　　　　　　　　　　　　　　　　　　写真・文責：児玉博文

１、はじめに

最初に兵庫県下最大級の規模を誇る「五色塚古墳」注-1とその特徴を御紹介します。瀬戸内海を望む台地の上に築かれた前方後円墳で、その全長は194ｍ周囲は深い堀と浅い溝の二重構造となっていて眼下には明石海峡が広がり、眼前には淡路島が立ちはだかり、右手には優美な明石海峡大橋の橋脚がそびえ立っている。風光明媚なロケーションには一見の価値があり、駐車場も整備されていることから年間を通して見学者が後を絶たない。特に近年「パワースポット」　写真-1として人気が急上昇し「後円墳の中央部」は隠れた「霊感スポット」となっています。また、近くには「三井アウトレットパーク　マリンピア神戸」があり、「ウインドウショッピングやドライブに最適なお勧めコースです」と、これだけの紹介記事で終わったのでは　単なる観光案内で終わってしまいますので少し視点を変えて五色塚古墳の持つ魅力を紐解いてみたいと考えています。

２、石を葺（覆）く

「五色塚古墳」の魅力は　そのロケーションよりももっと深いその形状にあるのです。まずは写真-2-3-4を見てください。この五色塚古墳は4世紀の終わり頃に築造されたものとされています。築造当時、（前方後円墳の）全面が葺石で覆われている姿は現代の我々から見ると　気の遠くなるような作業量であり、この様な仕上げはこの「五色塚古墳特有の仕上げ」だったと思いたいのですが　実は日本の国内の多くの古墳は　この様に葺石（ﾌｷｲｼ）で全面覆われていた事が判っているのです。注-2

そもそも、日本の歴史上「古墳時代」とは何時頃の時代を指すのでしょうか？

ウィキペディアによると　一般に　縄文時代、弥生時代と対比して用いられる場合が多い～中略～古墳時代は3世紀半ば過ぎから7世紀末頃までの400年間を指すことが多い、とあります。

また、古墳時代後期は円墳や方墳が主に築造され前方後円墳は姿を消すことになります。　

・・・因みに岡山市北区にある造山古墳（ﾂｸﾘﾔﾏｺﾌﾝ）注-3の墳丘長は

350mと全国第四位の大きさを誇り、墳丘に立ち入ることが出来る

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古墳としては日本最大級です・・・

次に、東京都府中市内の「武蔵府中熊野神社古墳」注-4を紹介します。写真-5-6-7

を参照ください。この古墳は　7世中頃から後半の武蔵における最大級の墳丘で、下段の2段が方形　上段1段が円形の「上円下方墳」です。

五色塚古墳の葺石に比べると比較的大きい天然石で葺かれていますが　復元整備後10年以上経過したにも関わらず葺石の表面には草も生えていません。

古墳時代の終末を飾るに相応しい「凛とした気品と美しさ」を今も保っているのです。

ここに紹介した二つの古墳の復元整備工事の調査から色々な事が判っています。

A,五色塚古墳の葺石は　

　・葺石は　眼前の淡路島から船で運んだとされています

　・前方部分の葺石には　後世転落した葺石を拾い上げ古墳築造当時の法面

（ノリメン）に葺き直したが　後円部分の葺石は新たに購入した石を葺いている。

B, 武蔵府中熊野神社古墳の葺石は

　・1段目は　シルト岩による加工した縁石

　・2段目は　楕円形の川原石の貼り石で　約15×10㎝程度

　・3段目は　約40×25センチ程度の比較的大きい川原石

３、続・石を葺（覆）く　

「石を覆」事は大変な労力を費やす事は誰が見ても判ると思いますが　それに要する天然の石材を寄せる事は　至難の業といえるのではないでしょうか？

次に奥州平泉の毛越寺（モウツウジ）の池を見ていただきます。写真-8参照

（平安時代の後期に築造されたものです）

池の水際には　一面に拳（コブシ）大の丸石が幾重にも敷き並べられています。

水辺の浸食を防ぐ目的と美的な両面を拳大の葺石で演出しているのです。

それにしてもここに用いられている丸石の数は半端ではありません。気が遠くなる程の大量の規格化された寸法の小石をどの様に調達したのでしょうか？

莫大な費用を要した事は容易に想像できるのですが　問題はその調達の手段です。単に、時の為政者が金を払えば集まるものでは無いと私は思います。

伊勢神宮の式年遷宮祭（二十年に一度催される）では　氏子達が各パートを受け持って境内に敷き均す玉石を奉納することになっています。毎回の式年遷宮祭は　概ね8年前から準備が開始される事が決まっています。しかし、氏子達

