あらすじ

大学生のユウキは、入試当日の受験生案内ボランティアを務めることになる。
しかし密かに、特定の受験生を観察して評価するという教授の“裏の任務”も担っていた。

緊張する受験生たちを試験教室まで案内しながら、ユウキは彼らの様子や会話を注意深く観察。
すべての案内を終えた後、教授に報告すると、注目の受験生については翌日の面接にも同席し、評価を続けるよう指示される。

こうしてユウキは、表向きは案内係、裏では受験生の評価者として入試の現場に関わることになるのだった。

 

※約4400文字

 ChatGPTによる小説風の校正が行われています。

 

【1】

 

「なあ、“ユウキ”は今度のボランティアやるのか?」

 

声をかけてきたのは、同じ大学の友人・コウスケだった。

世間ではもうすぐ春休み、という時期。
うちの大学ではこの時期、毎年“入試ボランティア”の募集がかかる。

 

「んー、正直あんまり乗り気じゃないけど……教授が“やれ”って言うからさ。
仕方なくやることになると思う。成績、ちょっとオマケしてくれるって言うしな」

 

もしその“オマケ”がなければ、絶対にやらなかっただろう。
テストの点数が悲惨だった俺としては、そのエサに食いつくしかなかった。

 

「あの教授、ほんと厳しいよな。単位あげる気ないんじゃないかって思うもん」

 

コウスケがそう言うのも無理はない。
あの教授の科目は、単位取得率が異常に低いことで有名だ。
だからこそ、こういう“ボランティア加点”のチャンスは逃せない。

 

「まあな。春休みの貴重な二日間を犠牲にして、加点っていう飴をもらうよ」

 

自嘲気味にそう言うと、コウスケはニヤニヤしながら悪ノリしてきた。

 

「でもさ、“ユウキ”。考えてみろよ? 中には可愛い子もいるだろうし、
出会いのチャンスかもしれないぞ?」

 

まったく、何を言ってんだこいつ。
そんなのバレたら、加点どころかマイナスだろ。

 

「はいはい。お前は俺を陥れたいのか?」

 

呆れ顔で返すと、コウスケは笑いながら手を振った。

「冗談だって……まあ、当日がんばれよ」

 

ため息をついてから「ありがとな」とだけ返した。

 

さて。
やろうとしている“ボランティア”について少し説明しておこう。

春休み期間中、俺たちの大学では入試が行われる。
普通の大学なら、受験生が自分で試験教室に向かうだろう。
けれど、この大学はちょっと変わっていて――

 

受験生はまず正門前で受付を済ませ、
その後、同じ学部・学科の“在学生”が試験教室まで案内する。
それが、長年続く伝統行事のようなものになっている。

学内が広すぎて迷子になるのを防ぐため。
あるいは、受験生の緊張を和らげるため――そう言われている。

 

だが、裏にはもう一つの目的がある。
――それは、“受験生を評価する”ためだ。

 

案内の最中、受験生の礼儀や態度、受け答え、周囲への気配りなどを観察し、
大学側に報告する。それが“ボランティア”の本当の役割。

 

つまり、俺たちは“受験生を審査する側”なのだ。
もちろん、この裏事情は他言無用。
受験生は誰もそんなこと知らない。

 

一応、評価結果が合否に直結するわけじゃない――と言われている。
だが、あくまで“表向き”の話だ。


教授たちはそのデータを入学後の参考にもしているらしい。

俺としても、いい加減な評価で誰かが落ちるようなことになったら後味が悪い。
だからこそ、ふざけるわけにはいかない。


噂によれば、過去に適当に採点して問題になった学生が処分されたらしい。

さらに、教授からは“極秘の指令”が下されている。


「とある受験生を重点的に評価せよ」と。

 

なぜその子を気にしているのかは分からない。
だが、それが“女子”だというのが、なんとも気になるところだ。
教授はその子を俺の担当にするよう、裏で手を回したらしい。

……いったい、何のつもりなんだろうな。

 

ともあれ、ボランティア当日――
どんな子なのか、少し楽しみにしておくとしよう。

 

 

【2】

 

