大輝宇宙の台本置き場@ブログ

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賑やかなお葬式 

 

 

 

斎場控室

 

さつき:ちょっとお兄ちゃん、喪主の挨拶お兄ちゃんするのよね?
文彦:あ?ああ。たしかここに(胸ポケットを探る)
光代:文彦、カンペならテーブルのうえ。
文彦:ああ、いけね。さっき読んで置きっぱなしにしてた
さつき:もう!ちゃんとしてよね?
文彦:悪い、悪い
長次郎:兄さん、坊さんに渡すお金っていくらつつむんだ
文彦:そうだな。だいたい20あればいいんじゃないか?
さつき:ええ!そんなにかかるもんなの?
文彦:知らね。でもネットで検索したらだいたいそんくらいが相場だって出るぜ?
さつき:うわあ。坊主丸儲け。
長次郎:おいくらですか?って聞くのは?
光代:これ!長次郎、そんな失礼なことやめなさい
さつき:あんたはほんっとにそういうとこあるわ。恥ずかしいんだからね?お店とかでもさ
光代:さつき、ネックレスちゃんと留まってないわ
長次郎:姉ちゃん、後ろ向いて。
さつき:え?ああ、ありがとう。…いつもこうやって誤魔化すんだから。もう
文彦:俺、ちょっと葬儀屋の人と打ち合わせ。
光代:あ、私も一緒に行くわ。確認しておきたいこともあるから。あんたたち、もし和尚さん来たら、お茶出してお待ちいただいてね。
さつき:(被せぎみに)はいはい〜いってらっしゃい。
長次郎:今日はよろしくおねがいします…して、代金はいかほど…
さつき:長次郎は絶対黙ってて

控室に戻ってくる文彦

文彦:ふぅ…結構金かかるわ。葬儀なんてやり慣れてねぇから、葬儀屋の言い値が正しいんだかも分かんねぇ
さつき:5年前の時、葬儀屋さんとのやりとりって母さんがしたっけ?
 

文彦の背後から光代が出てくる

光代:そうよ?でも今回は文彦がやらないと。何事もやって覚える…
長次郎:(被せるように)兄さんの時は俺が喪主ってことかぁ…
文彦:バカ!このタイミングで縁起でもないこと言うな。それに、その頃には息子が俺ぐらいの歳になってるだろ
さつき:理香子さんと離婚してるかもしれないじゃーん?息子くんも、つれていかれちゃったり…
光代:こら、さつき。馬鹿なこというもんじゃないよ
文彦:ほんっとにお前はろくなこと考えないな
光代:理香子さん大丈夫なの?お産まであと一週間の予定でしょう?
文彦:今回の葬儀だって最初は来るって言ってたんだけど、大事をとって「俺が」来なくていいって言ったんだ
光代:うんうん それがいいわ。死んだ人よりこれからの命が大事
さつき:うん 死んだ人よりこれからの命が大事
長次郎:あっ母さん誰かの葬式のたびにそれ言うんだよな
さつき:ちょっと不謹慎だけどさ、まぁそうだよねって
光代:当たり前でしょう?ほんとは理香子さんに「お産頑張ってね」って母さんだって直接言いたかったけど…
文彦:ま、母さんの頑張れは、空を超えて東京の理香子に届いてるよ
光代:こんな田舎に身重の理香子さん来させらんないわ
さつき:そうだね。…東京か…。何か兄弟で顔合わせるのもいつ以来って感じよね
長次郎:俺は結構帰ってたぞ?
光代:あんたは帰ってきてくれたっていうより、小遣い欲しくてでしょ?
文彦:小遣い欲しさでもすぐ帰れる距離にお前がいてくれて、俺は結構ありがたいって思ってた
長次郎:小遣い…ってのが余計だけど…。兄さんそう思ってたの?
光代:文彦…
文彦:俺は長男だから、本当なら東京の大学に行かせてもらったあと、こっちに戻ってこなきゃいけなかったんだよ。でも就職もあっちでして、結婚もあっちでして家も買って…。もう帰ってこなきゃとすら思わなくなって…
長次郎:まぁ勝手だなとは思ってはいた
さつき:私は単純に、東京楽しそうでいいなーって思ってた
長次郎:気にしてんだったら、気にしなくていいぞ。俺多分、兄弟の中で一番地元愛が強いから。好きで地元離れてないだけだ。姉ちゃんとも違って友達もこっちにいっぱいいるし。大学も別に行きたいとも思わなかったし、何なら俺がこの家をもらったって…
さつき:勉強嫌いだったもんね
光代:長次郎は昔から優しい子。勉強だってやればできる子。
長次郎:そんなことはないけど…
文彦:ありがとな。
長次郎:なんだよ…やめろよ
文彦:こんな時じゃないとこんな話しないだろ?お前いつもフラフラして真面目な話をかわすし。
さつき:お葬式でもないと家族が集まらないっていうのも悲しい話よね
長次郎:いつもこうやって皮肉めいて話をはぐらかずのは姉ちゃんだろ?
さつき:え!?私ってそんなキャラだと思われてんの?
文彦:まぁうちで一番気が強いのはさつきだもんな…
さつき:えー地味にショックなんだけど…
光代:さつきの気の強さは、不安の裏返し。弱っているところを見られたくないだけ。
長次郎:小さい頃洋間のすりガラス割って父さんに怒られて、俺も兄さんもビービー泣いてんのに姉ちゃんだけ泣いてなかった
文彦:あったな、そんなこと
さつき:ソファで飛び跳ねて遊んでるうちに長次郎が調子に乗ってガラスに蹴り入れたのよ。ガラスばりっばりに割れて
光代:擦り傷で済んで…ほんとに良かった
文彦:長次郎びっくりして目ェ丸くしてたの俺すげぇ覚えてる。あれで大怪我でもしてたら親父の怒りはあんなもんじゃなかったろうな。
光代:普段はめったに怒る人じゃなかったけど
長次郎:基本あんま喋んない優しい親父だったよな…
さつき:よく喋る母さんと、余計なこと言わない父さん…いいバランスだったんだわ、きっと
光代:こうやって振り返ってくれて、父さんもきっと喜んでるわね
さつき:でも…もう声も聞けない
文彦:さつき
さつき:電話しても出てくれない。私まだ…お兄ちゃんみたいに結婚だって、子供だって…まだ…これからも当たり前に家にいるって思ってたし当たり前に話ができるって…私…
長次郎:姉ちゃん…。俺だってそうだよ?
さつき:全然違う!!あんたはちゃんと高校出たあと地元残って、就職もして…。家は出たけど、ちょこちょこ顔出したんでしょう?…違うよ…ここまでたった一時間なのに…。私は専門出て、正社員にもなれずに心配かけて…。休みの日だって、家で引きこもってゲームして帰ってこなくて…ほんとに親不孝…。
光代:元気ならそれでいいのよ
さつき:お母さん…おかあさんっ…!