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による玉石の奉納は　その量の多さからして　これからも今まで通り集める事は　現実問題として不可能になりつつあるのです。

４、続々・石を葺（覆）く　

集積に大変な労力とコストが掛る事は　理解いただけたと思います。

実際に大変なコストを掛けて規格サイズの小石を大量に集めた実例を御紹介します。写真-9-10-11参照

京都の仙洞（セントウ）御所は　1627年（寛永4年）に退位した後水尾上皇の御所として造られます。はじめは小堀遠州によって築庭されたのですが、のちに後水尾上皇の意向に沿って大きく改造されます。

（現在は　お庭しか残っていませんが・・・・）

仙洞御所の庭の南池の南側部分に丸い石を敷き詰めた「州浜（すはま）」注-4と呼ばれる個所があります。中島より南側の西岸から南岸にかけて他に類を見ない広大な州浜が広がっています。ここに敷き詰められた楕円形の平たい粒揃いの丸石は別名「一升石」と呼ばれています。数にして大凡111,000個、岸辺から池の中まで敷き詰められているといわれています。面積にして約1,000m2　

これは　小田原城主の大久保忠真の献上品と言われ、領地の小田原で石一個と米一升を交換して集めたと言われているのです。

それ程、石の集積　中でも寸法を規定した規格サイズの石を莫大な数　集積する事の難しさ、大変さをお分かりいただけたでしょうか？

５、さいごに

今現在、全国の古墳に石を葺いているものは殆ど無いと思います。理由は簡単で、民家の杉皮や桧皮屋根の押さえ石として、土留めや棚田の区画石として、漬物石として、或いは　民家の柱脚石等に使われる為に持ち帰られたからなのです。この大きさの石は　色々な事に使い便利が良かったのでしょう・・・・

その為、葺石が何時の間にか無くなり、土が露出した古墳は　直ぐに叢（くさむら）と化し、やがて林や森になり自然の景観に同化していったのです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（完）

2015.5.9 by dama

資料

注-1：神戸市垂水区五色山4丁目　

注-2：五色塚古墳の脇にある陪塚の円墳「小壺（ｺﾂﾎﾞ）古墳」には　築造当時

からその斜面に石は葺かれていませんでした。

注-3：地元では　同じ読みの作山古墳と区別する意味で造山古墳をゾウザン

古墳作山古墳をサクザン古墳と呼び分けている。

注-4：東京都府中市西府町2-9　甲州街道沿JR南武線「西府」下車徒歩10分

2005年　国の史跡に指定

　　　敷地内には　2014年にオープンした「国史跡武蔵府中熊野神社古墳

展示館」があり　玄室の原寸大模型が作られている

写真-1

パワースポットである前方後円墳の後円墳中央部分で両手を上げ、全身で天からのパワーを浴びている御婦人の写真

写真-2　-3　-4

前方部分から後円墳を見上げた写真

後円墳頂部から前方部分を見降ろした写真。前方の島影は淡路島

昭和40年から10年の歳月をかけて発掘調査と復元工事を行い、古墳の全面を葺石で覆い直したもので築造当時の景観が蘇った。

写真-5　-6　-7

国史跡武蔵府中熊野神社古墳

写真-8

奥州市平泉　毛越寺本坊の池　

（写真撮影時　池の調査の為に水位を下げていた）

写真-9　-10　-11

京都大宮御所の車寄左手奥が仙洞御所

　　州浜（別名　大浜）

州浜：楕円形の平たく丸い粒揃いの石(一升石)に注目してください

1,石を葺（覆）く