫していない。予告の「一線を越える」は嘘。小夜子に潜む魔性の話。魔性=悪意ではなく、日常の無意識なもの。光太郎が好きだという小夜子のセリフは本音だと思う。小夜子の妄想はすべて光太郎相手だし。
海斗はメールを返信しただけ。ベッドが届いたから写真を送り、住居が推測できるので探しただけ。意味ない行動に勝手に意味を加えられただけ。きっと海斗が一線を越えてくると去る人。
男をフワフワさせる魔力。娘の「大人になったら切ってください」のセリフにも少女のなかのそれの微かな匂い。これは「魔性」を描いた日常ホラー。
ラスト、うたた寝から覚めた小夜子が退屈そうに欠伸。このカットにハッとさせられた。何の計算もない無意識の「魔性」に。
監督・脚本:東陽一/原作:井上荒野
出演:常盤貴子/池松壮亮/勝村政信/木村美言/佐津川愛美/山田真歩/岸井ゆきの/小市慢太郎/河井青葉/螢雪次朗
hiroでした。