新たな三谷作品として注目を集めているNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』
鎌倉幕府創設期というエキサイティングな時代背景と、鬼才ほとばしる三谷幸喜氏の脚本とが相まって、見る者を日に日に虜にしていく。時代劇なのでストーリーは基本的に史実に基づいていて、事の顛末は概ね分かってはいるものの、脚本家と役者による壮絶な「場面の切り取り」によって、毎回、ズシりとした一撃を喰らってしまう。こうなると、どうしても今後の展開を早く知りたいと思うのが人情だ。
中でも、小栗旬さん演じる主役・北条義時、時代の中心人物で大泉洋さん演じる源頼朝、そして、新垣結衣さん演じる八重姫の三角関係は作品前半最大の関心事である。ネットで「鎌倉殿 八重さん」で検索すると数多くの記事や論評がヒットする。ただ、残念なことに、八重姫に関する史実として確たるものが数少ないため、『鎌倉殿』におけるガッキー(八重さん)の行く末を断定的に予想しているものは中々見当たらないのが実情だ。
来る第20話(2022年5月22日放送)では、義経が奥州藤原氏の庇護を受けられずにこの世を去る。1189年4月の出来事である。3年後の1192年7月、頼朝は朝廷より征夷大将軍に任ぜられるが、義時においては、この年の9月に頼朝の仲介により「姫の前」という比企一族の美女を正室として迎え入れることになっている。第19話の時点で義時の妻は八重さんなのだから、『鎌倉殿』の試聴を楽しみとし、劇中での「ガッキー」の幸せを願う者たちにとっては、迫り来る1192年の史実と八重さんの今後の処遇との関係が気になって仕方ないのである。
有力武将であれば、正室、側室、妾が同時期に複数存在するのは不思議ではないが、これまで小栗旬さんが演じてきた義時の誠実なイメージや八重さんへの純愛路線に鑑みれば、軽々に別の女性と婚姻関係を結ぶことは考えにくい。まして、脚本・三谷氏の思い入れが強い「八重さん」なのだから、感動的な結末に仕立て上げられると信じて止まない。第19話で頼朝が八重さんと二人きりでやりとりするシーンがあり、八重さんの「仲直り」という言葉に頼朝が苦笑いしていたのは気になるところ。まさか、頼朝が八重さんとヨリを戻して義時から引き離す、なんていう狂気の沙汰にはならないよね、三谷さん。(そうなってしまうと美しい最期は描きづらくなるしね)
そこで、私の勝手な予想は、
1191年3月に発生した鎌倉御所周辺の大火という史実を引き合いに出すのではないか、という説だ。劇中では、御所の近くで子供(戦争孤児?)たちのお世話をするようになった八重さん。当然ながらこの時、御所周辺の大火に巻き込まれていたはず。実際に、北条義時、大内惟義、比企朝宗、佐々木盛綱など有力御家人の家屋十棟が被害に遭ったとされ、頼朝も側近・安達盛長の郊外の邸宅に避難したという。これほどの大災害の中で、母性が強く慈悲深い八重さんが子供たちに救いの手を差し伸べないわけがない。自らの命と引き換えに彼らを救ったに違いないが、義時との間に生まれた男児・金剛(のちの北条泰時)はまだ8歳で、母・八重さんを助けることは叶わなかったのだろう。第16話で、八重さんが唐突に「子供たちの世話をしたい」と言い出したのが、妙に伏線ぽくて気になっていたのだが、「子供たちのお世話」と「鎌倉の大火」が八重さんの末路と大きく関係していたとは。
と、これはあくまで私の勝手な予想です。好きに言わせておいて下さい。
いずれにせよ、義時と泰時の親子は、心優しかった八重さんへの想いをぐっと胸に秘めて、後に続く数々の争乱を乗り越えていくことになるのだ。御成敗式目を制定するなど稀代の名執権と讃えられている北条泰時。彼の高い知性と人間性は、父・義時と母・八重さんから受け継いだものである。それを思うと、八重さんの最期となる回はかなり切ない気持ちになるだろうし、涙腺大崩壊は間違いない。三谷氏のことだから、私の素人レベルな予想とは段違いの、度肝を抜く感動的なストーリーを用意しているような気がする。