児玉　博文

岡山市内にある後楽園はつとに有名な大名庭園である。

天下の三大庭園の一つに数えられているので皆さんも良くご存じだと思う。

今回は　この後楽園の中から借景として見ることが出来る塔「安住院　多宝塔」を題材に

職人の気質と美意識について少し思うところがあるので筆をとった。

現在、（平成１９年春）この多宝塔は保存修理の真最中である。私がこの多宝塔を

初めて訪れたのは　昨年だったが　保存修理はまだ開始されておらず調査のための

簡易な足場が組まれていた。　一部の屋根は朽ち、見るに忍びない有様だったが

後楽園内から見る限り、この多宝塔の相輪（多宝塔の場合の正式な呼び名は判らない）と

優美な曲線の屋根の一部が　操山山系の中腹に映え　一幅の絵を見るような贅沢な

借景だった。（現在は　工事用の素屋根が架かっている）

本年３月にこの多宝塔の屋根が解体され、骨組みが露出した状態を見る事が出来た。

其処には　想像を絶する木組みが露出していた。そこにはまるで七つの頭を持った

大蛇（オロチ）が暴れている様な異様な情景が眼前に展開していたのだ。

少しでもその情景を理解して貰うために　写真を貼付する。

＊＊＊

安住院多宝塔　　岡山県指定重要文化財　岡山藩主池田綱正が建設に着手

池田継政の代（1751年）に完成。高さ約20ｍ　建立以来最大規模の

保存修理が行われている「みかえりの塔」として有名

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①

　　屋根瓦を撤去し、瓦の葺土を撤去し野地板と垂木を撤去した状況

　　①～④までの写真は屋根部分の詳細（裳コシ部分ではないので要注意　児玉）

②　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

③

④　　　　　

大工曰く、『ここに使われている木材は　地松だ』との事。

私は　神社、仏閣、古民家を相当数見ているが　一箇所にこれだけの天然木を

集中的にかつダイナミックに使用している例を１例しか知らない。

今回そんな異形の構造に気付いた事から　筆を執る事にした。

（但し、正式な原稿としては　後日、多角的にまとめる予定なので　請うご期待）

今少し、安住院の多宝塔に関する　写真を掲載してから本題に入る。

後楽園から見える「みかえりの塔」を　逆に「みかえりの塔」から後楽園を見た

写真を紹介する。

　中央の緑地帯が後楽園

瓦と野地板撤去状況この後、垂木を撤去したのが　現在の状況

　　　　　　　　　（注意：この写真は　児玉撮影では無いので要注意）

この写真は　保存修理直前の多宝塔の状況写真（児玉撮影）

写真左には　調査用の足場が組まれている。

残念な事に　プロポーションは決して美しい塔ではない。

この塔は「邑久大工」が建てた物で　この近辺にある曹源寺（禅宗　池田家の菩提寺）

境内にある「三重ノ塔」も邑久大工が建設に携わっている。

（同じ大工集団の手に依るもので江戸時代中期に建立されている）

実際問題として　何故こんなに複雑な木組みを必要としたのだろうか？不思議でならない。

構造的にも、加工技術の面から考えても　不可解な材料の使い方である。

建立当時、オガノコで板に加工する専門の職人集団は多くいた。安藤広重の浮世絵にも

その仕事ぶりが　題材として取り上げられているので良くご存じでしょう。

この事は　一般的に殆ど意識される事無く　ただただその複雑さ故に　見とれていたと

云っても過言ではないだろう。

つまり、大工の腕の見せ所、　只それだけのために敢えて複雑怪奇な木組みを採用し

己の技能（技術ではなくテクニシャンとして）を見せびらかす為に　この様な行動に出た

のだと私は思っている。この時代、「愚子見記」の様な相伝書が大工の家元に伝わり、

これらの本に記された通りに建築を造るシステムが確立されていた。その為、美的感覚や

美的センスは　置き去りにされ、無難な手法による建築が多く建てられていた。

逆説的だが　お決まりの工法と納まりの建物しか建てられなかった封建時代、腕に自信の

ある大工達は　人のやれないことをこんな形で表現していたのである。悲しいかな　

座と云う組織や一子相伝と云うシステムで雁字搦めにされた、大工達のエネルギー発露の

一端をこの木組みに見る事が出来る。

この考え方は　あくまでも児玉一人の独りよがりな意見であるが　僕は堅く信じている。　

以下にその根拠を説明する。（まずこの写真を見て頂こう）

建築的には　比較的最近に建てられたもので　吉備の中山にあり、吉備津神社と吉備津彦神社の中間に建つもので　この木組みを見せたくてワザワザ天井を張っていない。

（福田天海の境内にあり、備前と備後の国境線（細谷川）の脇に建つ）

職人の意地と痩せ我慢が感じられる仕事を是非見て貰いたい。

今回は　ここまでとしたい。

何時かもっと色々な資料を活用して　別の切り口で原稿に仕上げたいと思っています。

今回は　ここまで・・・・・。　　　　　　　　　

明日、完成に18ヶ月を要した工事の竣工検査を控えた忙しい時に「忙中閑有り」と

称して幾らか自虐的に　頑張って筆を執ってみた。　　　　2007.06.28

8,職人魂と美的感覚