あらすじ

深夜、少女は兄に連れられ、森の奥にある古びた祠まで肝試しに向かう。怖さを訴えながらも挑発され、意地から引き返せず、子ども扱いに反発しつつ兄の手を握って進んでいく。

祠に辿り着いた二人は、ひとまず安堵する。だが、静まり返った森の中で、少女は言いようのない不安を拭いきれずにいた。

 

※約1400文字

 ChatGPTによる朗読台本風の校正が行われています。

 

深夜の森の中。
二つの懐中電灯の光だけが、細く続く土の道を照らしていた。

 

「ねえ、お兄ちゃん……やっぱり帰ろうよ。こんな森で肝試しなんて、怖すぎる」

 

泣き出しそうな声で訴えたけれど、兄はそれを聞いて逆に楽しそうに口元を歪めた。
私の反応が、いたずら心に火をつけたのだろう。

 

「そんなに怖いのか? オレは全然平気だけどな。
まあ、お前がどうしても帰りたいって言うなら、引き返してもいいぞ」

 

その言い方が、余計に癪に障った。
そう言われると、別になくてもいいはずの負けず嫌いが、胸の奥から湧いてくる。

 

「ま……まだ平気だもん。本当はお兄ちゃんの方が怖いんじゃない?
高校生にもなって、情けないよ」

 

「なんだと。オレは平気だって言ってるだろ」

 

兄はそう言い捨てると、歩調を早めて道の奥へ進み始めた。

 

「ま、待ってよ!」

 

置いていかれないよう、私は慌てて兄の手を掴む。
すると少しだけ速度を落としてくれたようで、歩きやすくなった。

同時に、頭上からくすくすと笑い声が落ちてくる。

 

「やっぱりお前、背伸びしてるだけで中身は子どもだな。まだ小学生だ」

「ひどい! 来年は中学生なんだから!」

 

抗議したけれど、

 

「でも今は小学生だろ」

 

と、あっさり切り捨てられる。
正論なのは分かっている。それでも、子ども扱いされるのはどうしても嫌だった。

 

「そんなこと言うお兄ちゃん、嫌い!」

 

軽口を叩き合いながら、私たちは肝試しの終点――古びた祠の前に辿り着いた。

 

「着いたな。ほら、何もいなかっただろ?」

「……うん、そうね」

 

私たちがここへ来たのは、数日前、この辺りで人影を見たという噂を聞いたからだ。
森の奥へ続くこの道は、祠を過ぎると途切れてしまう。祠に用がある者以外、誰も通る理由のない場所だ。

しかも祠は長い間放置され、手入れもされていない。
肝試しでもしなければ、訪れる者などいないはずだった。

 

「だから言っただろ。月明かりが人に見えただけだって」

「……きっとそうだよね。だから、もう帰ろ?」

「そんなに急ぐなって。せっかくお菓子持ってきたんだ。少し食べてから――」

「こんなところで、よく食べる気になるね……」

 

呆れながらも、兄が差し出した飴に手を伸ばした、その瞬間だった。

 

――ガサガサッ。

 

木々が大きく揺れる音。
同時に、何かが動いたような気配が、確かにそこにあった。

 

「ひっ……!」

 

声にならない悲鳴が喉から漏れる。
それに応えるように、木々の向こうの闇から、うめき声のような低い音が返ってきた。

 

「おい、逃げるぞ!」

 

兄は即座に私の手を引き、来た道を全力で駆け出した。

 

「速く! 止まるな!」

「う、うん……!」

 

息が切れ、視界が揺れても、ただ無我夢中で走り続ける。
幸い、背後から追ってくる気配はない。それでも足を止めることはできなかった。

やがて祠へ続く小道の入り口まで戻り、ようやく振り返る。

 

……何もいない。

 

「大丈夫そうだな」

 

兄の言葉に、私は小さく頷いた。

そのとき、ふと気づく。

 

「……飴、落としちゃった」

「そんなもん、どうでもいいだろ」

「……うん。ごめんなさい」

 

今思えば、ずいぶん間の抜けたことを言ったものだ。

 

「今日はもう帰るぞ」

 

そう言われるまでもなく、私たちは家路についた。

――それにしても、あの気配は何だったのだろう。
まさか、本当に幽霊……?

もしそうなら、二度と関わりたくない。

 

兄妹の小さな冒険は、これで終わった。
あれが何だったのか、結局知る由もなかった。