イスラーム 15(五行 4)


●五行


・五行はムスリムであるための信仰行為としての5つの義務である(5柱ともいう)
 1、信仰告白
 2、礼拝
 3、喜捨
 4、断食
 5、巡礼


 4、断食(サウム)


○インドの宗教「ジャイナ教」


・カルマ(業)と輪廻の教理によれば、人間は死後、動物や昆虫にも転生する可能性がある
 したがって、どんな生き物も殺してはならない
 ゆえに、ジャイナ教徒は、小生物を吸い込まないようにマスクをかけ、生物を踏みつぶさないように、ほうきで地面をはきながら道を歩く
 また、一部のジャイナ教の修行僧は、寄生虫を殺さないために、体を洗わない
 不殺生の完全な実行のために断食するという


○ユダヤ教とキリスト教は、断食を懺悔と悲しみの表現と見る


○ユダヤ教ではヨーム・キップール(大贖罪の日)の前日の夜からヨーム・キップールの日没まで24時間断食する


○キリスト教徒は、聖金曜日(「受難日」)には、この日イエスが十字架にかけられて耐え忍んだ大いなる苦痛をしのんで断食する


○東方正教会では、信徒はレント(「四旬節」)の6週間、肉、魚、卵、動物からとられるすべての物、アルコール、オリーブオイルの使用を断念するよう勧められる(以上「世界宗教事典」リチャード・ケネディ、教文館 など)



イスラームの断食(おもに「岩波イスラーム辞典」より)


○義務の断食(ラマダーン月の断食)、推奨の断食、任意の断食に分けられる


・推奨の断食は、ムハッラム月(第1月)9・10日の断食、毎月3日間の断食など
・断食が禁じられているのは、断食明けの祭と犠牲祭


ラマダーン月の断食(サウム)


・ムハンマドはヒジュラ後、ユダヤ教の慣習であったアーシューラー(ムハッラム月10日)の断食を課した
 後にラマダーン月の断食が決められ、アーシューラーの断食は義務ではなくなった


○ラマダーン月(第9月)は新月の確認によって始まり、翌シャウワール月(第10月)の新月の確認によって終り、29日間または30日間である


○1日の断食は、夜明け前の礼拝(ファジュル礼拝)が始まる前(日の出の約1時間半前)から日没まで行われる


 夜明け前の食事をサフールという
 サフールをとる時間は真夜中から暁までであるが、一般にファジュル礼拝のアザーンまでにサフールをとって断食に備える
 アザーンを聞いた時点で口のなかにある食べ物は飲み込んでもよいとされる
 サフールを終えた時点で断食を行う意志表明をする


○日没後、断食明けの食事をイフタールという
 断食者は日没確認後にイフタールをとる
 一般にはマグリブ(日没後)礼拝のアザーンを聞いてイフタールを始める
 イフタールではナツメヤシの実または水をとる
 ナツメヤシの実は栄養価が高く、ムハンマドは1日2回の食事のうち1回はナツメヤシの実だけの食事だったとされている
 その後、マグリブ礼拝をし、礼拝のあとにゆっくりと豪華な夕食をとる


 食後はラマダーン月の特別なテレビ番組(歴史大河ドラマやクイズショーなど)を見たり、ふだんよりも遅くまで店があいている繁華街へ出かけたりするという
 モスクへ行ってお祈りしたりする人もいる


○ドバイでは、ラマダーン中は非ムスリムでも、公共の場所で飲食や喫煙はできない
 飲食店は日中に営業してはいけない
 外国人のために、政府から許可を受けた一部の飲食店だけが営業しているが、内部が見えないようにカーテンなどで覆っている
 人前で、音楽の演奏やダンスもしてはいけない
 学校や企業は、ラマダーン中、ふだんより遅く始まり早く終わる(「住んでみた、わかった!イスラーム世界」松原直美、SB新書)


○断食中は、飲食、喫煙、性行為が禁じられ、言動も慎まなければならない


○断食の対象者
 信徒の成年男女で心身ともに健康な者


○断食を免除される者
 10歳以下の子供、高齢者、身体虚弱者、病人、旅人、妊婦、授乳中の婦人、交戦中の兵士、スポーツ選手など


 子供の場合は、最初のうちは時間を限定するなどして、少しずつ慣れていくようにし、10歳をすぎた頃には大人と同じように断食するようになる、とのことである


○断食期間中に食べられる菓子 カターイフ
 揚げ菓子の一種


○ラマダーン中はイシャー(夜)礼拝後にタラーウィーフ礼拝という自発的礼拝が行われる


断食明けの祭(イード・アル=フィトル)
 ラマダーン月の翌月(第10月)の初日で、イスラーム世界ではそれから3、4日ほどは休日となる