ヒロポタンの足跡 -2ページ目

ヒロポタンの足跡

これは、気まぐれヒロポタンのたどった足跡(主に飲食系 その他諸々)を忠実に、そして、写実的でありながらも叙情的な文章で綴った、臨場感溢れる心温まる手記です。

 この日の帰り道、敏春は珍しくJR横浜線を使った。金曜日の夜とあって、八王子行きの電車は身動きがとれない程、混雑を極めていた。普段は勤務地の横浜から相鉄線を使い、海老名経由でマンションのある小田急大野まで帰ってくるのであるが、衝動的に横浜線に乗車したのだった。
 横浜から小田急大野に帰るには2ルートある。小田急大野は敏春が利用しているルートの他に、横浜線から町田を経由して小田急下り線を使うことも出来る便利な駅だった。そんな利便性が理由で小田急大野駅からおよそ徒歩10分の築5年のマンションを購入した訳ではなく、単に何の考えもなく言わば一種のノリで決めてしまったのだった。
 今日の彼の行動も、半ばノリだった。実は、妻ユリ子には「じゃ、今夜も仕事で遅くなる。」と、独り言のように告げて出勤したのだったが、外回りの仕事を半日で片付けて、密かに秋葉原へ行っていた。
 彼は、主に後発医薬品を製造販売している外資系製薬会社ノマルティスの冴えない営業マンである。今年の4月、年齢的には決して速いとは言えない47才にして、横浜支店の営業第8課長に昇進した。課長というのは名ばかりで、一般の大企業では係長に相当する職階である。寡黙でプレゼン能力に難のある彼だったが、持ち前の人柄の良さが上層部から評価されたようだった。ただ、第8課長というのは、有能で敏腕社員が配属される第1課長と違い、将来を嘱望されていないゴジカラ社員が配属されるポストであり、よく広報部長から「よっ!1課(イチか)8課(バチか)のハチ課長さん。」と、揶揄されている。
 ところで、秋葉原へ行ったのには理由があった。肥満体の彼には似つかわしくない手先の器用さがあった。彼は妻ユリ子の反対を押し切り、フィギュア人形を作る趣味があり、高じて、家族には内緒にして自前でピンクローターを半年前から作り始めるようになっていった。それがきっかけで、秋葉原のラジオセンター街によく足を運ぶようになったのだ。この日の午後も、その作成キットと、ロリータ系アダルトDVD『くりぃむめろん』を購入する目的で秋葉原へ出向いたのだった。午前中、得意先の大学附属病院の医師にねちねちと嫌みを聞かされ続けてやる気をなくしていた。仕事のモチベーションが急激に下がった彼は、午後の仕事を放り投げ、秋葉原へ足を向けたのだった。
 横浜線の車内は、冷房がかかっているにもかかわらず蒸し暑く、気絶してつり革から手が離れてしまう程息苦しかった。体重が90キロ以上もある彼にとって、ラッシュほどツラいものはなかった。不幸なことに、彼の周囲は同じようなサラリーマンばかりで、敏春は極上のむさ苦しさを味わっていた。
 町田の1つ手前の成瀬中央という駅まできたとき、数人の乗客が入れ替わった。すると、彼の真後ろに、見た目22~23才のいかにも新米OLがピタリと身体をくつけてきた。敏春の肥満した臀部と彼女のもっちりした尻が押し付けあう形になった。ドアが閉まると、車内はいっそうキツいものとなったが、彼は今や息苦しさを感じていなかった。身動き1つとれない車内では、電車の揺れに身をまかせるしか方法がない状態となっていた。
「おほっ!」と、思わず敏春は声を漏らしそうになったが、彼は必死に耐えた。
「コレって、仕方がないことだよな…。」と、自分で自分を納得させながら、敏春は体の全神経を臀部に一極集中し、そして、極限にまで集中力を高めた。
 電車が右へ左へと揺れるたびに、敏春と彼女の臀部がこすれ合うようになり、密着度を増した。敏春は異常に興奮した。彼は、数枚の布切れを隔ててピタリと密着している小さくとも強い弾力のあるゴム鞠のような感触を、心ゆくまで味わった。




 この物語はフィクションで、ここに登場する人物、場所その他の名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ない事を申し添えます。