52本目(11月10日鑑賞)


人気小説の映画化だと思ってたら、これが映画になった経緯、ちょっと違うんですね。知りませんでした。なんでも、城戸賞という脚本の新人賞があり、和田竜さんの「忍ぶの城」という作品が受賞。ここから映画化の話が進むうちに、「これ小説にしませんか」という話が出て、改題して出版してみたらこれが大ヒット。この改題が「のぼうの城」、そう、この映画の原作なんです。


観たい映画を観て、読みたい本を読んで、聴きたい音楽を聴く!-のぼう1

のぼうの城


豊臣秀吉(市村正親)は、天下統一の総仕上げのため小田原攻めに向かう。北条氏政(中原丈雄)が守る小田原城を囲む一方で、関東各地の支城にも武将を送る。

そのひとつ武蔵の忍(おし)城へは、秀吉の腹心でありながら武闘派の武将から軽んじられている石田三成(上地雄輔)を大将に、大谷吉継(山田孝之)、長塚正家(平岳大)ら2万の軍勢を差し向けた。実は忍城の城主・成田氏長(西村雅彦)から、事前に豊臣方に内通する旨を聞いていた秀吉が、三成に武勲を上げさせようという親心だったのである。

その忍城、1000人の軍勢の半分を城主氏長とともに小田原城へ派遣していたため、手勢は500人。さらには、留守を守る城代・成田泰季(平泉成)が病気で斃れ、城の守りは泰季の息子・成田長親(野村萬斎)、正木丹波守(佐藤浩市)、柴崎和泉守(山口智充)、酒巻靱負(成宮寛貴)らの手にゆだねられた。

城を囲む2万の軍勢。開城の使者として訪れた正家の出した条件に、氏長の娘甲斐姫(榮倉奈々)の差し出しが含まれていることを知った長親は、氏長の開城路線を一転。天下の軍勢を向こうに回したわずか500人の戦いを決意する。


観たい映画を観て、読みたい本を読んで、聴きたい音楽を聴く!-のぼう4

水田に囲まれた忍城を見た三成。「浮き城か」


前述のように脚本が小説になり、小説が映画になった、というややこしい経緯(笑)。原作未読ですが、なるほど、ですね。脚本ありきの小説なので、きっと読んでて情景が浮かびやすいんでしょうね。原作の和田さん、運がいい…うらやましい。

有名な話ですが、この映画、公開についてもいわくがつきました。三成は水田に囲まれた城をみて水攻めを着想します。城の周りを堤で囲み、周囲の川の流れをこの城に導くというもの。この際の水が流れ込んでくるシーンが津波を連想させるということから、東北地方の傷のいえていない昨年の公開を見合わせ、今回の公開に相成りました。その水攻めシーン、実際に劇場で拝見し、賢明な選択だったと思えました。あれは怖い。


観たい映画を観て、読みたい本を読んで、聴きたい音楽を聴く!-のぼう2
のぼう軍団。

左から和泉(山口)、靱負(成宮)、のぼう(野村)、丹波(佐藤)


さて、2万の大軍に500人で対抗しようとするのぼう軍。ちなみに「のぼう」とは長親の愛称。「でくのぼう」を縮めて「のぼう」です。ただ、「うつけ」などの蔑称とちがい、「仕方のない人だ」と愛情をこめて、家臣も、領民も呼んでいます。

2万対500。どう考えても負けは目に見えている。冷静な丹波も懸命に考えを覆そうと説得するが、「嫌なものは嫌なのじゃ」と駄々をこねるのぼうに周りの空気が自然と交戦へと変わっていく。のぼうの魅力。のぼうの魔力。丹波もやがては「やってやるか!」と賛意します。負けるとわかっている戦を決意するこの連中がいかにも痛快。カッコいい!

グッサンはキャラがはまっている。一本調子で単調ではある。器用ではないのかもしれません。ただ、一本調子で単調な演技をするどの役者よりも抜きんでている、そんな気がします。

成宮君はいい立ち位置。相変わらず脇が多い中、最近では人気テレビシリーズ「相棒」のレギュラーも獲得して、3~4番手から2番手に躍進中。脂がのって、テカテカしている。

主役の萬斎。役者は本業ではない。能や歌舞伎、舞台の人は得てしてキャラクターが濃い。彼も同じで、テレビ・レベルでは他の役者がかすむ。やはり映画がいい。

そして今作。能役者である彼の本領発揮。芝居めいた台詞回しも、のぼうの飄々としたキャラにマッチ。そしてそして、田楽。田んぼの真ん中で農民とともに踊り歌う。水攻めの最中の敵前で歌い踊る。もう彼しかいない。萬斎にしかこの役はできない。

榮倉奈々は賛否両論。靭負の「あれは人か」は確かに言い過ぎ。可愛さレベルでも芦田愛菜に軍配。ただ、いい演技ができるのは「アントキノイノチ」で実証済。

前田吟さんも久々グッジョブ!


観たい映画を観て、読みたい本を読んで、聴きたい音楽を聴く!-のぼう3

対する天下の兵。左から正家(平)、三成(上地)、吉継(山田)


秀吉軍の3人も個性派。三成の位置関係は史実の通り。日本史好きのhiroは、けっこう好きです、この3人。特に関ヶ原における吉継の男気は惚れる。が。ここでは関係ないので割愛。

三成、けっこうおバカなイメージが流布していますが、ここの三成は爽やか。上地君といえば、大河ドラマでの小早川秀秋の印象が強く、結構かぶりました。hiro的には小栗旬のやった三成がベスト。

正家…おバカです。滑稽なほど。この3人にあってボケ役を担っています。平さんの時代にマッチした容貌がまたおかしい。

吉継…さっきも書きましたがホントに好きなんです。三成の足りない部分を、三成の幕僚・島左近とともにフォローする役回り。情に厚く、潔い。ほとんど司馬遼太郎の「関ヶ原」のイメージなのですが、今回のキャラがまさにそれだった。おしいくいただきました。


この作品、なぜか監督が二人。犬童一心樋口真嗣。犬童監督は「黄泉がえり」「ジョゼと虎と魚たち」「いぬのえいが」「メゾン・ド・ヒミコ」「タッチ」「黄色い涙」「グーグーだって猫である」「ゼロの焦点」と幅広くメガホンをとっている監督。器用というか、ばらつきがあるというか。「ジョゼ…」は名作なんですけどね。そういう意味では今作も新ジャンルですね。一方樋口監督。観たのは「ローレライ」「日本沈没」くらいかな。作品の良し悪しはともかく、スケール感はある監督ですね。兄弟監督というのは海外でよく見かけますが、まったくの他人というのはあまり例がないのでは(途中降板のような事情は除く)。足りないところを補いあったのでしょうか。今作の三成と吉継みたい。


忍城という、一般的には認知度の低い史実を扱っています。本来なら地味~に展開しそうなものですが、登場するキャラクターたちの個性がこれでもかと描かれています。2時間半近くありましたが全然飽きさせない、爽快なエンターテイメント。これは面白かった!


ちなみに舞台になったのは現在の埼玉県行田市。三成が築いた堤の一部は、現在も「石田堤」と呼ばれて残っているそうです…ってエンディングで言ってました。行ってみようかな。



hiroでした。

日本史ネタだらけになっちゃった。