ボランティア当日の朝は、やけに早かった。
何せ、受験生の受付が始まるのが午前八時だ。

だが、案内係はその時間に行けばいいわけではない。
当日の朝七時から、事前の打ち合わせがあるというのだ。
(前日にやればいいのにと思う……)

 

朝が弱い俺にとって、その時間までに支度を整えるのはなかなかの試練だった。
前日に「ユウキ、起きられるのか?」とコウスケにからかわれたが、
目覚ましを四つ並べて、なんとか起きることができた。

 

会場にはすでに多くの学生が集まっていて、
打ち合わせが始まるのを今か今かと待っていた。


時間になると担当教諭が現れ、今日の流れについて説明を始める。

受験生一人につき案内係が一人。
そして担当以外の受験生を案内することは厳禁とのことだった。

 

「なんだ、みんな担当が決まってたのか。
てっきり俺だけが秘密任務を受けてるのかと思ってたよ」

 

少し安心しかけたが、すぐに違和感に気づく。

俺の担当人数だけ、明らかに少ないのだ。


ほとんどの学生が四~五人を受け持っているのに、俺は二人だけ。
しかも、どちらも女子。

さらに言えば、そのうちの一人が例の“重点評価対象”――教授から極秘指令を受けた受験生だった。
彼女の案内中の様子を観察し、細かく報告しろというオマケつきの任務だ。

(やっぱり俺だけ特別扱いかもしれない……)

 

そう思うと少し気が重くなるが、担当が少ないのは正直助かる。
「まあ、人数が少ない分、楽できるって思えばいいか」

 

打ち合わせが終わると、案内係たちは一斉に受付へと向かう。
受験生たちが続々と集まり、八時ちょうどに受付が開始された。
途端に、周囲はざわめきでいっぱいになる。

 

担当番号の受験生が来るたびに、名前を呼ばれ案内係が動き出していく。
中には担当者待ちで立ち尽くしている受験生の姿も見えた。
(こりゃ早く案内して戻らないとマズいな)

 

そう思っていた矢先、受付の方から俺の名前が呼ばれた。
どうやら担当の一人が来たらしい。

番号と名前を確認し、間違いがないことを確かめてから自己紹介をする。
この子は例の“重点対象”ではないようだ。
ひとまず肩の力を抜きつつ、試験教室まで案内することにした。

 

道中、軽く世間話を振ってみたものの、相手は緊張しているのか返事が小さい。
(……これ、どう評価すればいいんだ?)

 

採点用の設問でも用意されていれば楽なのに、
これじゃあただの“沈黙ウォーキング”だ。

会話にならないまま教室へ到着し、彼女を見送る。


「ふぅ……俺は二人でよかったけど、四、五人担当してる連中は大変だな」


思わずため息がこぼれる。

ともあれ、一人目は終了。
急いで受付に戻らなければならない。
もう一人――“本命”が既に待っているかもしれないから。

 

 

【3】

 

受付へ戻ると、すでにもう1人の生徒が待機場で待っていた。

「お待たせしました。名前と受験番号を確認しますね」

 

そう声をかけると、彼女は明るく「はい! よろしくお願いします!」と答えた。
その元気な声だけで、印象はまるで違う。

(元気って大事だな……)

 

確認を終え、同じように自己紹介と説明を済ませる。
この子が教授から「要観察」とされた生徒だ。

 

頭の中で評価基準を反芻していると、彼女の方から話しかけてきた。

「珍しいシステムですよね? 教室まで同行してくれるなんて」

 

しまった、本来ならオレの方から話しかけるべきだったのに。
気を遣わせてしまったかもしれない。

 

「そうだね。うちの学校の伝統でさ。迷子防止と、緊張を和らげるためらしいよ」

 

表向きの理由だけを答える。もちろん裏の“試験”のことは言えない。

 

「そうなんですね。私、方向音痴だから助かります」

 

その可愛らしい言葉に、思わず笑ってしまった。

「もう、笑わないでくださいよ」

 

ちょっとムッとした表情が、また可愛く見える。
彼女は緊張している様子もなく、会話のテンポもいい。

(たったそれだけのことでも、すごく印象がいい)

