彼は足を引き摺りながらも店内を歩き回る
痛みはないのかを尋ねると「大丈夫」と言うが、うっすらと額に汗が滲んでた
手強いな![]()
と思いながらも私は品物をカゴに入れていく
買い出しは基本一週間分なのでカートは使わずに私がカゴを腕にかけていた
ジャガイモやキャベツを入れていくにつれ「あ〜…カートが欲しかった」と思っていると、スッと腕が軽くなった
「お前が持たなくていいよ。俺の弁当のおかずじゃん?」と言い持ってくれた
いやいやいや、足を引き摺っている子どもに荷物を持たせるわけにはいかないと慌てて言うと
「お母さんて、こうやって持ってもらったら普通嬉しいんじゃないの?」とニヤリと笑った
更に「俺、本当に痛くないから!これぐらい持つから」と言って歩き出した
お母さん…
この子の母親はもういない
かなり残酷な亡くなり方をした
しかも健在だった時も、母性を安心して感じた時期はかなり少なかったはず
「お母さん」というワードを彼からは聞いたことがなかった
わざと避けているように感じていたくらいなのに…
必死に乗り越えようとしているのかもしれない
帰りの車中で彼はしきりに時間を気にしていた
私の退勤時間がとうに過ぎてしまっていたからだ
私はわざと遠回りをしようといつもの道を反対側に曲がった
彼は不思議そうな表情で私を見ているのが分かった
「もう少しドライブして帰ろう」と言うと
ニッコリ笑い「な?だからもう時間通り帰ろうなんて考えるなよ」と言った
それでも宿舎が近くなると口数が少なくなり
「足が痛い」
「痛み止め飲んだから気持ち悪くなってきた」
「月曜日は学校まで送ってくれないと帰らない」
などと幼い試し行動(言動)が始まった
「帰ったら湿布を交換して欲しい」
「ワイシャツアイロンかけてから帰ってよ。俺隣でテスト勉強するから」と用事を言い付ける
彼は今年18になる
来年にはここを出なければならない
施設で暮らす子ども達は計り知れない裏切りと諦めを経験している
「自分だけを見て欲しい」スイッチが入ると
赤子のようになりふり構わず訴える
彼の言葉は私には産声のように感じた
彼は少しづつ、少しづつ甘えることを覚え始めた
今はまだ私にしか出せないわがまま
とても愛おしい存在に感じた
大丈夫!あなたを愛してるよ
ここから新たに育て直すよ
そのために、私たちはあなた達と出会ったんだよ