辞表を出す決心をした。
自分と、自分の大切な家族を守るために、最善の選択だと確信した。
僕は、理不尽かつ不平等で関わる誰もが不幸になるこの業界から脱出する。
先週、上司から
「明日、○○へいって欲しい。」と言われた。
トラブっているあるシステムの不具合解析のために関東まで飛んでほしいということだった。
僕にとっては、全く関係無い開発というわけではなかったが、
メインの開発とは別に片手間でやらされた仕事だった。
そのため、開発メンバーの一人として名前が挙げられ今回の対応要員の対象となったのだ。
出張を命じられたのは前日の25:30くらいだっただろうか。
事の詳細を聞き、26:30頃会社を後にした。
飛行機はAM9:30伊丹発羽田行。
あんまり眠れないな…。そう思いながらわずかな眠りについた。
この時まだ僕は、この出張で大晦日まで戻れなくなるなんて思ってもいなかった。
現地に着くと、突然ピリピリした空気の中、打ち合わせが始まった。
集まったのは、客先の関係者と僕達の計5人。
まず、初対面だったので名刺交換をさせて貰おうと思ったが、あっさり断られた。
何なんだ?どうなっているんだ?
お客さんはとても怒っている様子だった。訳がわからず先輩達と謝罪する俺。
この日から肉体的・精神的に打ちのめされ続けたバグ解析作業が始まった。
うちから今回の不具合対応に飛ばされたのは僕を含む3人。
僕を除いた2人はこの道20年程度のベテランだ。
…でもわからない。なぜ動かないのか。どこが悪いのか。
客からの屈辱的な言葉が浴びせられる。
Webに落ちている古い資料が印刷された紙を渡され、
みんなすぐ近くにいるのに「大声で読め」と言われたりもした。
怒るのも仕方ないのだろう。
動かないのだから。ソフト開発とはそういうものだ。
でも、今度のは少し違う。
バグっていたのはうちの会社がつくったソフトではなく、
…オープンソースのライブラリだった。
それが判明してからも、僕達の作業は続いた。
ライブラリの検証作業だ。この作業は、ロスコストとして扱われる。
ライブラリを使った奴がライブラリに問題があった場合もサポートしろ、
そういうことらしい。
その方面に詳しいエンジニアがいる客先の別の部署にも協力をお願いした。
でも、整理していったはずの僕の頭がパニックになり説明がぐちゃぐちゃになる。
せっかく良くしてもらっていたその部署のリーダーに不快な思いをさせてしまった。
これまでの関係も駄目になりそうだ。
あっちで謝罪し、こっちで謝罪し、一体俺はなぜ今こんな状況に置かれているんだろう。
少なくとも2年前はこんなじゃなかったはずなのに。
今回のとんでもない要求の根本的な要因は、アプリケーションとライブラリ、
どこまでをサポート範囲とするか、瑕疵責任が不明確なまま受注してしまったことにあった。
聞くところによると、この開発は破格値だったらしい。
そのため、アプリケーションそのもののテストもうちの開発プロセスに則ったものではなかったらしい。
要するに、そこまでするには費用が全く足りないからだ。
だから当然、出荷後のトラブルも起こりうる。出荷時点での品質が悪いからだ。
そして品質が悪いために後から見えていなかった不具合が出てくる。
でもそれはうちの会社のミス、不具合対応ということでロスコストとなり大赤字に繋がる。
そして、このパターン(激安なのに高品質を要求される)の開発では、
エンジニアが悲惨な状況に追い込まれるのだ。
客先からのプレッシャ&長時間労働 → 過労で倒れる or うつ病になる等々。
僕は、1年前にも同じような経験をした。
…転職を本気で考え始めたのはその時からだった。
あれから、ソフト開発者という職業がいかにハイリスクで、いかに報酬が割りに合わないか
ひしひしと感じ続けていた。生活の大半は仕事、それ以外は食事と睡眠。
そこまで自分や家族を犠牲にしても、収入は事務職なんかをやってるサラリーマンと同じだ。
さらに、大手の子会社ということもあるだろうか、
他の社員の何倍も仕事をやらされても評価は変わらない。年功序列だ。
まさに、この2年間、ハイリスクローリターン…ていうかハイリスクノーリターンという状況に置かれていた。
社内での不平等な扱い、親会社からの理不尽な要求…。それらが一度に降りかかってきた2年間だった。
やってもやっても仕事が終わらない。吐き気がしたり変な汗は出たりするけど、やる気は出ない。
奥さんにも不満ばかり漏らしてしまう。
「僕の能力が低いから」と言ってしまえばそれまでだが、
何かが2年前の人事異動から大きく崩れ出したのだ。
ツインズも生まれたし、マイホームも買った。
(当然これらを実現できたのは奥さんが安月給をうまくやりくりしてくれたおかげだ。)
この生活を守るためにも、もう少し時期を見計らって転職しようと思っていた。
…でももう限界だ。このタイミングを逃せば一生地獄だ。
まだやり直しがきくうちに抜け出さなければ。
僕が今欲しいのはお金や仕事じゃなくて
家族と過ごす時間なんだ。
誰も恨まず、ただこの業界が悪いのだ、このようになっていくのは必然。
誰も止められなかったことだ。そう思ってこの業界を去ろう。
仕事内容にやりがいはいらない。
家族のために仕事できればどんな仕事でもやりがいがもてる。
少なくとも今の仕事は、誰も幸せにならない。
(会社の役員はたっぷり吸い取って幸せかもしれないが…)
だから…
ソフトが欲しい奴は、
自分でつくってくれ!!
そして日本のS/Wエンジニアが、
いかに割りに合わない報酬の中、
エンジニアとしてのプライドと
高い志のもとで開発に取り組んでいるか、
それを知ってくれ!
今のこの便利な世の中の
真の創造者が誰であるかを知ってくれ!
そんなS/Wエンジニアが不足し、
それを目指す志望者が
年々減少しいることが
当たり前の結果だと気づいてくれ!
全てはそれからだ。
それからなら、S/Wエンジニアに対する
世間の扱いも変わるだろう。
それで、少しでも不幸なエンジニアが
減ってくれることを願う。
そして、それまで待てない僕は、
まずこの会社、この業界から抜け出すこと。
それが僕達家族にとって
幸せへの第一歩になるから。