今回読書日記として残しておきたいのは「戦中派不戦日記」山田風太郎著 講談社文庫。途中まで読んでこの本は手元に残しておきたいと思い購入しました。左側はフォントが小さくページ数が少ない図書館の本。右が新装版です。

 

 

この本は、終戦の年の一年間、23歳だったの著者、医学生の日記です。今から78年前の激動の時代に人々が何を思っていたのか、どんな生活を送っていたのかを詳細に記してあります。

 

私たちは教科書で歴史を学ぶことはできるのですが、普通の人々がその当時どんな暮らしをして何を考えていたのか、想像することはなかなか難しい。特に、日本が勝算のない戦争になぜ突き進んでしまったのか、なぜ早期に降伏せず多くの命を失っていったのか。当時の多くの国民の雰囲気をこの本は見事に表現してくれています。

 

東京大空襲で焼夷弾が燃え盛る中を人々が逃げ惑い、川に落ち、焼け死んでいく。上野駅で戦争孤児や老婆が飢え死んでゆく。自分が生きてゆくのに精一杯で路傍で人が倒れ、いまそこで死にゆくのを見ていても通り過ぎてゆく。

 

フィリピン戦、硫黄島、沖縄の玉砕を新聞で知った時、広島の原子爆弾による惨状を知った時の一市民の感想などが歴史の教科書ではわからない現実味をもって語りかけてくれます。

 

玉音放送を聞いた8月15日、著者は本土決戦を辞さず戦い抜くべきと思う。これまで国を守らんとして死んでいった兵士達に申し開きができないと思う。

 

終戦後、軍幹部の数人は割腹自殺し、数人は戦争裁判にかけられる。進駐軍のジープに乗り走り去る日本女子。チョコレートやタバコを無心する人々。手のひらを返すように変わりゆく政治家、評論家、新聞の論調。

 

昨今のロシアの力による一方的なウクライナの侵略、中国の台湾への脅威、北朝鮮の核の開発などの状況下で、この本は戦争の悲惨さの中で人々がどう生きてきたかを、時を超えて語りかけてくれます。