過去にNHKがアレルギーについて特集を組んだ番組があります。

アレルギーの原因について、この番組で放送された事は全て正しいとはならないと思いますが、参考にはなるかと思います。

'08 11月23日 (日) 23時11分 「NHKスペシャル 病の起源 第六弾「アレルギー~2億年目の免疫異変~」では、人間がアレルギーになる理由と、それを未然に防ぐものについてが採り上げられています。

番組では、特定された「アレルギーを防ぐ物質」として、
40年ちょっと前まで、日本ではその存在すら知られなかったスギ花粉症に代表されるアレルギーという病ですが、アレルギーについて非常に面白な統計データが存在します。アレルギーになりやすい人が急激に増えた時代があったのだそうで、昭和20年代生まれの世代では40%程度だったアレルギーになりやすい人の割合が、昭和30年代生まれでは80%を越えていると言う内容です。

この頃スギの植林が盛んになった事や、冷暖房の発達に伴うダニの増加といった事実は「アレルギー物質に触れる頻度が増えた原因」としては挙げられるものの、「アレルギーになりやすい体質の人が増えた」という事は意味しません。何かしら、他の原因があるのではないかと、番組では疑問を呈しています。

この理由について、番組ではミュンヘン大学の研究を引用し「生活環境が変わったため」と結論づけます。

小さな頃から牛小屋に入る頻度が高い子供ほど、将来アレルギーになりにくい
兄や妹がたくさんいる子供ほど、将来アレルギーになりにくい
特に、1歳になるまでに高い頻度で牛小屋に入る子供はアレルギーになる確立が圧倒的に下がるという事実や、兄・姉が4人以上いる子供は長男・長女に比べてアレルギーになる確率が半減するという事実などが報告されます。

これらから推測を繰り返した研究者は、上記2条件の子供が「エンドトキシン」という物質に触れる頻度が高いことを突き止めます。

では、エンドトキシンとは、人体にどういった作用をするのでしょうか。

2種類の免疫
そもそも人間はほ乳類に進化したタイミングから、2種類の免疫を持っています。ほ乳類以前の生き物には1種類しかありませんが、やわらかい皮膚を持ち常に体を暖かく保つほ乳類が襲われた災厄から身を守るために、2種類の免疫は有効に作用しました。

細菌型免疫(古い免疫) : 細菌に対する免疫。
IgE型免疫(新しい免疫) : ダニや寄生虫のような大きな生物に対する免疫。
上記2種類の免疫を身につけることによって、特に人間はIgE型の新しい免疫を手に入れることによって、ほ乳類が生まれたとされる2億年前から現在までの間、生き長らえることができたわけです。

生まれたばかりの子供は、この2種類のどちらにも形を変えることができる「未分化の免疫」を持っています。
その後、体内に侵入してくる細菌やダニの成分に応じて、細菌型免疫を強化したり、IgE型免疫を強化したりします。そのような「やられたら憶える」という柔軟な対応によって、子供は個々の環境に合わせたバランスの良い免疫を獲得していきます。

これは「細菌型免疫40%:IgE型免疫60%」といった感じで、個々の免疫のバランスが子供のうちに作られるというわけです。

ここで問題になるのは、この割合です。
IgE型免疫の割合が大きい人ほど、アレルギーになりやすい体質になってしまいます。それでは、アレルギーになる原理を見ながら、どうしてIgE免疫が問題なのかを番組は述べていきます。

そもそも花粉アレルギーとは何か?
花粉は人体に何ら害を及ぼすものではありません。しかし花粉に含まれる成分は、とある物質と成分が良く似ています。ダニが血を吸うときに人間の体内に放出する酵素」です。IgE免疫は花粉に含まれるこの物質を見て「あ、ダニにやられたな?」と勘違いをして、炎症物質というものを体内に放出します。この物質は、もし本当にダニが血を吸ったのであれば、ダニ自身を殺す役割を担いますが(こんな物質が体内にあるのには驚きました)、花粉の場合はくしゃみ・鼻水・目のかゆみなどを引き起こしてしまいます。