さつきの肩を抱く文彦

文彦:多分どれだけ親孝行したって「俺はやった。だからもう笑って送り出せる」なんてことはないんだよ。
長次郎:俺だって…来て、飯食って、小遣い貰って…洗い物せずに帰ってたりしてたし。庭木が伸びて困ってるって言われても「ふーん」って生返事しちゃったりした…
光代:あんたたち…
さつき:もう何もしてあげられない
光代:それは…
文彦:(被せるように)それは多分違う
さつき:何が?
文彦:俺、もうすぐ息子が生まれるっていう今だから分かるけど、特に何かしてほしいとかないんだよ。
長次郎:え…でも庭木が
さつき:長次郎うるさい。どういうこと?お兄ちゃん
文彦:うん。別に俺を楽させてほしいとか、将来結婚するところが見たいとか…孫とか…そりゃあ見られたらそれに越したことはないけど
さつき:どっち!?
文彦:どうだっていいんだよ。まず、無事に生まれてきてくれりゃそれだけでも充分親孝行をしてもらったって思える。その後は幸せになってくれればそれでいい。むしろそれは、子が親のためにすることじゃなくて親が子のためにしてやること
さつき:幸せになったって…もう報告もできないんだよ
長次郎:はっ、姉ちゃんらしくないこと言ってんね。報告は、これからは仏壇に向かってすればいいんだよ。母さんなんてよく父さんの写真に向かって話してたぞ。「さつきは元気ですよ。たより(しらせ)がないのは…」
光代:元気な証拠。ちっとも心配してなかったわ
さつき:元気な証拠…
文彦:母さん、口癖みたいに言ってたもんな
長次郎:俺、葬式終わって落ち着いたらこの家戻るわ。そんで、「姉ちゃんからも、兄さんからもたより(しらせ)がありません。なので2人は元気です」って仏壇に言ってやる。
さつき:な…いいわよ…たまには自分で報告に行く…
長次郎:そう?なら、手土産期待してます
文彦:東京銘菓なら…雷おこし…
長次郎:えー…俺あっちがいい。ひよこ型のまんじゅう
さつき:私はバナナ型のケーキ!
文彦:うん…俺もたまにはお前らに会いに来るわ
光代:あんたたち、そろそろ親族席についてなさい。列席の方がお見えになる頃だわ
文彦:…そろそろか。あー喪主の挨拶、噛みそうなんだよな
さつき:ちょっと、恥ずかしい噛み方だけはしないでよね?
長次郎:恥ずかしくない噛み方って逆にどんな?
さつき:うるっさい
文彦:さつき、今日は泣いてもいいんだぞ
光代:そうよ、今日ぐらい気を抜きなさい
長次郎:娘なのに涙のひとつも見せないなんて、薄情だと思われるぞ
さつき:何とでも思わせとけばいいわ。私、人様の前でなんか絶対に泣かない
光代:さつき…
文彦:ん。じゃあ、式終わったら兄弟だけで打ち上げよう。その時、俺も泣いてやる
長次郎:は?
さつき:お兄ちゃんが泣きたいだけじゃんそれ
文彦:何が悪い?俺は、母さんがいなくてすげー…さびしい。
長次郎:開き直った…俺も母さんの作ったコロッケが今無性に食いたい!!
さつき:ちょ…やめてよ!泣きたくなるじゃん…私はミートソース…!
文彦:俺はずっと弁当に入れてくれてた卵焼き!!
光代:私も、もっと作ってあげたかったわ
長次郎:絶対母さんも食べさせたかったって言ってそうじゃない?
さつき:言ってるだろうねー
文彦:母さん!喪主の挨拶、噛まないようにお願いします!
さつき:お兄ちゃん仏様と神様は全然別だから
長次郎:早く行こうぜ
光代:さぁ、私の最後の晴れ舞台。あの子達を見届けて逝きましょう。…ああ、お父さん。文彦が喪主の挨拶を噛みませんよう、一緒に見守ってくださいね!
 

END