DVD鑑賞


不器用な男と失意の女の再生物語。
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君と歩く世界


監督・脚本:ジャック・オディアール

脚本:トーマス・ビデガン

音楽:アレクサンドル・デブラ

原作:クレイグ・デイヴィッドソン

出演:マリオン・コティヤール/マティアス・スーナーツ/アルマン・ヴェルデュール/セリーヌ・サレット/コリンヌ・マシエロ/ブーリ・ランネール/ジャン=ミシェル・コレイア


いつもは、ここにあらすじ。今回は観る前の勝手なイメージから。


事故によって両足を失ったステファニー(マリオン・コティヤール)。失意の彼女は、シングル・ファザーのアリ(マティアス・スーナーツ)と出会い、彼の優しさに触れ、再生の一歩を踏み出す。二人の愛が奇跡と感動を呼ぶ。


…間違いじゃないけど、これじゃ映画の半分。本当のあらすじはこんな感じ。


シングル・ファザーのアリは、格闘技の経験を生かし、クラブの用心棒や夜警の仕事で暮らしている。しかし、生活は貧しく、怠惰な日常に明け暮れ、愛している一人息子のサム(アルマン・ヴェルデュール)にも辛く当ってしまう。

クラブでの仕事中に、男性客ともめているステファニーを助けたアリ。彼女を家まで送り届け、連絡先を残して立ち去った。

ある日ステファニーからアリに連絡が来る。シャチの調教師であるステファニーは、ショーの最中の事故で両足を失い、失意の底にいた。ステファニーに会いに海岸沿いの彼女の家を訪れたアリは、閉めきった暗い部屋で不器用に車いすを操作する姿を目にし、「外へ出よう」と提案する。


…といった具合。マリオンのピンの主演のようなPRは誤解。これはひと組の男女の「再生」を描いた物語。

勘違いしていたhiro。なかなかマリオンが登場しないスタートに、違うDVDなのではと不安になる。さらに、会話を聞いてこれがフランス映画だということにも、遅ればせながら気付く。バカである。バカついでにもうひとつ。観終わって、これはとてもいい作品だと、気付く。

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事故により両足を失ったステファニー


まずはアリ。用心棒や夜警、ストリート・ファイト。格闘技が得意な筋肉バカ。行きずりセックスを重ねたり、喧嘩っぱやくて息子にさえ暴力をふるう。サイテー。

ただ、息子のことを愛していることは真実らしい。離婚の時も無理を承知で引き取ってる。愛情がうまく表現できない。

そしてステファニーと出会い、彼女を愛し始める。なのに、他の女性との逢瀬は続けている。ステファニーのためにどうしてあげればいいのかわからないのである。

いよいよ真正のバカ。この物語の主人公となったバカ男を、どうやって再生させるというのか。


一方のステファニー。両足を失った失意。外界との接触を倦厭するようになり、ひとり暗い部屋にこもる。「外に出よう」と言うアリ。なに気にしてんだよ、堂々と外に出ればいいじゃん、今まで通りふつうに暮らせばいいじゃん。アリの言外のメッセージに背中を押され、明るい太陽の下に戻る。

愛情表現が下手なアリのもつ優しさを知っている。自分に対して「同情」ではない「愛情」を注いでくていれることを知っている。ステファニーは、次第にアリの存在が心の支えとなっていく。


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不器用にしか生きられないアリ

ストリート・ファイトで絶体絶命のピンチに陥るアリも、ステファニーの姿を見るや「やる気スイッチON」。どこまでも単純でバカな男アリ。どこまでも素直でまっすぐな男アリ。

息子を失いかけて、初めて息子への愛を自覚する。グータラな自分を知っていながら、本当の自分を見つめてくれるステファニーの態度に、彼女への愛を自覚する。

両足を失ったショックから立ち直ったステファニーの再生と、このバカ男の再生。二人の再生はセットである。どちらか一方が欠けては成立しない。二人の人生の再生…人生の生き直しを描いた、素敵な作品。


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二人の人生の再生への歩み


映像が美しい。特に太陽の光。夜の世界で生きてきた男と暗闇に引きこもってしまった女。二人が生き直す場所が、美しい太陽の下なのだ。

音楽の使い方が絶妙。ほとんど効果音はなし。背景の自然音が心地いい。突然挿入されるポップスやロック。どれも、登場人物の心境の変化がある場所で効果的に使われている。懐かしい曲に歓喜もした。

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これもまた、宣伝の方向が微妙だった作品。宣伝で受けるイメージよりも、もっといい作品なのに、もったいない。


バカ男を熱演のマティアス。一応主人公だけど、やっぱマリオンが一枚も二枚も上手。マリオンあってこその作品。

車いすだって、膝から下がなくたって、恋もするし、セックスだってしたい。「同情」は「優しさ」とは違う。


最後のシーンは、「いらん」言う人もいそう。




hiroでした。