31本目(4月1日観賞)
下のビジュアル、よく見ると…
ムーンライト
監督・脚本:バリー・ジェンキンス/原案:タレル・アルバン・マクレイニー/撮影:ジェームズ・ラクストン/編集:ナット・サンダーズ/ジョイ・マクミリオン/音楽:ニコラス・ブリテル
出演:トレヴァンテ・ローズ/アシュトン・サンダース/ナオミ・ハリス/マハーシャラ・アリ/ジャネール・モネイ/アンドレ・ホーランド/ジャハール・ジェローム
マイアミの黒人の貧困地区に母(ナオミ・ハリス)と暮らすシャロン(アシュトン・サンダース/トレヴァンテ・ローズ)は、学校でいじめにあい、危険な麻薬地区の空き家に隠れていたところを麻薬ディーラーのフアン(マハーシャラ・アリ)に助けられる。以後、辛い現実から逃避できるのは、フアンの家と同級生のケヴィン(ジャハール・ジェローム/アンドレ・ホーランド)といる時だけだった。
戸惑った。
フアンが言う。「故郷のキューバの町には黒人しかいない」…そう言いながら、これは直接的な人種差別の話ではない。なにせ本編に白人が出てこない。
話題の着色加工カラーリストだけじゃない。気になる映像の連続。人物が画の中心からズレてたり、ピンがあってなかったり。そんなのがたびたび差し込まれる。おそらく主人公の心象。
音楽の音量も大きくてドキッとする。意図されたような不安定な感覚が多々。答えを模索しながら僕たちはシャロンの人生を追う。
主人公の少年期、青年期、成人期の3つの時代。「リトル」「シャロン」「ブラック」…それぞれの時代の呼称をタイトルにした3章構成。
3章通してのキーワードはドラッグ。シャロンの母は薬物依存。拠り所としたフアンは麻薬ディーラー。自分の未来は自分で決めろとフアンが言う。そして決めた仕事がフアンと同じ麻薬ディーラー。ディーラーとなったシャロンが更生施設の母を訪れる。
…矛盾だらけ。この矛盾と負の連鎖を解消できないのがアメリカが抱えるジレンマ。
画に白人がこれだけ映らないのは珍しい。マイアミ・リバティシティは黒人の低所得層が集まる犯罪多発地域。隔離された黒人社会の閉塞性がもう一つのテーマか。白人を攻撃することなく、ただ黒人社会を切り出す。
同性愛も3章通して語られる。変わらないといけない社会がある。しかし人の本質は変わらない。ケヴィンと再会したシャロン。リトルと呼ばれ、ブラックと呼ばれても、シャロンはシャロンなのが救われる。
「月明かりで、お前はブルーに輝く」…肌の色も母も貧困も愛する人も関係なく、月明かりはすべての人の本当の姿を映し出す。
アカデミー助演男優賞獲得のマハーシャラ・アリ。出演時間は全体の3分の1。なのに納得のオスカー。ナオミさんは3章通し出演。息子を心配する母、ドラッグに溺れる母、後悔して息子を思いやる母。章ごとに違う母の顔。素晴らしい。
シャロンを演じた3人の俳優にも拍手。トップのビジュアルが3人の顔の合成だと観賞後に気づいた。同じ目だ。
結構考えないと答えにたどり着かない。答えを導く過程も多角的。その答えすらひとつだけでもなさそうだ。このハードルの高さは娯楽作品とは言い難い。
が、映画の質は高いと思う。しっかりと映画と向き合う時間も楽しい。
hiroでした。
脚本9 映像9 音響8 配役8 編集9
43/50