【女は生涯一人しか愛さねえ】
親父さんは、その言葉を守っている。男気のある良い台詞だと思う。けど、ならジェジュンは利用されているだけか?そんな思いが常にある。親父さんを尊敬している。でもジェジュンの事だけは納得できずにいた。
[ユノ、お父さんがお呼びです]
ジェジュンは、その道に関わることなく親父さんの傍にいる。家事全般は手伝いの人がやっているけど、親父さん自身の細かいことは全部ジェジュンが世話をしているようだ。俺も初めは自分の立ち位置に困惑したけど、今は特に気にしてはいない。親父さんも【こいつらは、お前らとは別の括りで俺が傍に置いている。可愛がってやってくれ】と下の者に言ってあるせいか、そっち系の話に交じることはなかった。
ジェジュンはその容姿もあり、親父さんの下の者達にも可愛がられていた。何かと声を掛けられ、頭を撫でてはからかわれている。ジェジュンもまたそれが嬉しそうで、子供みたいな無邪気な笑顔を見せた。だから俺には信じられなかった、親父さんの愛人だなんて・・。
とにかくジェジュンは常に親父さんの傍にいた。仕事の話になると、そっと離れる。それ以外は常に傍にいて親父さんの手足のように世話をしていた。なぜジェジュンが親父さんの愛人になったのか?それが俺には不思議だった。俺とそう変わらない年で、あの出会いの時には、すでに親父さんの隣にいた。何があったんだろう?そんな思いは日々強くなるばかり、そして、傍にいるのに想いを伝えることは許されないジレンマは苦しくもあった。
[ジェジュンを頼む]
親父さんが珍しく仕事で家を空けることになった。面倒な事にジェジュンを巻き込まない、それが親父さんの主義だったし、ジェジュンもそれに従った。家の者たちに休みを与えるのも必要だと俺とジェジュンにも休んでいいと言って、親父さんは黒塗りの車に乗った。
[ジェジュンさん、それでは休ませていただきます。本当に大丈夫ですか?]
家の全般を世話してくれている家政婦にも、久々の休みが与えられた。ジェジュンは快く応える。
[もちろんです、ゆっくりしてきて下さいね]
[ユノさんもお出かけですか?]
家政婦が心配そうに俺を見る。
[俺は行くところがないから、ここにいます]
ホッとしたように笑う。ジェジュンを一人にするのが心配だったようだ。
[よろしくお願いします]
誰もいなくなった家の中は、とても広く感じる。いつも途切れなかった緊張は、ジェジュンとふたりでさらに高まる。
[ユノ、コーヒーでも飲みましょうか]
落ち着いた声は、いつもと変わらない。
[はい]
上ずった声の俺は、どこか居心地が悪かった。
カリカリとコーヒー豆を挽く音がする。
[今どき手で挽くのも大変だと思うでしょう?でも、お父さんが粗挽きが好きなの。機械で挽くと味が変わると言って]
優しく微笑むその顔は、決して親父さんを憎んではいない。むしろ愛情を持っているように思える。
芳しいコーヒーの香りが、ようやく俺の心を落ち着かせていく。ああ、なんて幸せな時間なんだと思う。考えてみれば今日まで、こんなにゆっくりとした時間を過ごすことはなかった。そう、あの家にいた時から。常に何かに怯えるように揺れる心を隠し、必死に生きてきた。ここに来てからも本当に俺の居場所なのか不安だった。けど、今こうして穏やかな時間を過ごしていると、来て良かったとさえ思う。いや、ここしかなかったと。
[ユノを覚えている。学生服が似合ってた]
コーヒーカップを手に持ちながら、ふっとジェジュンが微笑む。
[あの時はありがとうございました。ひとりになって途方に暮れていて・・親父さんの優しさに救われました]
ジェジュンの美しさにも・・俺に希望を見せてくれた。
[俺は何もしていないよ、付いて行っただけだから]
いや、もし親父さん一人だったらと考えてみる。見るからにその筋の人の突然の訪問は、さらに俺を怯えさせたかもしれない。ジェジュンが、そう美しい君の姿が俺を救ってくれた。あの優しい温もりが生きる希望を与えてくれたんだ。
[ジェジュンさんは・・]
[ユノ、俺達はそう変わらない年でしょ?ジェジュンでいいよ]
確かにあの頃よりは少し大人になったけど、俺達はまだ成熟していない。青い果実に少しだけ色が入った所だろう。
[それは出来ません、親父さんに叱られます]
ふふっと、ジェジュンが笑う。
[ふたりだけの秘密を作らない?俺も同じ年頃の人と話がしたい。だって、みんな年上ばかりで話が合わないから]
ジェジュンは、どうして親父さんの愛人になったんだ?そう聞きたくなるのを抑えている。俺は新参者だ、そんなに踏み込んでいいわけがない。
[ユノ、高校って楽しかった?]
キラキラと光る瞳は、行けなかった場所への憧れかもしれない。親父さんの傍にいることを、生涯の掟のように決められたジェジュンの苦しみは想像すら出来ない。
[そうでもなかったです]
バイトに明け暮れた毎日、友達すら出来なかった。
[ねえ]
時々、ジェジュンはとても大人びた声を出す。
[敬語はやめて・・俺の友達になってくれない?]
返事に困る。ジェジュンは親父さんの愛人で、俺が軽々しく話していい相手ではない。どんなに望んだとしても・・。
黙っている俺に、ジェジュンがまた話し出す。
[俺を軽蔑してる?最低の人間だと]
驚きだった、そんな風に思ったことは一度もない。けど、ジェジュンの中では葛藤していたのかもしれない。こんな立場にいる自分に。
[ジェジュンさんは綺麗です。軽蔑するなんてとんでもない、むしろ憧れです!]
ヤバい!本音が出てしまった。
首を傾げてからクスクスっと笑う。
[また、敬語]
[あっ・・すみません]
ふふっと笑いながら、ジェジュン手を差し出す。あの頃みたいに。
[約束して、友達になってくれると]
震えそうで、なかなか手が出せない。何とか押し出すと、ジェジュンがその手を握る。
[約束だよ]
小指を絡めて親指でタッチする。約束の合図はジェジュンとが初めてだ。
[ねえ]
またジェジュンが大人の声を出す。
[ジェジュンって呼んでみて]
困る・・マジで難問だ。そんなに簡単に声に出せない。
[お願い]
ふう〜男同士の誓いは裏切れない。残念ではあるけど、親友でもいい。ジェジュンと親しくなれるなら、それはそれで嬉しいから。
[ジェ・・ジュン]
緊張した声。
[もう一度]
[ジェジュン・・]
ジェジュンが俺に飛び込んでくる。
[ユノは本当に俺の友達だよね?]
すごく寂しかったのかもしれない。大人の世界で気を張って、自分を保つのに必死で・・。
無意識にジェジュンを抱きしめていた。
[うん、俺はジェジュンの友達だ]
そう言いながら、やっぱり俺は別の感情と戦っていた・・。
おはようございます✨
結局、連載かいっ!いや、消化不良で(^o^;
今日も元気に、いってらっしゃい(=^・^=)*/*☆✨❤