今月は14冊、なかなか読みでのある、面白い本が多かった。
個人的なお勧めは「俺たちの箱根駅伝」「万両役者の扇」「我が友、スミス」
◆俺たちの箱根駅伝 下(池井戸潤)
丸々1冊大好きな箱根駅伝の本戦、ファンにはたまりません。毎年TVで欠かさず観戦してるし、実際にコースを走ってみたことがあるので、権田坂、戸塚中継所の坂、遊行寺、浜須賀の交差点、函嶺洞門や大平台、名所の風景を脳内に再現しながら読みました。名門校のエリートランナーだけじゃない、ほとんどの選手は大学で選手を引退、それぞれの人生を歩む。学連連合の選手たちの活躍に原監督率いる学連選抜が4位に入ったレースを思い出しました。その翌年、青学は本戦に進出、やがて常勝軍団に成長しました。明誠学院大学の今後の成長に期待します!
◆ファラオの密室 (白川 尚史)
このミス大賞受賞作。舞台は古代エジプト、歴史ミステリーと思いきや、ミイラが生き返ったり、悪しき神が地上を焼き滅ぼそうとしたりするファンタジー設定、というか、特殊状況下におけるミステリ、密室トリックは本格っぽい無理筋のようにも思えましたが、とにかく目新しい世界観に、とても面白く読ませていただきました。
◆万両役者の扇(蝉谷 めぐみ)
今年の山田風太郎賞受賞作。著者の作品は昨年の吉川英治文学新人賞「おんなの女房」に続き二作目、本作の方がより洗練されて面白い。役者の世界の狂喜、芸の道に毒された人たちを描いた短編連作。主人公の万両役者・扇五郎に心を掴まれた周囲の人を通して描かれる扇五郎。なにやら異様な迫力があります。
◆バリ山行(松永K三蔵)
六甲山系と聞くと、妻鹿さんに「孤高の人」の加藤文太郎が被ります。バリ山行という言葉は初めて知りましたが、バリ島の話かと思った(笑)。昔トレイルをやっていて、奥多摩の1,000mくらいの山に単独で入って迷ったことがありますが、低いからって舐めちゃいけない。現実の仕事上の危機と山の中でのより根源的な危機、人生、危機と隣り合わせ、生きているって感じる瞬間。芥川賞というと顔をしかめながら読む作品も多いのですが、これは素直に面白かった。
◆幽玄F(佐藤 究)
面白かったけど、三島由紀夫云々は良くわからなかった。金閣寺、仮面の告白、午後の曳航、潮騒、憂国、美しい星、三島作品は結構読んでいるんだけど、豊穣の海は未読。空にあこがれた透少年が一念を通し戦闘機乗りになる前半はワクワクだったけど、佐藤究さんが普通に終わるはずはないと思ったら案の定でした。不慮の事情で戦闘機を降ろされた透が、それでも飛ぶことを求め、チッタゴンに流れ着く。ラストは大空に取りつかれた男のカタルシスでした。
文庫本は、三社の夏の文庫本フェアの選本を中心に8冊。
◆決定版 女人源氏物語 一、二 (瀬戸内 寂聴)
「光る君へ」がすごく面白いので影響されて手に取ってみた。現代語訳的なもの?と思っていたら全然違った。これは原作の行間を読み切った瀬戸内寂聴の源氏物語。
源氏物語のストーリー、特に前半はすべてわかっているつもりだったが、読んでみるとなかなかに新鮮、寂聴さんの源氏物語はなんとも艶っぽい。それにしても光源氏、雲上人の地位を利用してやりたい放題だなー。
とにかく光源氏の絶頂期?朧月夜の一件で須磨に流されるもちゃっかり明石の君をものにし、子供まで作って都に凱旋、紫の上にこそこそしながらもしたい放題。いい男と悪い奴は紙一重。
こういう風に行間を描くと、源氏物語の恋愛はなんともすさまじく激しい。
◆六法推理 (五十嵐 律人)
「法廷遊戯」でメフィスト賞を受賞した著者の短編連作。主人公は大学のサークル活動で無料の法律相談を行う陰キャな古城と、相談にやってきたまま彼の助手になし崩し的に収まった戸賀のコンビ。訳アリ物件、リベンジポルノ、毒親、カンニング、そしてサークルの存続、様々な問題を解決に導く、新進気鋭の法律ミステリー作家に注目、です。
◆僕の神さま (芦沢 央)
初読みと思って手に取ったけど、絶対読んだことあるなー。小学生らしからぬ洞察力と論理的思考力、そして心配りができる水谷くん。平凡な陰キャの主人公、佐土原君から見た水谷くんの活躍の短編連作、DVの父に殺意を抱く川上さんという重い話に日常の軽い事件を絡めた、面白く読める一冊。
◆転職 (高杉 良)
実際の会社が実名で出てくる、著者の娘婿さんの実話なんですね。普通の大学を出て英語もできないまま外資系の会社に就職した主人公が、未だ終身雇用制の慣習が残る日本企業とは全く違う体質の会社を実力一本で渡り歩いていく様は痛快。それにしてもリーバイス、クアーズ、外資系の会社の本社のやり口はいつも一緒ですね。パートナーが苦労して獲得した市場を後からさらっていく。最後のブルーボトルの話が一番印象的でした。
◆トイレで読む、トイレのためのトイレ小説(望月 あさみ)
まあ、楽しく読みました。
◆我が友、スミス (石田 夏穂)
面白かったー。スミスって、人じゃなくてスミスマシンのことだったんですね。
自分も過去マラソンにはまり、今は筋トレをやっているので、U野ほどではないけど、「別の生き物になる」、自分の身体が変わっていくことにはまる感覚、分かります。やり始めたらとことんやらなければ気が済まない性格、究極の自己満足、どこまで自分が好きなのって思いつつ、U野さんたちに大いに共感しました。でもU野さん、会社とかでそこまで隠さなくともいいのでは。
◆夜が明ける (西 加奈子)
西さんがこういう社会派っぽいの、珍しいのでは。目的・目標を持った頑張り屋さんが、業界や会社の悪習に染まり、精神を病んでいく、遠峰さんや森さんの自然体が良いですねー。2016年に比べれば、今は森さんみたいな人も増えてきて、社会は確実に良い方向へ行っている、と思っています。アキくんは、、、親の虐待に子供は無力、どうやってフィンランドに渡り、ニエミさんに会うことができたのか、せめて晩年が穏やかでよかった。