 

そんなことを思いながら、教室前に到着した。

「こちらです。頑張ってください」


笑顔で送り出し、軽く会釈を返されて任務完了。

残るは報告書だ。

 

短い時間ではあったが、教授ご指名の彼女は礼儀も会話力もあり、総合的に印象は良い。
特に問題も見当たらないので、評価は高めにしておく。

 

全員の案内が終わると、全体報告会が行われ、それが済むと解散となった。
……が、オレにはまだ“裏の報告”が残っている。

 

教授の研究室へ足を運ぶと、まるで待っていたかのように教授が話しかけてきた。

「どうでしたか?」

 

特に問題はなかったこと、印象が良かったことを伝えると、教授は満足げにうなずいた。

「そうですか……わかりました」

 

この学校の入試は2日間にわたって行われる。
念のため聞いてみた。

「明日も同じように、観察任務があるんですか?」

 

教授は首を横に振りながら、穏やかに言った。

「いや、今日のでもう十分です。短時間で見極めるのは難しいでしょうしね」

 

(ですよね……約10分程度の会話で人間性なんてわかるわけない)

 

ホッとしたのも束の間、教授が信じられない言葉を続けた。

「その代わり、明日の面接試験に同席してください」

 

……はい?

 

(ちょ、ちょっと待ってください教授、何を言ってるんですか?)

 

心の中で動揺していると、教授は微笑みながら言葉を重ねる。

「そんなに難しく考えなくていいですよ。彼女の面接で緊張を和らげてあげてください」

 

――いやいやいや、それってつまり、面接の合否に関わるってことじゃ……?

「そ、そんな重要な場にオレがいていいんですか?」

 

声が思わず震える。

教授は柔らかく笑って言った。

 

「あなたでいいんですよ、“ユウキ”君。彼女は、もしかしたらあなたの後輩になるかもしれない。
あなたの目で見て、問題ないかどうかを確かめてほしいんです。
……それに、成績のオマケが欲しいんでしょう?」

 

ぐっ……出た、“伝家の宝刀”。

「それ言われたら断れないじゃないですか……」

 

ため息をつくオレに、教授はにっこりと笑って言った。

「よろしくお願いしますね。」

 

 

【4】

 

「なあ、可愛い子はいたか?」

唐突に『コウスケ』が質問を投げかけてきた。

 

「あー、いたようないないような」

 

曖昧な返事をすると、彼は眉をひそめる。
あの“秘密の仕事”が終わってから、もう数日が経っていた。


実際のところ、忙しかったし、周りをゆっくり眺めている余裕なんてなかった。
それに、まさか自分が面接官の一人をやらされるとは思ってもみなかった。

 

「なんだよ、その適当な答えは」


少し苛立ったようにコウスケが声を荒げる。

 

「気にしてる暇なんてなかったんだよ」

「あーあ、オレも参加したかったな」

「お前の場合、女の子目当てだろ」

「いいじゃねーか。今のうちに目をつけとくのもアリだと思うぞ」

 

まったく、こいつは本当に懲りない。
でも——教授が特に気にかけていた、あの受験生のことは、確かに気になっていた。
筆記試験はあまり芳しくなかったらしいが、かつての教え子の強い推薦、
そして面接での印象の良さを考慮して、恐らく合格にはなるだろうと教授は話していた。

 

「これも一種の青田買いだよ」


教授は冗談めかして笑っていた。

 

「そういえば……一人、気になる子がいたかもな」

 

白々しくそう口にすると、コウスケはニヤニヤしながら肩を叩いてきた。

「おっ、『ユウキ』も隅におけないね」

 

からかう声を受け流しながら、オレは小さく笑う。
合否発表の日——そのとき、彼女がどんな表情をしているのか。
見に行こうかな、と思った。

 

もし本当に後輩になったのなら、
きっと気にかけてやりたくなる。
あの日の緊張と笑顔を、オレはまだ覚えているから。

 

「まずは合否の日、だな」

 

誰に向けるでもなくつぶやいたその言葉が、
少しだけ暖かく空に溶けていくのを感じた。