つまり、花粉アレルギーは「IgE免疫が花粉とダニを取り違え、無駄に炎症物質を出してしまう」事によって引き起こされるわけです。

花粉アレルギーはすべての人間がなる病ではありません。先述したとおり、アレルギーになりやすい人となりにくい人がいます。体内に存在する2種類の免疫のうち、IgE免疫が多い人ほど花粉に対する免疫反応が強く引き起こされ、花粉アレルギーを引き起こしてしまいます。

アレルギーになりたくないと思うのは当たり前のことです。どうすれば、アレルギーになりにくい体質=IgE免疫の割合が低い免疫を持つ体質になれるのでしょうか?

エンドトキシンの意味
牛小屋や、年長の兄弟と触れ合う機会の多い子供ほど、アレルギーになりにくい事は先に述べましたが、この理由は「エンドトキシン」であることが示されています。このエンドトキシンという物質は、なんと家畜の糞に多く含まれています。具体的には、大腸菌のような細菌の細胞膜に含まれていて、大腸菌が死ぬと大量に放出される物質です。この物質こそがアレルギーになりにくい体質を作る鍵だそうです。

その理由は・・・大腸菌のような「細菌由来の物質」であることがポイントです。エンドトキシンに日常的に触れることによって、体内の免疫が「細菌型免疫」を強化していくのです。ここであらためて2種類の免疫の特徴についてまとめると、下記のようになります。

細菌型免疫(古い免疫) : 細菌に対する免疫。エンドトキシンに触れると強くなる。
IgE型免疫(新しい免疫) : ダニや寄生虫のような大きな生物に対する免疫。花粉に触れると強くなる。
アレルギーになりやすい人は、体内の免疫においてIgE免疫が強くなり、偏っている人を指します。もちろんその逆=アレルギーになりにくい人は、細菌型免疫が強く鍛えられ、IgE免疫とバランスを保っている人を指します。小さい頃から牛小屋に入っていた子供は、エンドトキシンに囲まれた暮らしをすることにより、体内の細菌型免疫を鍛えることができていたわけです。

また、もうひとつ挙げられた「兄や姉がたくさんいる子供」の例は、それら年上の兄弟が外から持ち帰ってくるエンドトキシンに生まれた頃から接したことにより、アレルギーになりにくい体質になっていたと結論づけられました。

現代日本人が作ったアレルギー
昭和30年代生まれ以降の日本人は、それまでの家畜と共に暮らす農村生活から都会の生活へと移行していきました。当然のように家畜と触れ合う機会もありません。さらには、電気洗濯機の普及や清潔さについての関心が高まった事によって、細菌と触れる機会が圧倒的に少なくなりました。この事は、感染症による乳幼児の死亡割合を劇的に下げるというプラスの効果を上げましたが、代わりに日本人は細菌型免疫を強くする機会を失い、IgE免疫に偏った世代・・・つまり、アレルギーになりやすい現代の日本人を生み出した。

清潔さを好む人は、どんな場面でも「ばい菌と接するかどうか」を気にしていて、除菌殺菌を繰り返しながら生きていますが、そもそも人間は他の生き物と関わらず独自に生きていける存在ではないのだ、と番組は訴えます。

生まれた頃から清潔な家に住み、大量の花粉にばかり接している現代の子供は、当然のようにアレルギーになりやすい体質となる運命です。現代のライフスタイル自体は否定されるべきものではないにしても、すべての生き物と袂を分かち独善的に生きようとする現代人の考え方が、反動的にアレルギーという姿で現れているように感じられなくもありません。

以上が番組の大まかな内容となりますが、なかなか興味深い内容になっていると思います。まとめると「小さい頃から動物や自然と触れ合って遊ぶことが大切」ということになるのでしょうか。

現代人は清潔過ぎてしまったというのが、今の私達の姿なのかもしれません。